メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

2020-03-08 18:00:06 | 映画
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(Darkest Hour、2017英・米、125分)
監督:ジョー・ライト
ゲイリー・オールドマン(ウィンストン・チャーチル)、クリスティン・スコット・トーマス(チャーチル夫人)、リリー・ジェームズ(ミス・レイトン)、ベン・メンデルスゾーン(ジョージ6世)、スティーヴン・レイン(ハリファックス)、ロナルド・ピックアップ(チェンバレン)
 
先にアップした「チャーチル・ノルマンディーの決断」(2017)とほぼ同じ時期に製作されたが、アカデミー賞などで話題になったのはこっちである。
 
ノルマンディーが1944年6月であるのに対して、今回の方は1940年5月はじめ、宥和政策が失敗したチェンバレンでは議会がまとめられなくなり、自ら属する与党からは嫌われていたが挙国一致内閣を作るには他に策がないということでチャーチルが首相になる。ただこの時はもうドイツ軍はオランダ、ベルギーを席捲、フランスはダンケルクの海岸に迫っていて、ここにいるイギリスの大軍が窮地に立っている。
 
退陣したチェンバレンとハリファックスは、大敗を喫するよりはイタリアを通じた和平交渉に走ろうとし、ジョージ6世もこちらに与するが、チャーチルはカレーにいる軍をおとりにしてダンケルクから軍を安全に撤退させることを強行しようとする。
 
この攻防がドラマの中心で、チャーチルがいかに議員を、世論を味方につけていくか、彼の言葉、弁舌が見せ場になっている。
 
もう一つの作品ほど彼の内面を掘り下げようという感じはなく、夫婦仲の問題もそれほどではない。演出としては彼一人の動き、つぶやき、その時の表情で流れを見せていく。
 
そこでこのときうまく使われるのが、オーラルを文字にする役目で常にそばにいるタイピスト(ミス・レイトン)である。最初は慣れなくてぼろくそに言われるけれども、少しずつサポートができるようになる。特に彼女のそばにあった写真から兄がダンケルクの前に死んだと知らされる場面、二人の無言の表情だけのやりとりが見事である。ノルマンディーの映画でも、タイピストは同じ人なのかどうかはわからないが、やはり近親の写真がキーになっていた。こういう孤独な宰相を描くとすると、夫人とタイピストをうまく使うしかないのかもしれない。
 
ゲイリー・オールドマンは、このワンマンといえばワンマンの多面的な、そして論理的では必ずしもない頭と精神の強さをつまく表出している。
 
クリスティン・スコット・トーマスは「イングリッシュ・ペイシェント」などで好きな女優だが、ここはかなり老けた容貌で、そう悪妻という感じではなく、主役をうまく押し出している。
 
ますます感心したのはタイピストのリリー・ジェームズで、「シンデレラ」やテレビドラマの「戦争と平和」、「ダウントン・アビー」などで、瑞々しい姿だけでないところを示していたが、今回はじっと抑えながら主人を後ろから動かしていく役割を見事に演じていた。
 
演出ではてと思ったのは、チャーチルが決断を前に市民の考えをきくために一人で地下鉄に乗る場面。実際にはこういうことはなかっただろう。悩んだとき夢の中に出てきたとでも受け取ればいいのだろうか。映画というものを考えればだめとは言わないけれど。


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