いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

His Majesty's Dragon

2014年01月13日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 まとめ買いした洋書に入ってたCasino Royaleです。有名な007シリーズの第1作ですが、映画化は他の作品に遅れました。薄いしストーリーもギャンブル勝負とその後の誘拐ぐらいで割と単純ですが、カジノの公用語であるフランス語が多くて読むのに難儀しました。小説としてはちょっと物足りないですね。映画化が後回しになった理由もそこにあると思いますが、映像の力は大きいですから、カジノでの駆け引きとか贅を尽くした上流階級の散財振りとかを描けばそれなりの映画にはなるでしょう。

 この本の映画化は2回。ただし最初(1967年)は映画史上に残る怪作とされており、原作とほとんど関係のないストーリーで、デヴィッド・ニーブン、オーソン・ウェルズ、シャルル・ボワイエ、ウィリアム・ホールデンなどの超一流キャストをちりばめた、無駄に豪華なドタバタ。まともな映画化は2006年になってからなので、小説そのものも後期のものと思われがちですが、007の性格やアクションなども十分に描かれていない習作に近い作品です。

 ただ最初の作品ながらフレミングの嗜好であるカジノや高級車、豪華な食事、酒、タバコなどの描写は詳しくて、美食家、大酒呑みの快楽主義者だったフレミング本人が透けて見えます。作家としてのデビューが1953年、亡くなったのが1964年ですから11年間しか活動してないんですね。世界的な名声を得たことで贅沢に拍車がかかり、寿命を縮めた可能性があるのは皮肉なことです。

 こっちは大当たりのHis Majesty's Dragonであります。ドラゴン物には違いないのですが、偶然にドラゴンのパイロットになってしまった主人公ローレンスが実に好人物に描かれています。軍人として、また上流階級として自らを厳しく律する義務の念と、新たな職務に対する不安で板挟みになりながらも、固い絆で結ばれた理知的なドラゴンのテメレア、それから一癖ありながらそれぞれ仲間として尊重し合える空軍(もちろん飛行機じゃなくてドラゴンの)のメンバーと関わりながら人生を模索する若い士官の姿がとても魅力的。ドラマとして十分に読ませてくれます。英語も品があって読み甲斐がありますね。語彙が豊富なので辞書を引くのは大変ですが。

 これにナポレオン戦争当時の時代背景とか、政治の上での駆け引き、動物としてのドラゴンの生態などが絡まって、作者Naomi Novikの構成力の高さや知識、想像力が存分に発揮されています。好評で長編シリーズとなっているらしく、邦訳もされているのですが知名度は今ひとつ。ファンタジーとは言ってもハリー・ポッターなどと比べると大人の物語なので、日本では読者が限定されるのかもしれません。裏表紙の書評には「ジェイン・オースティンがパオリーニとダンジョンズ・アンド・ドラゴンズで遊んでいるような」とあるので、わかる人にはぴんと来るでしょう。オースティンはもちろん「高慢と偏見」などで名高い、ヴィクトリア朝以前で屈指の小説家。パオリーニは「エラゴン」などドラゴンライダーシリーズの作者。ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズはロールプレイングゲームの元祖で、元々はボードゲームですが、その後のPCやゲーム機におけるRPGの元祖。偉大な先達が築いてきた写実的長編小説や冒険物語の形式を受け継ぎ、違和感なく融合させた力量は賞賛されるべきものと思います。順番が逆になりますが、機会があれば「エラゴン」にも手を出してみたいです。

 年末の休みに読んでみた推理小説。情景描写が詳しくて、読んでいると京都に行ってみたくなります。作者の木谷さんは、若い頃に旅行ガイドブックの執筆や放送作家などいろいろやってた人らしいですが、55歳からの「旅情ミステリー」物が当たって人気作家に。肩の力が抜けた作風で、嫌味がなくさらっと読めるので大人の娯楽小説として上出来です。
コメント
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