メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

綿矢りさ「勝手にふるえてろ」

2023-05-31 14:41:09 | 本と雑誌
勝手にふるえてろ  綿矢りさ 著  文春文庫
 
2001年に「インストール」でデビュー、2004年に「蹴りたい背中」で芥川賞の綿矢りさ、2010年の作品である。
 
中学時代にひそかに眼で追っていた一目ぼれの彼、言葉もほとんど交わせないまま、会社員になって、一人の男性に惚れられるが、さて理想を追うか、現実をみつめるか、読んでいて普通に想像していると、そこはこの作者、そして女性はなにかちがうのか、いろいろ意外な細かい視点をともなって、この作者特有のうまい日本語で展開していく。
 
描かれる世界としては「蹴りたい背中」の流れにあるが、今回は大人の世界だからか、前作の洗練とはちがう読後感になっている。
タイトルの「勝手にふるえてろ」を言う相手が意外だった。
 
さて、綿矢りさの文章はこれまでいくつか読んだものを通じて冴えているのだが、最近思わぬところで発見があった。
 
1月のNHK TV「プロフェッショナル」は、大西寿男さんという編集者や作家から絶大な信頼をうけている校正者だった。その紹介の画面で校正した代表的なものの表紙が並んでいたなかに彼女の「インストール」があり驚いた。
 
デビュー作で雑誌掲載後の書籍化だが、校正はどの段階なのか、おそらく編集者がアレンジしたとすれば、その人の眼もかなりのものだ。そのことが彼女になんらかのアドバイスあるいは自信を与えたとすれば、本の世界というのはなかなかなものだと思う。

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