メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

鹿島茂「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」

2017-08-22 21:11:25 | 本と雑誌
エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層 鹿島 茂 著 2017年5月 ベスト新書
 
トッドの論述には興味があり、またそれがこの半世紀の世界の変化をよく予言し、説明してくれているのも確かである。
ただこの人の著書は難しいらしく、それらに直接あたることはなくて、トッドへのインタビューがほとんどであった。
この本は著者がトッドの著作を読み込んで解説したもので、カバーする著作の範囲も広く、また読みやすい。
 
中心は世界各地の家族形態、その最近の動き、そしてそれによって説明できることである。
家族の類型は、親子関係(と権威主義)、同居、などから直系家族、絶対的核家族、(外婚制)共同体家族、平等主義核家族という四つを基礎的な分類とし、世界各国、各地域によって、これらのどれが主流が、主に外部との関係からそれらに変形が出てきている、といった分析説明が主に続いていく。
 
世界の今の各国、各地域の形態、事情はこれでよく説明できることが少なくなくて、なるほどと思うことが多い。
ただ、それは結果としての類型の観察に、どうしてこうなのかということの説明に、そういう形態の特徴が確実な因果関係をもっていたと充分に説明できる、つまり因果関係をもって証明できる、というわけではない。
 
それでも、硬直的な体制が必ずしも盤石というわけでもなく、トッドがいうように、国・地域の中で識字率、特に女声の識字率が上向きになり、特に女性のそれが50%を超えたときになにかが起こる、ということはありそうな気がする。
そして、どんな困った体制も永続的なものではないということも推測出来てくるから、少し楽観的に世の中を見ることができる、ともいえる。
 
最後のあたり、著者のよく知るパリ盆地の事情を反映してか、結婚の比率向上のための方策、子育て政策の受容性の指摘は納得できるし、さらに進んでシングルマザーへのサポートの強調は共感するところが多い。

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