「セラピスト」 最相葉月 著 新潮社 2014年1月
心の病いについて、かって大きな影響力を持っていた河合隼雄と中井久夫、そして「箱庭療法」と「風景構成法」をわかりやすく紹介しながら、それはどういうものなのか、治療とはなんなのか、飛躍を避け、文字どおり手探りで書いたものである。
精神医学というと何かこわい世界のようであり、あつかう病についても考えたくないようなイメージがあったが、ここでは心の病いについて医学の診断治療というものでなく、まずカウンセリングという方法から入っている。カウンセリングが日本に本格的に入ってきたのは戦後、それも米国からのようだ。
とにかく、対象となる人、ここではクライエントと呼ばれるものの傍によりそい、辛抱強く話を聴く、言葉が出てくるまではいつまでも辛抱強く待つ、ということからカウンセリングは始まる。そういうことも知らなかった。
そして、カウンセラーとの間で、了解されれば、箱庭を使ったり、風景の絵を描いてもらったりしながら、それを会話の進行のサポートにしていく。ただこれはあくまで結果としてであり、強引に解釈をそこで加えたりはしない。
随分時間がかかる、たいへんな仕事であって、その後、現在のように病む人が多くなり、治療する側、カウンセリングする側の人が足りなくなってくると、このような方法は困難になってきているようだ。
それでもこの二人を中心にしたこれらの方法や事例は、この分野がどういうものか、どういう困難があるのか、また中には希望もあるのか、について、著者の説得力ある記述にまとめられている。
著者自ら中井に風景構成法を使ったカウンセリングをやってもらったり、最後は立場を逆にして中井に絵を描いてもらったりしていて、この難しい、でも少しずつ進められていく世界が、なんとか理解される。
最後には著者自身がこの世界に目を向けた事情も明かされ、驚愕するのだが。
このタイトルで読む気になったのは、書いたのが最相葉月だったからだ。彼女の「絶対音感」、「星新一」はその取材の充実と、じっくりとした説得力で読ませた。「セラピスト」も読むしかない。
そして、この世界とそれを病む人たち、治療にあたっている人たちについて、少し理解することができたように考える。著者に感謝したい。