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メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

中 勘助「銀の匙」

2023-08-29 09:40:07 | 本と雑誌
銀の匙 中 勘助 作  
題名は若いころから知っていたが読んだのははじめてである。前に書いた荒川洋治「文庫の読書」にとり上げられていて、それではということになった。荒川はほんの一つ小さな話を紹介していたが、読んでみてその選択はなんとも秀逸だった。
  
「銀の匙」は中 勘助(1885-1965)が1913年に前編、1915年に後編を書いた文庫で200頁ほどの中編、主人公はおそらくこの時代の男の子、神田に生まれ小石川に移ったが、こどもどうしや家族内のやりとり、この時代のいろんな「もの」、風習、風俗などがえがかれている。ただ今回読んだ岩波文庫は注が少なくわかりにくいところもある。
 
それほど大きな展開はないが、細かい観察とていねいな描写が特色。
私の好きな「たけくらべ」(樋口一葉}ほどドラマの面白さがあるわけではないけれど、この時代のふつうの人たちのなさけが感じられるよさがある。
 
ところで「銀の匙」といえば、灘中学校の国語の先生が1950年代と1960年代、3年間この教科書だけで授業をしたことをきいている。選定教科書は一切使わなかったそうだ。
私も似たような私立校だったが、印象に残っている国語の授業はどちらかというと作品論、文学論だった。どちらがいいと一概には言えないが、一つの作品を徹底的に読むということのよさは確かにあるだろう。一つ一つの文章の読み方、それを通じて書き方も学んでいくと想像する。
 
文章の細かい読み方、書き方についてはあまり意識的になっていなかった。変わってきたのは中年を過ぎ谷崎潤一郎を続けて読むようになってからだと思う。

綿矢りさ「ひらいて」

2023-08-07 20:55:40 | 本と雑誌
ひらいて 綿矢りさ 著  新潮文庫
綿矢りさ(1984~ ) 2012年の作品
初期の「蹴りたい背中」からしばらくぶりの高校生の恋愛を描いた中編小説。
 
3年の女子生徒愛の一人称で書かれていて、彼女は「たとえ」という変わった名前の同級生男子を一方的に好きなのだが、ほとんど振り向かれない。あるきっかけで彼にはちがうクラスの美雪と数年前から知り合いで、男女のつきあいというより将来を話し合う友人という関係、しかし結びつきは強いということを愛は知ってしまう。
 
そこで愛は策を巡らし、美雪に近づき仲良くなる振りをして彼との仲を裂こうとするが、美雪を知るにつれ彼女と愛しあうことになってしまう。
 
この三角形は人工的ではあるけれど、そこは、前から知っているように、作者の優れて私の好きな文章で読ませ、説得力も感じさせる。
 
結末はちょっと混乱したところも感じられるのだが、登場人物たちの世代、生きることはこれから始まるということだろう。タイトルの「ひらいて」は象徴的に数回出てくるが、読み終わってみるとなかなかうまいネーミングだなと思う。
 
途中の会話の中に「春琴抄」(谷崎潤一郎)が出てくるけれど、私が好きな綿矢の文章、谷崎に通じるところがあると思っていたから、なるほど。

 

絵本読み聞かせ(2023年7月)

2023-07-28 09:08:53 | 本と雑誌
絵本読み聞かせ (2023年7月)

年少
おおきなかぶ(ロシアの民話 A.トルストイ再話 内田莉莎子訳 佐藤忠良画)
がたんごとん がたんごとん ざぶんざぶん(安西安丸)
こぐまちゃんのみずあそび(わかやま けん) 
年中
おおきなかぶ
きんぎょがにげた(五味太郎9
こぐまちゃんのみずあそび 
年長
おおきなかぶ
なつのいちにち(はた こうしろう)
そらまめくんのベッド(なかやみわ)
 
「おおきなかぶ」は保育士さんのすすめもあり前回同様年少組でもとりあげ、注意力が落ちないよう最初にした。インパクトのある絵とそのつながりには興味をもってくれたようだ。
絵を描いた佐藤忠良さんの展覧会に行って原画も見てきたこともあり、つながったというか、、、
 
「がたんごとん」と「こぐまちゃんのみずあそび」は、この時期園のビニールプールでみずあそびが始まっていて、おもしろいかな?と。

「きんぎょがにげた」は6月に年長組でやった時に比べると、逃げたきんぎょをみつけるのにだいぶ時間がかかったが、ようやくみつかるとかわいい。
 
「なつのいちにち」は田舎の昆虫、小動物が多く出てくる。今の都会の子がどのくらい知っているか試すのも楽しい。とんぼは知っていても、おにやんまを見たことはないようだ。昨年は一人いたけど。それでも小川にいるかわせみは知っていた。中心になるかぶとむし、くわがたは飼っている子もいるらしく、なんとその餌用のゼリーもあるそうで、そういう時代なのか。

荒川洋治「文庫の読書」

2023-07-14 10:00:56 | 本と雑誌
文庫の読書: 荒川洋治 著  中公文庫(2023年)
 
先日たまたま昼食で入ったビルにあった大きな書店でたくさん平積みになっている文庫本の中、おやっと眼についた。
荒川洋治はほぼ同世代で、以前ラジオ番組の週一(?)コラムで、本のことを中心にしゃべっていた記憶がある。なかなかおもしろく、なるほどを思うことも多かった。
 
この本は詩人でありたいへんな読書家である荒川が、新聞の連載、文庫の解説などで書いたものを集めていて、多くは読んだことがなく著者・タイトルも初めてというものが並んでいるが、紹介された本の内容紹介・指摘は本質的なところをうまく書いていて、この行数でよくもその本が好きになりそう、という紹介である。
 
明治から大正、昭和にかけては私小説の作家たち、あまりめぐまれなかった人たちも多く、こういう世界に批判的な文学論もあってなじんでいなかったが、荒川の手にかかると作者の眼とその表現がきわめて優れたものだということが理解される。
 
さてひまもあるから何を読もうかといってもなかなか、という状態だったが、少し改善されるかもしれない。ただ、リアルな本屋で出ている文庫本がほとんど並べているところがあればいいのだが、なかなか。入手はネットで出来るが、文字の大きさなど確認したいこともあるので。
 
一つ気がついたことで、今や文庫の発行元、種類は一昔とくらべるとたいへんなものだが、本書に取り上げられているものに、光文社古典新訳文庫が多い。この数年、知人から紹介されたものも含め、この文庫は私もいくつか読んでいる。出版社の企画として評価していいものだろう。
 
文庫本の紹介が連載であると、なかなか便利でもあり楽しい。以前週刊文春の読書欄に坪内祐三がコーナーを持っていて、荒川よりはもう少し娯楽むきなものもあったが、この人もかなりつっこんだもの好きだなあと思いながら愛読し、入手して読んだ文庫もかなりあった。
残念なことに早逝してしまった。

 

だるまさんが「日曜美術館」

2023-07-10 09:10:24 | 本と雑誌
昨日の日曜美術館(NHK Eテレ)は、だるまさんシリーズが有名な絵本作家かがくい ひろしさんだった。このところTVで三浦太郎、五味太郎など絵本作家が取り上げられることはよくあるが、関心がつよいのと、おそらく日本のレベルが高いことの反映だろう。
 
「だるまさんが」は4月の絵本読み聞かせでとり上げていて、この本についてはそこで述べたことににつきていると思う。
 
でもこの番組で作者の長いとはいえない生涯にふれると、感慨が深い。
作者は若いころ画家をめざしてはいたが、特別支援学校で幼児の支援指導を続け、中年になってから絵本を作り始め、数年間でだるまさんシリーズ(3冊)をはじめとする16冊を残し、病で急逝した。
 
その学校でのふるまい、絵本の製作過程の編集者の証言などから、このひとのものの見方とその先がいろいろわかってきた。
 
弱いもの、あまり見向きもされないもの、その同じ平面でなにか生きるちから、同類とのユーモラスなやりとり、そこから得られる元気、子供たちは直観で感じるのだろう。そしてそれはかがくいさんが学校での活動のなかで拓いていったものなのだろう。