アメリカの金利が急低下しています。久々に10年債で2%の大台を割り込みました。アメリカの景気が若干スローダウンしている兆候が小売売上などに出てきたのが原因と解説されています。それに伴って少し円高に動いています。ドル転のタイミングを計っている方にはふたたびチャンスが来ていますが、逆に米国債の投資タイミングは遠のいてしまいましたね。この二つは必ず相反した動きをしますので、円から米国債への投資には時間差が必要です。今後FRBの利上げがどうなるのか、ますます不透明になっているのが気にかかります。
さてTPPについて、私の考えをまとめることにします。最初に私は「TPPはアベノミクスで唯一評価に値するものだ」と申し上げました。その割には「個別にコメや牛肉を見ていくと本当の自由化などはなく、たいした内容ではない」と矛盾したようなことを言っています。しかしTPPで話題になるコメや牛肉は、合意内容のほんの一部でしかありません。もっと重要なことが多く含まれていて、それこそがより重要なのです。ほかにどんなものが含まれているか、実は大筋合意といいながら内容は公開されていません。そのため交渉の始まる以前に示された大枠をwikipediaからコピペしますので、さっと見てください。それを見ると目的などがぼんやりと見えて来ます。13年に日本が参加する以前の枠組みに関する合意です。
引用
2011年11月12日に拡大交渉は大枠合意に至り、輪郭が発表された。その中で、以下の5つが「重要な特徴」として挙げられている。
- 包括的な市場アクセス(関税その他の非関税障壁を撤廃)
- 地域全域にまたがる協定(TPP参加国間の生産とサプライチェーンの発展を促進)
- 分野横断的な貿易課題(TPPに以下を取り込みAPEC等での作業を発展させる)
・規制制度間の整合性:参加国間の貿易を継ぎ目のない効率的なものとする
・競争力及びビジネス円滑化:地域の経済統合と雇用を促進する
・中小企業:中小企業による国際的な取引の促進と貿易協定利用を支援
・開発:TPPの効果的な履行支援等により、参加国の経済発展上の優先課題が前進
- 新たな貿易課題:革新的分野の製品・サービスの貿易・投資を促進し、競争的なビジネス環境を確保
- 「生きている」協定:将来生じる貿易課題や新規参加国によって生じる新しい課題に対応するため、協定を適切に更新
同大枠合意に示される以上の交渉内容の詳細については、交渉参加国から公表されていない。
引用終わり
これで明らかなように、コメや牛肉のことは、1.の市場アクセス(関税)の一部分にすぎません。最重要ポイントは12カ国域内の将来の経済連携プラットフォームを構築するものだということがわかります。そしてそのプラットフォームは世界の経済連携協定の新しいモデルになることを目指しています。
私なりにさらに突っ込んで解釈すると、中国などの横やりを排除し、『自由主義・解放経済をベースとした世界経済連携の標準モデルで、今後のデファクトスタンダードになりえる』となります。EUというモデルはそれをさらに進め統合にまで至っていますが、TTPは各国が独立・主権を維持しながら連携をすることでお互いに繁栄を目指すものです。
おもしろくないのは世界で存在感を示したい中国でしょう。自由主義・解放経済とは程遠い独自のモデルを維持し、そのどこが悪いと開き直っています。世界があきれるほど技術やブランドの模倣をし、知的所有権の意識すらない国にスタンダードを作らせてはいけない。そのためには、早期の合意が必要でした。中国版アジア開発銀行であるAIIBはまだしも、為替制限を堂々と行っている国の通貨をSDRの構成通貨に加えるのは、私は反対です。都合が悪くなればあの株式市場の制限同様「今日から人民元の取引はしばらくお休みです」と宣言しかねない通貨は信用できません。通貨の価値は信用のみなのですから、SDRの信用に傷をつけないでほしいのです。
最後に再度日本との関わりを述べます。TPP問題の初回で私は次のように書いています。「TPPは自民党が自らの地盤をあえて崩したと言う意味で、非常に画期的だ」。岩盤規制に多少でもメスを入れた安倍政権の勇気をほめてあげたいと思います。
これまでいつも外圧でしか自己変革できない日本が、初めて外国と一緒に一歩を踏み出しました。貿易でしか生きていけない国がやっと正しい方向に歩み始めた、それが私の評価です。
次回から、新3本の矢について書きます。