メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

グルダのショパン

2010-03-14 17:30:17 | 音楽一般
フリードリッヒ・グルダ(1930-2000)によるショパンの演奏2枚組CDで、1954~1955年ころの演奏会録音である。発売はDGだが、最初は英Deccaの制作。
 
モーツアルト、バッハとグルダのアーカイブという感じでこの数年DGから出されてきたが、生誕200年ということでショパンなのだろう。でも、こうやってある程度まとめて聴けるとそれはいいことかなと思う。
 
このときまだ20代前半である。たしかグルダは20歳前にピアニストとしてのテクニックは完成してしまったと自ら語っていたように記憶するから、キャリアの途中でこなさなければいけないであろうショパンについてもお手のものだったにちがいない。
 
そうであっても、ベートーベン、モーツアルトなどで名をなしていったピアニストは、なぜかあまりショパンは弾かなくなり、あるいは録音しなくなり、それぞれのイメージを作っていってしまう。本人の意図か、マネージャー、レコード会社の意図かは別にして。
 
実は、いわゆるショパン弾き以外の人にもいいショパン演奏はある。これもその一つ。
 
「24の前奏曲」、これはおやっとおもうほどくぐもった音響で進んでいく。会場のせい、録音のせいというよりかなり意図的ではないだろうか。ペダルの使い方かもしれない。最初は違和感があるけれども次第にこの方が聴く者を中に引っ張り込んでいく。うまいピアニスト、その名演奏といわれるものは、もっときらきら音たちがこちらに降り注いでくる。それはいいのだが、なにか音楽は離散的になりがちだ。この曲集は明らかに一つのストーリーのもとに作られているのだろうから、こういう演奏もいい。
 
もっと激しい感じで違った方向ではあったけれど、ストーリー性を感じさせる演奏に、クリストフ・エッシェンバッハの演奏(1971)があった。あまり評判よくはなかったが、吉田秀和だけが評価して「黒の詩集」と書いたことを覚えている。
 
ピアノ協奏曲第1番、これも若いときでないと録音してくれない。でもやはりこうして聴くと、たまにはいいなと思うのだ。エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル、伴奏も一流。 
 
2枚目は4つのバラード、ノクターン、ワルツなどにバルカロール(舟歌)で、ライブならではか、楽しそうに弾いているのがいい。ベートーヴェンでもそうだったように、グルダという人は演奏すると出てくる自然の勢いをうまく使う。
バラード第1番のフィナーレ、あの大げさに駆け下りてくるこけおどしのような音楽、そうあのホロヴィッツはここで大見得を切ってみせたけれど、グルダもちょっとはずした形でやる。楽しい。
 
これまでに聴いたグルダのショパンは、アマデオに1960年ころ録音したアンコールピース集のようなLPに入っていた「ワルツホ短調(遺作)と「子犬のワルツ」(なんと!)だけ。全体にこういう商品を弾くと、エキセントリックなところをうまく織り交ぜながら楽しませるのだけれど、今あまり発売されていないのは残念だ。ドビュッシーなども再発売されないだろうか。
 
おしまいに入っているのは自作「EPITAPH fur eine Liebe」、「一つの愛に捧ぐ(碑文)」とでもいうのだろうか。ショパンの前奏曲ハ短調が最初にあって、そのあとはバラード風のジャズ・ピアノという感じである。しかしジャズとしてはちょっと思い切りが足りないというか、うまくいえないけれど。
そして、途中で突然、歌というよりグルダの語りが大きな声で出てくる。これは???
 
ジャズ・ピアノでこんなにダイナミック・レンジが広いってことはないし、それはそれですごいけれど。

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