グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミーラ」
指揮:ウラディーミル・ユロフスキー、演出:ドミートリ・チャルニャコフ、原作:プーシキン
アルビナ・シャギムラトヴァ(リュドミーラ)、ミハイル・ペトレンコ(ルスラン)、アルマス・シュヴィルパ(ファルラーフ)、ユーリ・ミネンコ(ラトミール)、アレクサンドリナ・ペンダチャンスカ(ゴリスラヴァ)、チャールズ・ワークマン(よい魔法使いフィン/バヤン)、エレーナ・ザレンバ(魔女ナイーナ)
2011年11月 モスクワ・ボリショイ劇場 2012年5月NHK BS (製作フランス)
序曲以外は聴いたのも初めてである。新装なったボリショイだからか、現代的なちょっと変わった演出だが全体としては豪華だ。
キエフの公女リュドミーラと勇者ルスランとの婚礼、恋敵だったらしい北方の戦士ファルラーフと南方の王子ラトミールもそこにいる。ところが魔法使いのしわざか何かよくわからないままリュドミーラは誘拐されてしまい、三人の男はリュドミーラを捜す旅に出る。
そこからは、戦場で死者の持っている(聖なる?)剣を得る話、魔女が支配する娼窟で誘惑に逢う話(ここのところはかなり長い)、リュドミーラがとらえられている不思議な組織(この演出では精神病院らしきもの)、などが続き、しかし最後はよい魔法使いの力もあって、また宮殿に二人は復帰する。
ある種のパターン的な叙事詩である。これをその時代に忠実にやると特に真ん中の部分が長く飽きると思うのは自然で、そこでこの演出では、発端と大団円の宮廷場面はそれらしい舞台装置と衣装、真ん中のリュドミーラを求めて苦労し、誘惑にあう場面は現代に見えるように割り切っている。娼窟や精神病院はかなりきわどい見せ方をしていて、今のロシアはずいぶん思い切ったことをやる。
確かに、この真ん中の部分は、普遍的な人間の悩みと成長の話と考えれば、この作品では割り切って現代とし、観客を引き込む、という発想は、まずまず許容できる範囲であろう。モーツアル、ワーグナーなどでもかなり現代という設定はある。
しかし、最後の場面で主人公たちだけが放浪でちょっと汚れた現代の衣装のままだったのはどういうことなのだろう。もう以前の彼らではないというのだろうが、大団円としてはそこまで説明的でなくてもよかったのでは。
音楽は、あの有名な序曲以外にすぐ耳につくメロディーがあるわけではないが、歌手のレベルも高く、そしてユロフスキー(まだ若い?)のフレキシブルな指揮もあって気持ちよく聴けた。
初演が1842年、そのころ好まれたイタリアオペラに対抗してということだから、歌手の技巧を楽しむ要素があるのもうなずける。南方の王子はカウンター・テノールだろうか。そして彼が誘惑に陥るのを救うために郷里から出てくる女奴隷ゴリスラヴァの出番も多い。この役はその後のミカエラ(カルメン)を思わせる。
それにしてもこの序曲は傑作で、オーケストラはどんどん早く弾きたい欲望にかられていくだろう。ここで思い出したのは、グレン・グールドがトロントの放送局でホストを務めていた音楽番組のビデオでこれをピアノで楽しそうに弾きとばしながら解説していたこと。