モーツアルト:歌劇「魔笛」
指揮・ローラント・ベーア、演出:ウィリアム・ケントリッジ
サイミール・ピルグ(タミーノ)、ゲニア・キューマイア(パミーナ)、アレックス・エスポージト(パパゲーノ)、アイリッシュ・タイナン(パパゲーナ)、ギュンター・グロイスベック(ザラストロ)、アクゼナ・シャギムラトワ(夜の女王)
2011年3月 ミラノ・スカラ座、 NHK BS 2011年12月放送の録画
この魔笛の特色といえば、まずモーツアルトの他のものと違ってドイツ語の歌芝居という形だからか、もとから台詞部分が多い(ミュージカルみたいという人もいる)のだが、この演出は台詞が少し多いようだし、台詞を大きな声で出させているように思える。
それから、この非現実な背景を、手書きの影絵のようなプロジェクター映像を駆使して、うまく見せ(例えば動物など現実に見えるように、子供向けのように、ださなくてもいいわけだから)、時間の推移も見る者の想像力にまかせる、という美術、演出は面白いし優れている。衣裳は20世紀前半だろう。
「魔笛」はこのところ見る機会が多いが、見れば見るほど、先日も書いたように、この若い二人が試練を乗り越えお互いを思いやる真実の愛を見出す、というテーマが、むしろマザコンからファザコンへではないか、とより思えてきて、どうもあまり好きではない。特にザラストロの押し付けがましさ、周囲の賛美は目障り、耳障りである。
ザラストロと夜の女王は一時期夫婦で、別れた後に娘を取り合って争っている、という解釈は以前からあって、細部で台本と辻褄はあわなくても、そう見ておいていいだろう
それを救うのがパパゲーノなのだが、この演出では衣裳も地味で、つまり「鳥刺し」という異形、非日常が少しもない。歌手はうまいのだが、こう見えてしまうのは演出のせいだろう。
指揮のローラント・ベーアは、特にどうということはないが、いい音楽進行だった。