「善き人のためのソナタ」 (The Lives of Others 、2006、138分)
監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール
最後の最後になって二つくらいのどんでん返しがある。特に一番最後のそれ、このためにいろいろ仕掛けたか、と見終わってから思う。それが後から映画として評価しようとすると、ちょっとマイナス点にならなくもない。でも、こういう話の割には、退屈せずに最後まで見ることが出来たし、後味は悪くない。
崩壊前の東ベルリンの、文化人を監視する諜報機関の男(ウルリッヒ・ミューエ)とその上司(ウルリッヒ・トゥクール)、隣の部屋からほとんどすべての音を聴かれている作家(セバスチャン・コッホ)とその恋人の女優(マルティナ・ゲデック)。
女優と機関の男、この関係はどうしてもあの「愛の嵐」を思い出してしまうけれども、この映画では男が覗きの中で、作家が奏でる音楽(ソナタ)や持ち出した本にあった詩で相手と相手のよって立つところに惹きこまれていくというのは、ちょっと甘ったるすぎはしないか、と思う。
「愛の嵐」では、もっと人間の根本的な衝動(特に性的な)に触れるいくつかの要素があった。一方、この映画では、性的なところは通りいっぺんで、男と女優の間にあまりそれをにおわせるものはない。監督の立場は、あくまでヒューマニスティックというところなのだろうか。
ウルリッヒ・ミューエとマルティナ・ゲデックの二人は、その容貌も含めて、役柄にぴったりだし、ぎりぎりまで抑えた演技は見事だった。
ナチとユダヤ人の話でなくて、こういう映画が出てきたのは、評価できる。