世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

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半円の緑の中に広がるアルケスナン王立製塩所は壮大な理想都市の遺構です(フランス)

2014-02-09 08:00:00 | 世界遺産
 ベルリンの郊外に端正な建物群を持つのがサンスーシー宮殿でしたが、噴水をバックにした正面の美し差に加え、裏側の半円形の回廊も捨てがたいところがあります。弓なりの建物は、ヴァチカンのサンピエトロやイギリスのバースにあるロイヤルクレセントなど珍しくないようですが、いくつかの建物群が同心円状に半円形に並ぶ場所があります。それが、アルケスナンの王立製塩所跡です。今回は、かつて製塩所を中心にして理想都市の建設を目指した産業遺産を紹介します。

  アルケスナンは、フランス中東部のスイス国境に近い場所にあります。ワインなど食の都であるディジョンから普通列車をブザンソンで乗り換えて1時間半から2時間ほどの距離になります。世界遺産の最寄り駅にしては、こじんまりとした無人駅で、駅に周辺にもあまり人家がありません。製塩所の跡は駅のすぐそばにあり、建物群に囲まれた半径が200m以上もある半円形の場所です。

 アルケスナン王立製塩所は、18世紀に当時の国王の命によりルドゥーの設計によって建設されたもので、当時は貴重品であった塩を製造するだけでなく、工場を中心とした理想都市を作り上げるという計画でした。日本人の感覚では、製塩所は海水を原料として海のそばに建てられると思いがちですが、アルケスナンは地中海からも北海からも400~500kmも離れた内陸なのです。アルケスナンでの原料は海水ではなく、岩塩鉱近くの井戸水なので、海の近くではなく岩塩鉱の近くに立地をしたようです。



 
 
 半円形の土地の円周と中心を通る弦に沿って16世紀に北イタリアで、はやったパッラディーオ様式を思わせる建物が並び、その前に道があるほかは、見渡す限り半円形の芝生の緑が広がっています。半円の中心に位置するのが、所長宅でギリシャ神殿を思わせる列柱がありますが、同じような列柱は半円の頂点にある門にもあります。製塩工場の跡は、所長宅の両翼にあって、内部が公開されていますが、柱の無い大きな空間の中は何も無くってガランとしています。

 
 
 円周二沿った建物群は、事務所、厩舎、蹄鉄工場、樽工場などの跡ですが、樽工場跡が設計者ルドゥーの記念館として、理想都市の壮大な計画の内容が展示されています。設計構想が模型でも展示されているので、フランス語が解らなくても具体的イメージで理解ができます。現在の遺構は半円形ですが、当初の計画では円形の町になる予定であったようです。模型にあるのは、円形の設計構想ですが、その前の段階では、四角形の中に45度違う四角形を内接させた壮大なもので劇場なども計画されていたようです。四角形案は、国王の反対などによって早期に消滅したようです。設計変更された円形案も、資金面から半分の半円に縮小され、劇場なども作られなかったようです。

 アルケスナンの製塩所は、フランス革命後にも存続して生産を続けていましたが、19世紀には海水を原料とする塩との価格競争や原料の塩水の質が良くないこと等から生産停止に追い込まれます。廃墟のようになっていた製塩所跡は、20世紀になって、18世紀の理想都市としての都市計画をしのばせるものとして保存計画が生まれ1982年に世界遺産にも登録されました。アルケスナンの塩は、交通網の発達によって、海から遠い地方にも海水の塩を安く供給できる環境変化に負けてしまったのですが、ある技術が、自身の技術ではなく、周辺環境によって廃れてしまうことはIT分野でも多いように思います。いくら生産コストを削減するすばらしい技術も、生産拠点を人件費が安い発展途上国に移してしまう方策の前には日の目を見なくなってしまいます。