メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

マクベス(無名塾)

2011-03-08 21:50:30 | 舞台

シェイクスピア 「マクベス」 
上演:無名塾、上演台本:隆巴、演出:林清人、音楽:池辺晋一郎
仲代達矢(マクベス)、若村麻由美(マクベス夫人)
2009年10月 能登音楽堂
2009年11月 NHKで放送されたものの録画
 
ちょうどこの年の11月、能登の和倉温泉、そして金沢に旅行したとき、県の知人がこの上演を見たことを聴き、放送されないかなと思っていたもの。あまり軽い作品ではないからか、録画をみるまでにかなり時間が経ってしまった。
 
番組の最初に仲代が語っているとおり、この演出と演技では、欲望にかられた凄みのある人間というよりは、普通のものが、魔女の予言というか、周囲の声、空気にその気になっていってしまう、そういう弱さを表出するという形になっている。どうしてもいつもの仲代のちょっと無理なユーモアがある口ぶりがでてしまうけれど、それもこの設定では範囲内といえるだろう。若村麻由美は外見にもっとやり手の雰囲気があることを予想したけれど、ちょっときれいすぎた。しかし、この女にかかればその気になってしまう、ということは確かである。
 
それとこの主役の二人の台詞は聞き取りやすく、それはさすがである。
 
そして池辺晋一郎の音楽、特にほとんど全編でてくるチェロの独奏、これは舞台の右側で奏者が奏でているのだが、人間の声となじみやすいこの楽器が、台詞を邪魔せずに、しかもその空気を補強して、見事。
 
ところでこのホールは、能登半島の先、東側を穴水から和倉温泉まで走る第三セクター能登鉄道、和倉温泉の少し手前「のとなかじま」近くにある。舞台奥がさっと開くと、そこは野原から森に通じるようになっていて、この借景は演出に使えるものになっている。
 
今回のマクベスでは冒頭で主役たちが馬に乗って登場するところ、そして終盤、まさかのバーナムの森が動いてくる場面、この二か所で使われる。効果的なんだろうが、ビデオでは衝撃がそれほどでもなかったのは残念で、これはやはり実際にに見るしかない。
 
マクベスという作品は、実はあまり見たい、読みたいものではなく、この愚かにも破滅に突き進むというタイプの劇は、「オセロー」も同様、好きではない。シェイクスピアの作品では、実は「夏の夜の夢」とか「あらし」とか、コメディの方が好きである。
 
この台本、魔女そのほか狂言回しのような人物たちが登場するときの台詞は歌舞伎のような七五調になっている。わかりやすいといえばそうだが、もう今の舞台、主役たちがこの今の言葉で自然に聞こえるようになってみれば、どうなんだろうか。
 
と、翻訳はとみれば、当然と言えば当然だがこれは小田島雄志。なつかしい。
小田島先生には大学教養課程で英語を習った。テキストはアイリス・マードック「切られた首」、作者も作品も当時としてはずいぶん進んだもの、と知っってからまだ10年経っていない。そういうものだろう。


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