メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

オイストラフのショスタコーヴィチ第2/チャイコフスキー

2010-03-09 13:06:38 | 音楽一般
ショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第2番」
チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」
ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ
ユージン・オーマンディ指揮ロンドン交響楽団(LSO) 
マキシム・ショスタコーヴィチ指揮ロンドンフィルハーモニー(LPO)
BBCのLEGENDSシリーズCD
 
オイストラフによるこの2曲の演奏はもちろんこれまでにも出ている。とはいえ、今回おそらく初めてリリースされたこのCDは、よくぞといううれしいものだ。
 
ショスタコーヴィチは、スベトラーノフ指揮ソビエト国立交響楽団とのロンドンにおけるライブ録音(1968年)がやはりBBCから出ていてる。これも持っているが、今回まだ比較はしていない。
今回のは1967年10月にモスクワでオイストラフによって初演された1か月あとロンドンで演奏されたものだから、この曲の演奏記録としてもより貴重なものだろう。
 
曲はスターリン時代の恐怖が反映しているといわれ怖ろしいカデンツァがある第1番とは趣がちがうけれど、構成、演奏テクニックの披瀝、感情など全てに関して、繰り返し演奏され、また聴かれていいものだ。
 
そして客演指揮者がなんとオーマンディで、このころの記憶ではこの人はポピュラーな名曲をあの世界一輝かしいフィラデルフィア交響楽団で多く録音しており、こういうものをやるというイメージではなかった。
もっとも広いレパートリーのポピュラー名曲がうまい指揮者というのは、カラヤンの例もあるように、現代ものをやっても達者なことがよくある。ここでも、特に最後の楽章など、見事なサポートで、演奏直後の拍手(日本のこれがよく批判されるけれど、ロンドンはそれ以上のことがよくある)は、オーマンディにも幾分向けられているだろう。
 
実はオイストラフのチャイコフスキーは聴いた記憶がないのだけれど、この録音の演奏は想像したより、表現の振幅も大きく、スピード感も見事であって、あのハイフェッツとは対極の名演奏だろうか。
録音は1972年、オイストラフ (1908-1974)がその晩年、このような自信に満ちた迫力ある演奏をしたということには、感慨が深い。
 
オイストラフというと、美しい音、恰幅がよく、押し付けがましくない、というイメージだった。リアルタイムでは。
聴くほうも若かったから、だから物足りないということもあったけれど、それでもベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲(ピアノはオボーリン)、そして、アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立交響楽団とのあの奇跡的なベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、これらはいまでも時々取り出して聴いている。 
 
ロストロポーヴィチ、リヒテルなどと比べると人がよくて、だからスターリン時代はこの二人からすると危ないと思われていたようだ。
若いころから天才だったのだが、1935年第1回ヴィニャフスキー国際ヴァイオリンコンクールに出場したときは2位、しかしこのとき1位の1天才ジネット・ヌヴー(15歳)の演奏を聴いて、残念がるどころか素晴らしい才能の発見と妻に伝えた、と何かに書いてあった記憶がある。さもありなん。
 
ついでに今回確かめるために調べたところ、アメリカに向かうエール・フランス機の墜落でヌヴー(1919-1949)は30歳の生涯を終えてしまう。これはよく知られているが、このときやはり犠牲になった乗客にあのエディット・ピアフが愛したフランス人プロボクサー マルセル・セルダンがいた、というのは初めて知った。ピアフの映画でも悲しみにくれる場面が記憶にある。

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