世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

畑の中に西洋とも東洋ともつかないような楼閣がニョキニョキの開平です(中国)

2011-05-08 08:00:00 | 世界遺産
 権力者が住居数に比例する税金逃れのために住居を壊せ!と命令したために、住民が自衛手段として簡単に壊せて再建も簡単な住居構造を考え出したのがアルベロベッロでした。三角形の屋根が連続する景色は、きわめて奇妙な光景ですが、西洋とも中国ともつかないような奇妙なコンクリート製の楼閣が林立するのが開平です。今回は、世界遺産に登録されてまだ余り時間がたっておらず、日本人にはなじみの少ない開平を紹介します。

 開平は、中国南東部、広州とマカオを結ぶ線を底辺として西に正三角形を描いたときに3番目の頂点に位置します。広州からもマカオからも高速バスでおよそ3時間程度で開平の市街に到着します。奇妙な楼閣群は、市街地からさらに西側に散在していて、路線バスなどの公共輸送機関を使って回るのは、かなりの困難を伴います。筆者の場合は、地元の旅行会社が主催するツアーを申し込みましたが、我々2人以外に申込者はおらず、結果的にはワゴン1台と運転手、ガイド、ガイド見習いの3人を貸し切り状態にしました。2人分の料金は、タクシーのチャーター料金の2/3程度で、ガイドも昼食もついてずいぶんと得をした感じです。

 開平に奇妙な楼閣がニョキニョキと作られた理由ですが、19世紀ごろには、このあたりは治安があまりよくなく、そのためもあって華僑としてアメリカやカナダへ多くの移民が渡ったことが始まりでした。北米の好景気に支えられて華僑の収入が増え、母国の開平への送金が増えましたが、それを狙った盗賊も横行したために、防備のために望楼形式の住居が増えていきました。この時に、海外に居る華僑から送られてくる欧米の写真に写った建物を真似てビルを作ったために、中国とも西欧ともつかない奇妙な外観を持った楼閣が出現したわけです。

 楼閣は鎮と呼ばれる村落単位でかたまって建っているもの、畑の中にぽつんと1基だけ残っているものなどさまざまです。鎮の中には、大部分は無住になってしまっている楼閣だけではなく、古い町並みがあり、人々が住んでいる現役の家並みが続いています。市街地に近い三門里は、名前の通り3つの門のある村落で、背の高い望楼はありませんがレンガ造りの家々が細い路地を挟んで密集して、独特の景色を作り出しています。

 
 赤坎鎮は、西欧風のアーケードが続く町並みで、連続して建てられた家並みのところどころに望楼が付けられています。川に面した長屋と表道路に面した長屋とがあって、川の向こうに見える家並みも美しいのですが、微妙なカーブを描く表道路沿いの家並みも捨てがたい味があります。ここには、映画のロケ地となった家並みも残されているようです。

 

 

 馬降龍村落群は、緑の中に望楼のてっぺんが顔を出し、楼閣の内部も公開されていて、開平を代表する村落の一つです。村落の中は、三門里と同様にレンガ造りの家並みもあり、その向こうに望楼がそびえています。無住になっている望楼の内部は、階下に台所があり、上の階に昇っていくと机や生活用品が残されていますが、家具に混じってご先祖の位牌の祭壇が一番目立つところに置かれていました。一族の血のつながりを尊ぶ現われでしょうか。頂上のベランダから眺める緑の中の楼閣群の眺めも、楼閣に登ることができる馬降龍の良いところでしょうか。

 
 一方、単独に建っている望楼には個性的なものも多いようです。個性的ゆえに残されたのかもしれません。
一つは、傾いた楼閣です。地盤の悪いところに建てたために、そばの建物ははぼ水平ですが背の高い望楼は10度くらいも傾いているでしょうか。ピサの斜塔が5.5度ですが、その倍くらい傾いていそうです。万が一倒壊した場合は、道路の方ではなく川の上に倒れこむようで、多少は救いでしょうか。
 もう一つは、ロボット楼と呼ばれるもので、幹線道路のそばにぽつんと建っています。その姿が、まるでロボットが立っているようなところから命名されていますが、背の高い雑草の中に立つ姿は亡霊のようでもありました。

 開平の楼閣の目的の一つは外敵から身を守るということでした。2階以上に上って、階段をはずしてしまえば、外敵は簡単に侵入してこれないでしょうし、屋上からは外敵の来襲を早くに発見できたことでしょう。さらには、壁に付けられた銃眼から応戦することもできたようです。最近のマンションでは、入り口に電子錠があるセキュリティをうたったものがあたりまえになっていますが、現実的には、効果があるとは思えません。指紋認証や顔認証など、ITを駆使した生態認証などをいくら導入しても、入館する人に伴って誰かが一緒に入っても、通常は防犯システムは無防備で、住民もとがめません。かえって、セキュリティをうたう為に油断する欠点の方が大きいかもしれません。開平の楼閣のように、物理的な防御の方が優れていそうです。