ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」
指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:バートレット・シャー
アンナ・ネトレプコ(アディーナ)、マシュー・ポレンザーニ(ネモリーノ)、マウリシュ・クヴィエチェン(ベルコーレ)、アンブロージョ・マエストリ(ドゥルカマーラ)
2012年10月13日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2013年11月WOWOW
2012年秋からのシーズンでオープニングを飾った演目。メトロポリタンの映像をこうしてたくさん見ることができるようになり、ロッシーニ、ベルリーニ、そしてこのドニゼッティなど、多くのベルカントオペラを観るようになった。日本ではよほどのオペラ好き、それも海外で見る機会がある人でないと、この分野はそんなに親しくないだろうし、どうしても真面目なというか音楽的には高度ではあっても重いものに接する機会が多い。
またこうして観ると、歌手たちにとっては、こういう演目がベースにあれば、声帯を酷使しないで技術を磨く機会も多いのでは、考えられる。
「愛の妙薬」は他愛のないラブ・コメディではあるけれど、人気があるのは今回よくわかった。若者が村一番の娘と結びつきたいのだが、自信もなく、また娘も注目してくれない。そこに行商のちょっとインチキくさい医者兼薬売り(ドゥラカマーラ)に相手をひきつける妙薬を教えられ(売りつけられ)る。観客からすると、おそらくただのワインで、そう思って飲めば少しは効くというプラセボ効果なのだが。
娘は村に来て駐屯している連隊の隊長と結婚するかというところまで行き、さて最後はいわゆる間違いの喜劇となり、たっぷり聴かせる名アリアのやりとりで、ハッピー・エンドとなる。
ドニゼッティはこの作品を短時間で完成させるはめになったそうだが、よほど体調もよかったのか、音楽は実に快適で、よどみなく進行していく。
中心となる四人の歌手、連隊長のクヴィエチェンと医者のドゥラカマーラ特に後者はぴたりと役にはまり、楽しませる。
ポレンザーニも、インタビューでも語っていたように確かに感情移入が難しい「椿姫」のアルフレードと比べると、のびのびしていて、その声を楽しめる。ネトレプコのアディーナはもう水を得た魚というか、おそらくこの役では現在トップなのだろうし、また彼女のレパートリーとして最上というか自身もっとも好きなものに感じられる。
ところで、メトロポリタンはその予算のどれだけを入場料でまかなっているのかはわからないが、よはりこういう演目で人をひきつけ、一方で意欲的な演目にも挑むという形になっていると言えなくもない。
こういう気持ちのよい「愛の妙薬」であれば、男女のカップルで観に行く価値はあるだろう。幕が下りて、まさに愛の妙薬で一杯やれば、なおさらである。
今回から文字の表示を一段階大きくした。もっと前からこうすればよかったのだが、やり方に気づかなかった。