メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ヴェルディ「エルナーニ」(メトロポリタン)

2014-01-29 11:35:32 | インポート

ヴェルディ:歌劇「エルナーニ」

指揮:マルコ・アルミリアート、演出:ピエール・ルイジ・サマリターニ

マルチェロ・ジョルダーニ(エルナーニ)、アンジェラ・ミード(エルヴィーラ)、ディミトリ・ホヴォロストフスキー(ドン・カルロ)、フェルッチョ・フルラネット(シルヴァ)

2012年2月25日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 

2013年10月WOWOW放送

 

ヴェルディとしては先の「ナブッコ」に続く時期の作品。以前にムーティ指揮スカラの録音を聴いたことがあるが、話が込み入っていたせいかあまり印象に残っていない。その時のエルナーニはドミンゴだったのだが。

 

さてこれは16世紀のスペイン、演出は衣装、背景もほぼその当時と思えるようなもので、大きな階段を多用した舞台は、理解しやすいものである。

 

王によって貴族の身分を剥奪されたエルナーニ(ジョルダーニ)には相思相愛の宮廷女官エルヴィーラ(ミード)がいるが、王のドン・カルロ(ホヴォロストフスキー)も彼女に思いを寄せている。そしてエルナーニがかくまってもらった貴族のシルヴァも、老齢でエルヴィーラの叔父でありながら彼女を結婚しようとしている。

 

こういう複雑で、しかもありえないような関係、ただオペラとしてはほとんどこの4人の歌唱と合唱だけで構成されていて、重唱もよくできているから、こうして字幕つきであることとあいまって飽きないで見ることができた。

ただ、音楽は充実しているとはいえ、特に耳に残る旋律はなかった。

 

4人ともレヴェルの高い人たちであるが、ここでまず注目されたのがエルヴィーラのミード、この人は2007年のMETオーディディションで選ばれたばかりで、この時のことは確かに覚えている。素質はあって、ロッシーニあたりのベルカントでなくいきなりヴェルディのプリマというのは大変だとはおもうけれど、見事だった。今回インタビュー役のディドナートがサザーランドの若いころを思わせるとコメントしていた。そうかもしれない。

ヴィジュアル的には恰幅がよすぎるが、あのオーディションで選ばれた女性は3人ともこのタイプで、今METのように大きいところだとこうなってしまうのかもしれない。もっとも今回はジョルダーニ(エルナーニ)も横幅のあるひとだから、デュエットを見ているうちに不自然でもなくなってくる。

 

ホヴォロストフスキー(ドン・カルロ)は力のあるきれいなバリトンで立ち姿もいいからこの役にはピタリだった。そしてなんといってもフルラネット(シルヴァ)が4人のなかでも聴かせる。老齢の負い目を意識しながら若い娘を好きにならずにはいられないという、一見変な感じになりそうな役であるが、うまい、そしてその気持ちを聴いているものにわからせてしまう。 

 

そういえば同じMETの「ドン・カルロ」(ヴェルディ)でフルラネットが演じていたカルロの父フィリッポ2世も、老齢ながら政略で再婚したフランス王女に対して、複雑な心情を歌っていて、今回シルヴァを聴いているとそっちも思い浮かべてしまった。

こういう心情を歌うバスとして随一だろう。

 

指揮のアルミリアート、こういう人がいるからMETはもっているのだろう。上記のオーディションでもこの人が参加者へのアドバイス、全体の仕切りなど、親切にかつ的確にやっていて、この大所帯を支えている。特にレヴァインが病欠になっている期間はなおさらである。

 

このエルナーニでも、たとえば一つの歌唱の中でドン・カルロの考えが不自然にころころ変わるようなところ、歌詞だけではおやっとおもうのだが、オーケストラがうまくそれを補完している。そのあたりのもっていきかたがうまい。

 

なおここに出てくるドン・カルロは、あの「ドン・カルロ」(ヴェルディ)のカルロの祖父だそうだ。もう死んだと思っていたら、最後にカルロを助けるために出てきた? 出てきたように見せた? あの先王である。

 

 

 

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