メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ヴェルディ「ジャンヌ・ダルク」

2016-04-05 20:53:53 | 音楽
ヴェルディ:歌劇「ジャンヌ・ダルク」
指揮:リッカルド・シャイー、演出:モーシュ・ライザー
アンナ・ネトレプコ(ジャンヌ)、フランチェスコ・メーリ(フランス王ジャルル7世)、デビッド・チェッコリーニ(ジャンヌの父、羊飼いジャック)
2015年12月7日 ミラノ・スカラ座 シーズン開幕公演 2016年1月NHK BSPre
 
ヴェルディ(1813-1901)初期の作品で初演は1845年、演奏されることは少なく、スカラ座でもなんと150年ぶりだとか。問題はジャンヌ役のアンナ・ネトレプコも語って知るように、シラー原作による脚本の出来が悪く、ナンセンスなところが多いことだろう。
 
シャルル7世はイングランドにはかなわないと見ているし、ジャンヌの父はなぜかイングランドにつく。ジャンヌと王は相思相愛という設定。ただそのあとの戦況も、ジャンヌの最後もあいまいである。それだからだろうが、この演出ではすべては死の床にあるジャンヌの見た夢の中という設定にしてあり、王は顔も衣装も金に覆われている。最後もなにか宗教的な救済のようで、火刑台のイメージはない。
 
だからストーリーに対する興味は出てこない。特に父親がなぜこうも娘を邪悪視するのか、なんとも感情移入しがたい。
それで全体につまらないかといえばそうでもなく、音楽に集中すればこれはまぎれもなくヴェルディの音楽である。ヴェルディでは中期が好きだが、この音楽はすでに中期のいくつかにある魅力を持っている。中期の中では特に「椿姫」が好きなのだけれど、ここでジャンヌと父の二重唱は、「椿姫」のジェルモンとヴィオレッタの二重唱を思わせる。ヴェルディが後者を書くにあたって前者の感じが自然に出てきたのではないか。
 
主要な3人の歌唱は魅力もあり充実したものだった。特にアンナ・ネトレプコは、ロッシーニで活躍して後、ヴェルディに移ってきたところだから、まさにこの役はぴったりで、可憐さを残しながらも前に出てくる、そして輝きのある歌唱だった。
 
そしてリッカルド・シャイー、デビューのころから知ってるけれど、特にイタリアという感じに限定されないバランスの良さはこの歳になっても変わらず、そしてここスカラのオープニングにふさわし気持ちいいカンタービレがあった。

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