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いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

名古屋市は高校入試を廃止できるのか

2022年07月06日 | たまには意見表明

7月4日の定例記者会見で、名古屋市の河村たかし市長が文科省から教育長を迎えるにあたって、高校入試の廃止を期待すると述べたそうです。名古屋市は市立の高校を運営していますから、まずはそこから始めることになると思うんですが、希望者をすべて入学させるだけのキャパシティはないでしょう。何らかの方法で入学者を絞ることは必要です。

市長は高校入試を実施しているのは「先進国で日本だけ」と述べたようですが、本当でしょうか。例えばアメリカでは公立高校を地区自治体が運営しており、そこに住所があれば基本的には入学できる仕組みだそうです。カリフォルニア州ではこんな感じ。しかし前提として、地区ごとの格差がかなり大きいんですね。教育レベルの高い公立高校があるのはかなり高級な住宅街のある地区であって、相当な収入や地位がないとそこに住めません。反面、スラムなどを抱える地区の高校は学力も低く、暴力や貧困、薬物乱用などの問題が起こりがちです。かつては平等化政策で、わざわざレベルの高い高校と荒れた高校の生徒をスクールバスで交換していたこともあるらしいですが、成果が上がらなかったらしく、今はやっていないはずです。それともちろん、都市部には私立の高校がたくさんあって、そちらは学力や学費などの条件が各校ごとにあり、入学試験を課す学校もあります。

この地区方式に近いやり方を実践したのがかつての京都府です。当時の蜷川知事の下、「十五の春は泣かせない」というキャッチフレーズを掲げて、公立中学校から地区の公立高校に無選抜で入学させる仕組みでした。結果として地区の高校内での学力格差が極めて大きくなり、相当な教育困難が生じたとされています。学業のみならず、部活でも入部者が平準化され、それまで特色のあった部活動で知られた高校の活動が低調になるという事例もあったそうです。ほとんどの中学生が高校入試に向けて勉強しなくなるということは、学力格差が大きくなりつつも下に向かって推移するということなので、京都の公立高校出身者の京大合格者数が減少する弊害も生じました。最終的にはデメリットが目立つようになり2013年に入試が復活しました。十五の春に泣かなくても、その後に泣いて暮らすようでは意味がないじゃないですか

アメリカなどの高校では、入学してからの飛び級や留年、降年が当たり前にあって、進学や卒業に要求される要件が厳しいために、教育可能な程度に教室内の学力格差が縮小されているようです。日本では生徒に遠慮して、余程の長期欠席や問題行動でもない限りは留年すら珍しいので、一つの教室に難関大学を目指す生徒と、学業は高校止まりで、卒業したら他の道を進もうという生徒が同居することになります。これでは教師の負担が大きすぎて指導しようがありません。Project Based Learningを持ち出したところで、目的意識の強い生徒とそうでない生徒が混在する場合は成果どころじゃないでしょう。複素解析について勉強したい生徒と、早く帰ってドン横に遊びに行きたい生徒がチームを組んだところで協業など無理です。河村市長がどのような解決策を持っているのか、既に失敗と評価された京都方式をなぞるような思いつきの策だけは避けて欲しいです。

河村市長の言う「先進国」では、いろいろな制度や風土の違いがあって、高校入試が日本ほど厳しくならないのでしょうが、反面、韓国や中国、インドなどの経済的に急成長している国々では、日本よりずっと厳しい受験競争があるのは周知と思います。いざアメリカの一流大学、一流大学院の合格者、GAFAに代表される超一流企業への就職者、あるいは一流科学誌の執筆者を見ると、これらの新興国からの移住者がすごい勢いで増えているわけです。こんな状況で、旧来の欧米流の初等教育、中等教育制度を無理に日本に当てはめる必要があるのでしょうか?日本がアメリカを見習うべきはむしろ世界一を続ける高等教育ではないでしょうか?

それに名古屋市は名古屋市立大学を運営しているわけですが、こちらの入試はどうするのでしょう?大学は全国あるいは海外からの入学も受け入れる前提があり、地元からの希望者だけを優遇することはできませんし、定員も決まっています。河村市長は高校入試が無駄だと言うなら、更に負担の大きい大学入試をどう考えているのか、意見を聞いてみたいところです。「子供さんが自分の好きなことをやって、みんなで応援してやる。」などというポピュリズムに酔って、名古屋の学童や生徒に無駄な苦労を押し付けないことを祈ります。

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工学系で博士になろう

2021年02月01日 | たまには意見表明

名古屋駅でこんなポスターを見つけました。13の大学が連携して工学分野の大学院生を募っているようです。この「卓越大学院プログラム」というのは、今までの大学院とどう違うかがわかりにくいですが、まあそういう名前で予算が付いたということです。違いを出すために、修士と博士の5年間をまとめて教育、評価することになってるみたいですね。工学系では学部卒か修士までで就職する人が多くて、博士まで行く人が少ないのでこんなプランが出てきたのでしょう。日本の企業は博士まで出た人を敬遠する傾向があり、大学に長いこといると潰しが効かなくなる、と昔から言われています。

すると、「スペシャリストにとどまるな。プロフェッショナルになれ。」というこのコピーは真逆のような気がします。就職せずに研究続けろってことなんですからね。大学受験生の間では、就職のことを考えて理系の人気が高まっているそうです。それを考えると、大学が連携する以上に、企業の協賛を受けた方が実効があるのではないでしょうか。例えばポスターの一角に「トヨタ自動車、キーエンス、日本電産協賛」つまり、博士取得者を優遇しますよ、とあれば、希望者が殺到するのでは。担当の方はこれでも一生懸命なのでしょうが、大学の内側の論理だけじゃなくて、世間が大学に何を求めているのかをもっと考えれば効果的だと思います。

旧帝大のうち北大、東北大、名古屋大、阪大。それ以外の国立大では横浜国大、福井大、山梨大、広島大、徳島大、琉球大。公立の都立大。私立では早稲田のみ。はて。国公私立13大学と書いてあるのに、12大学しかないぞ。

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ニホニウムの名称から脱線

2016年06月09日 | たまには意見表明
 113番元素の名前はニホニウム (Nh)に決まったようです。国の名前を冠した元素名としてはゲルマニウム (Ge)、アメリシウム (Am)、フランシウム (Fr)、ポロニウム (Po)、ガリウム (Ga)があって、それに肩を並べることになります。当初はジャパニウムとか噂されていましたけど、学術用語に慣例のラテン語読みで「ヤパニウム」とされるのを避けたのかと推測しています。ニッポニウムという説もありましたが、以前申請されたことがあって使えないのだそうです。詰まる音は外国人に発音しにくいので、ニホニウムで特に問題ないと思います。

 せっかくの5文字の新名称なので、何か語呂合わせをと考えましたが、ニホニウムですか。難しいな。科学用語で当てはまるのが見つかりません。

 無理やり頭文字に入れると、

二歳児の 保育園ない 日本しね 産めよ育てよ 無理だけ言うな




 話題に便乗してみましたが、どう見ても科学に関係ないですね。文才のなさを痛感します。なおこれは単なるお遊びなので、私個人の主張と完全に一致しているわけではないことをお断りしておきます。人様に見て頂くものに「しね」とか使うのは本意ではありません。
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消費税増税前の買い物

2013年12月09日 | たまには意見表明
 消費税が2014年4月から8%、2015年10月から10%に増税されます。これを受けて、新聞の折込には「今のうちにお買い替えを!」みたいな広告が踊っていますが、資金にも限りがあることで、本当に駆け込みで買っておくべきものは何でしょうか?


住宅:極楽家の場合は持ち家で引っ越す予定もなし、あとはローン返済と補修が必要です。先月、ドアを交換したのが増税前と言えば増税前ですね。ただし、これは冬に間に合わせたかったのと、防犯面での弱点を解消したかったため延ばせなかったので、ほとんど関連はありません。他にリフォームしたい箇所もあるのですが、どうしても高額になり工期も掛かるため、増税前に急いで施工することは考えていません。


自動車:消費税が10%になるのと引き換えに、取得税が廃止になるみたいですね。急いで買い換える必然はないと思います。極楽家のウィンダムは10万5千kmを越えていますが、今のところ大きなトラブルはありませんので、維持費が心配になってくるまでは乗ることになるでしょう。燃費は市内で6km/L台と悪いですが、年間走行距離がそう多くないため、燃費のためだけに買い換えても元を取るのは難しいでしょう。


家電:10年以上前のブラウン管テレビがまだ現役で頑張っています。この数年、液晶テレビの値下がりがずっと続いているため、正直言って買い替えの時期が掴めません。多分、壊れるまでは今のを見ると思います。昔は大型が普及する度に買い替えを考えたものですが、この古いテレビでも36インチあるので、今でもそんなに不自由はしていないのです。

 エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの大型家電についても、後から出るのが優れているに決まっているので、焦って買っても仕方がないと考えています。テレビのアナログ放送前は液晶テレビの売り上げが好調で店頭価格も高めに推移していましたが、アナログ停波後は需要の低迷と共に価格も一貫して下がっており、停波後まで待って買った人の方が得をしています。増税直前は家電もやや売り手市場のはずなので、今回も待てるなら待った方が有利だと予想します。


 こうして見ると、極楽家にとっては急いで買う必要のある高額商品ってあまりないんです。新しいのを買うことで、まだ使える古いのを廃棄するのは損な場合が多いし、増税後まで待っていれば新型が出る場合や、値下がりが見込める場合はそれを期待して待つのが有利です。テレビはその最たるものでしょう。

 と言うことで、消費税増税で確実に値上がりする小物や食料品を買い溜めることにしようと思います。例えばプリンタのインクとか、いずれ使う米やレトルト食品を買っておけば、少しは家計を守れると思います。
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河村たかし、大村秀章の決別

2012年08月15日 | たまには意見表明
 河村たかし名古屋市長および減税日本代表と大村秀章愛知県知事の対立が決定的になり、協力体制があっさり終わるようです。

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 直接のきっかけは、大村秀章が河村たかしの頭越しに大阪維新の会に接近していること。河村たかしは政界では大村秀章より活動歴が長く、大村秀章が当選した際には河村たかしの庶民的な人気が大いに助けになったと言われていますので、どうしても大村秀章が自分より格下だと思っていたようです。一方で河村たかしの「天然」なキャラクターは誰もが知るところで、元官僚のエリートで副大臣まで務めた大村秀章にしてみれば、河村たかしなど人気取りしかできないポピュリスト、ぐらいに思っているのでしょうね。

 早ければ今秋と言われている総選挙では、地方勢力同士の連携が生き残りの鍵と言われていますので、全国的に知名度のある大阪維新の会と何としても組みたいわけです。ところが減税以外にこれと言って政策のない河村たかしは、橋下徹に相手にされませんでした。財政改革という強力な動機のある維新の会と、とりあえず票を稼げそうな減税を旗印にしてしまった減税日本では、政策的に合わないのが当然です。それでも一緒にやれば選挙が有利になる、と考えたのは政局の人である河村たかしの本質でしょう。

 彼は元々民社党の春日一幸の秘書から自民党宮沢派(非公認)を経て日本新党と新進党、民主党で衆議院議員、そして名古屋市長になり減税日本を立ち上げる、という節操のない政治家です。自民党時代のキャッチフレーズは「気さくな40歳」「ボクは政治家の息子じゃありません!」という有権者を馬鹿にしたもの。選挙では減税以外の政策はほとんどなく、自転車に「河村たかし 本人」の幟を立てて走り回るだけ。議席さえ取れば後は何とかなるという印象で、政治家としての資質において、橋本徹や大村秀章に軽く見られるのは仕方があるまいと思われます。

 そこで、河村たかし人気に乗っかって愛知県知事になった大村秀章が、これを見限って単独で維新の会と連携しよう、というのは戦略として合理的です。まあこの人もテレビの討論で失態を重ねるなど、理念よりは利益で動く人という印象が強く、人好きのする人柄ではないですね。それだけに河村たかしと違って損得勘定はできるので、利害が一致する限りにおいては他の勢力と連携しやすいでしょう。

 総選挙では両者が対抗してそれぞれ候補を出し、潰し合いになるようですが、政策のない人と信用のない人の争いなので、維新の会のようなブームを作り出すまでは行かず、どちらも東海地方限定の小勢力で終わるような気がします。名古屋でもこんな低レベルの対立じゃなくて、本当の地域発展に繋がるような政策論議を見てみたいものですが。
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東京都営発電所への道

2012年06月28日 | たまには意見表明
 東京都は原発停止による電力の供給不安定を解消するために、自前で発電所の開設を計画しています。これまで電力不足への対応策として、「埋蔵電力の発掘」とか、いわゆる自然エネルギーの利用が喧伝されることはしばしばありましたが、本格的な火力発電所の建設計画は初めてであり、その成り行きが大いに注目されます。

 埋蔵電力の発掘と言われるのは、電力会社が稼動を停止した老朽発電施設や、企業あるいは病院などがバックアップ用に持っている発電施設を稼動して、需要のピークを凌ごうという発想です。例えば、関西電力が海南発電所2号機(定格45万KW)の再稼動をしていますが、これは昭和45年に建造された老朽機で、もう10年以上も使われていなかったもの。

 火力発電所って、原発と違って大々的に報道はされませんが、結構トラブルで止まっているんです。特に電力不足が懸念されている関西、中国地方に限っても、2011年3月の震災から今に至るまで、

2011年5月 関西電力 舞鶴発電所1号機(90万KW)が通風機の損傷により停止
2011年7月 関西電力 姫路第二発電所5号機(60万KW)が電子部品の損傷により停止
2011年7月 中国電力 三隅発電所1号機(100万KW)が蒸気漏れで停止
2011年8月 関西電力 堺港発電所2号機(40万KW)がガスタービンの羽根損傷により停止
2012年4月 中国電力 玉島発電所3号機(50万KW)が蒸気漏れで停止
2012年1月 中国電力 下松発電所3号機(70万KW)がボイラー配管の損傷により停止
2012年5月 関西電力 海南発電所3号機(60万KW)が配管からの漏水により停止
2012年6月 関西電力 南港発電所および姫路第二発電所(合計出力225万KW)でクラゲによる冷却水不足により出力を抑制

といった事故が報告されています。特に老朽化に伴い、通常火力ではボイラーの配管、ガスタービンでは羽根が損傷しやすくなり、定期的な点検に加えて、ある程度の予期しない事故は起こり得ます。このために電力供給には相当の余裕を見込んでおかなければいけません。「埋蔵」されていた老朽施設を活用する場合は、なおさら安全マージンが必要です。

 企業や病院のバックアップ用設備については、最初から「埋蔵電力」とカウントするのは無理なものがかなり含まれていると思います。例えば、私の勤務する病院では、年間の光熱水費が3億円弱、と事業概要にあります。年間の利益はかなり変動が大きくて、何とか数億円オーダーの黒字ということになっていますので、光熱費が大幅に嵩むことがあれば、たちまち赤字経営に転落します。自治体病院ですから赤字でもすぐに潰れることはありませんが、企業ならたちまち死活問題です。

 さて、その病院の電気設備は、受電用に変圧器の容量が12,175KVAとあります。これに対して発電機は、ディーゼル1,250KVAおよびガスタービン750KVAが2基。つまり、電力会社の電力は12,175KWまで受け入れられるが、自家発電は合計2,750KWしかないよ、ということ。外部電源を切られれば、普段の2割強しか供給能力がありません。従って、いざ電力会社が停電ということになれば、手術室とか緊急検査室、集中治療室のような緊急性のある設備に優先して電力が回されるはずですから、一般の病室や外来診察室、待合室などではエアコンなしで我慢して頂くことになりそうです。消費電力の大きいCTやMRIを深夜に稼動することになるかもしれません。

 それにしても、(全電力をまかなえない)病院の非常用電源だけでも2,750KWです。中部電力の「メガソーラーいいだ」の出力は1,000KW、同じく「メガソーラーたけとよ」は7,500KWに過ぎず、しかもこれは日中晴天時の最大出力。よって、「メガソーラーたけとよ」の年間発電量は730万KWhと想定されています。つまり最大出力で1,000時間ほど発電したら、今年の仕事は終わりだよ、という施設です。夜はもちろん使えません。これでは最新のメガソーラーといえども、実用性においては当院の自家発電設備にも及ばないということになります。

 ということで、もし原発を再稼動できないのなら、代替は新しい火力発電所以外にありません。問題は東京都環境局の文書にもあるように、多額の建設費用と運転までの建設期間が5年以上掛かることであり、また将来的な燃料費の高騰も予測されますが、ともかく東京都が自ら有効な電力確保に乗り出したことは、国や全国の自治体の範であり、大いに評価できます。

 この東京都の実践的な対応に比べますと、河村たかし名古屋市長は

と実にのんびりしています。浜岡の運転再開は数ヶ月で可能ですが、同規模の発電能力を持つ火力発電所の建設には、環境アセスメントなどを入れれば10年近く必要。今に至るまで何も動いてない人が言うべき言葉じゃありません。

 それに、
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ソニーはオリンパスに何を望む

2012年06月22日 | たまには意見表明
オリンパス、ソニーと資本提携へ パナソニックは撤退(朝日新聞) - goo ニュース

 上記の報道がありましたけど、わかりにくいですね。オリンパスは損失隠しが明るみに出て危機的な状況にあるにもかかわらず、「将来の追加出資を認めない」などの条件を付けており、日本企業では最も資金力のあるパナソニックが見限って撤退。ブランド崩壊で赤字が慢性化したソニーが筆頭株主になるそうです。オリンパスの強気はどこから来るのでしょうか?ソニーが手を引けば、後は海外の投資ファンドなどが飛びつくことはわかっているのですが、その際にはオリンパス社内は徹底的にリストラされるはず。ここまでソニーが弱気な理由がわかりません。

 ソニーも余裕があるはずはないので、提携したオリンパスが利益を出せなければ、株主代表訴訟もあり得るでしょう。ソニーの株主には海外の機関投資家が多いですから、説明のできない巨額な支出は容赦されません。それでは、パナソニックではなくソニーにとってどうしても欲しいオリンパスの資産とは何でしょうか?

 現在の一般的なイメージとしては、どちらもデジカメの会社です。ソニーは昔からデジカメを製造販売していましたし、ミノルタの光学部門を吸収してデジタル一眼にも進出しました。流行のいわゆる「ミラーレス一眼」でも先行しています。今更オリンパスのデジカメ部門を配下に置いたところで、撮像素子の拡販が見込めるぐらいでしょう。ソニーが今からフォーサーズ規格に手を出すとも考えにくいです。フォーサーズの提唱はコダックとオリンパスですが、実質的な盟主はパナソニックですから。

 そうなると、ソニーが欲しいのはオリンパスのコア事業である内視鏡ぐらいしか考えられません。一般消費者にはあまり知られていないのですが、オリンパスの医用内視鏡と顕微鏡はトップシェアであり、海外の投資ファンドもこれを狙っていると言われます。ソニーはどうしても内視鏡事業が欲しいために、不利な条件をあえて飲んだということでしょう。でも、堅実な商売とは言え、内視鏡の販売だけが目的でしょうか?

 テレビ事業が壊滅状態にあり、AV機器やゲームもiPhoneに顧客を奪われてさっぱり次の道が見えないソニーにとって、医療機器への進出は社運を賭けた悲願なのでしょうね。旧ミノルタは黄疸計など医療機器でも定評がありましたが、同部門はコニカミノルタに引き継がれて、ソニーへの転籍組には含まれていなかったようですから、今度こそ医療機器への進出を果たしたいのだと思います。

 技術偏重でマーケティングの失敗によりSAMSUNGやLGにテレビ市場を奪われた日本企業の代表がソニーです。民生用にはコスト競争力がない高性能モニターも、医療用なら生き残る道があると踏んでいるのでしょう。それなら、一般消費者相手の需要があるのかどうか怪しいスーパーハイビジョン(7680×4320)の開発になお執心なのもわかる気がします。

 それ以上に、医療機器でオリンパスの営業網を活用できれば、ここまで種と水を蒔いてきた医療従事者用サイト、m3との相乗効果が期待できます。いずれは法律の改正を待って、医療従事者の派遣や病院経営も睨んでいるでしょう。家電メーカーとしては地に堕ちたとは言え、ソニーの認知度はなお世界的なものがあります。新参企業の多いフロンティアでは、ブランドは大いに役立つはずです。もちろん、ソニー生命保険は健康保険市場の自由化を虎視眈々と狙っているでしょう。

 家電になおも注力しようというパナソニックと対照的に、ソニーは家電から徐々に足を抜けようとしているかのようです。今の流れが続けば、日本に残る大手家電はパナソニック1社、ただし生産の主力は海外工場。ソニーは音楽や映像配信と保険、医療サービスの会社に変身し、東芝、日立、三菱は重電や部品産業で生き残りを図るという図式になると思います。
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「原発停止はある意味集団自殺」発言に思う

2012年04月19日 | たまには意見表明
 報道によれば、仙谷由人政調会長代行が名古屋の講演で、原発を停止したままにしておくことは経済と生活への影響が大きく、ある意味で集団自殺をするようなことになる、と発言したそうです。

 さすがにロイターなどは発言内容に対して中立の扱いですが、中日新聞あたりは相当に批判的な記事になっています。今までの報道姿勢を見れば予想できることですが。中日のスタンスは、リスクとベネフィットを天秤に掛けて評価することなしに、リスクばかりを感情的に拒絶する読者層には共感されるでしょう。しかし同社が日本人の生活について責任を負っているわけではありません。

 石油価格、あるいは天然ガスの価格がどこで決まっているのか、理解できる人には仙石発言は妥当なものです。そう、どちらも市場で決まります。

 「オレんとこは、先祖代々オタクの店から炭を買ってるだ。これからも絶対に他では買わねえし、ガスに替える気もねえから頼むぞお。」と言われれば、意気に感じた店主が「おお、わがったとも。どこの家より安くしてやっから任しとけ!」と言ってくれるのはごく限られた経済圏だけです。世界有数のエネルギー消費国である日本の需要を賄う石油の量は膨大で、これを国際市場で調達しないといけません。「世界経済のネタ帳」によれば去年の原油輸入額は約1850億ドル。為替レートにもよりますが80兆円近く。これだけ巨額だと、ただ安定して購入するだけでも数多くのプロの労力が必要です。石油が日本の生命線の1つであることは疑いようがありません。

 その日本が原発を止めたとしたら、喜ぶのはヘッジファンドのマネージャーとか、アラブの王様でしょう。ヘッジファンドがすべての原油を買い占めることはできませんが、日本の石油依存が大きくなるぞ、という波に乗って先物相場を吊り上げ、勢いをつけることはできます。こうなると日本政府が介入しても止められない上昇基調になります。好例は1992年のポンド危機。大物とは言え一介の投機家であるジョージ・ソロスのポンド売りを契機に、「ソロスに乗れ!」と世界中の巨大投機資金がポンド売りに走り、イギリス政府の介入も空しくポンドの大幅下落につながった事件です。国家といえども市場の流れには逆らえないのです。

 自ら石油に依存する以外の選択肢を放棄してしまえば、投機筋の絶好の標的になるだけです。投機筋に膨大な利益をもたらすのは、もちろん日本人の資産。これが経済と生活に深刻な悪影響をもたらし、ある意味で日本人の集団自殺になる、という表現は何一つ間違っていません。もし菅元首相の構想みたいに原発を即時永久停止するならば、世界中のヘッジファンドから「日本はいい国だ」と感謝されるでしょう。それでなくても原発が次々停止することで、4兆円分の原油を余計に輸入せざるを得なくなったのが現状です。

 それでは化石エネルギー以外の再生エネルギーで、と言っても、まだまだ石油や原子力にコストと安定性で太刀打ちできません。石油や原子力の1kwh当たりの発電コスト試算は、条件次第である程度上下しますが、5円台から10円台。これに対してソフトバンクなどのメガソーラー業者が採算ラインとしているのが40円台。ソーラー発電はこの数年で始まったものではなく、何十年も前の石油ショック以来、巨費を投じて研究を重ねた末がこの程度なのです。近年では改良の余地があまりなくなり、技術革新がほとんどなくなったため、価格競争力の強い中国企業に生産が集中しています。市場原理に反してメガソーラーに莫大な補助金を投じたところで、喜ぶのはソフトバンクと中国企業だけです。

 「お金より命が大事」などと言いますが、公共インフラ、医療、食料、防災などを考えればわかるように、お金がなければ命も守れません。福島の原発事故は想定外の災害による重大な事例ではありますが、それでも被ばくによる死者はいないし、今までの医学的根拠に基づくなら、これからも死者が出る可能性はごく低いです。反面、全国の原発を廃止して電力が足りなくなることは、国民の生活つまり命を守るための財政基盤を著しく毀損することがほぼ確実です。これからも日本に住み続け、子供を守り育てる生活者として、仙石発言を支持せざるを得ません。
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Q-Cells 破綻に思う家庭のソーラー発電

2012年04月05日 | たまには意見表明
 2001年からソーラーパネルの商業生産を開始した新興企業ながら、ヨーロッパの自然エネルギー優遇制度の波に乗って急成長を遂げ、一時は世界最大のソーラーパネルメーカーでもあったドイツのQ-Cellsが早くも破綻と報じられています。最近ではアメリカのSolyndraやEvergreenといった上場ベンチャーも破綻しており、日本ではソーラーパネルの代名詞だったシャープが業績不振により台湾企業の資本参加を受け入れています。

 これらのメーカーを押しのけてソーラー発電市場を制覇したのはサンテックやインリー・グリーンエナジーなどの中国企業。圧倒的な低価格によりソーラー需要に食い込み、最近では「自然エネルギー振興策は中国企業を潤すためのもの」という批判さえ起きています。

 この10年、ドイツは巨額のソーラー発電投資により、以前はソーラー発電の電力量が世界一だった日本を大きく抜いて一位になっています。この原動力となったのが「再生可能エネルギー法」によるソーラー発電電力の買取制度です。ソーラーで発電した電力なら、電力会社は政府の決めた値段で買い取らねばならないため、電力会社の大きな負担になり、電気料金も他国に比べて高いそうです。

 ドイツに追従してソーラー発電への支出を大幅に増やしていたイタリアやスペインでは、「中国からパネルを買ってメガソーラーを設置さえすれば、それだけで20年間利益が出る」おいしい商売と化した売電事業が盛んになり、高価で質の悪い電力の買取量が加速度的に増えたことによる国や電力会社の負担が大きくなり、これが経済破綻の一因とされました。さすがにドイツ政府も極端なソーラー発電振興策を撤回せざるを得なくなり、今月から稼動するソーラー発電装置では、電力の買い取り価格が今までより大幅に切り下げられます。

 こうした動きが、日本に波及しないはずはないでしょう。現状でソーラー発電の発電コストは「エネルギー白書2010」の図第122-3-2によれば、火力、水力、原子力と比較して大幅に高く、メガソーラーが商売になるほど買取価格を高く設定してしまえば、電力会社と消費者の負担が年々大きくなるのは自明だからです。そうなると、20年で元が取れることを当て込んで住宅にソーラーパネルを設置しても、赤字になる可能性を考えないといけません。

 それでは、設置費用についてはどうでしょう?今の状況では、設置に対する補助が昔のように手厚くなることは期待できません。設置費用の値下がりについては?これも望み薄だと思います。パネルについては中国企業主導でかなりの低水準まで価格が下落しており、これからは総設置費用を決めるのが製品価格と言うよりも、現場における工事費だからです。パネルがどんなに安くなったところで、屋根に設置するためには足場を組み、職人が屋根に上って作業するため、あまりコストダウンの余地がありません。

 こう考えると、住宅のソーラーパネル設置で損をしない条件というのは、かなり限られた場合のようです。まず新築時か屋根の吹き替え時に同時作業してもらって、工事費を低減すること。それから遅くなればなるほど売電価格は下がる傾向にあるということ。

 極楽家については、例えば300万円の投資でソーラーパネルを設置して20年間で回収するよりは、その300万円で断熱改修として窓の二重化や付加断熱を工事してもらえば同等の費用回収ができるはずですし、何より確実に住み心地が良くなるだけに得な気がします。今の状況では、屋根の改修時にソーラーパネルを設置する案は没ですね。
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休眠預金は真の「埋蔵金」なのか

2012年02月16日 | たまには意見表明
 政府は古川元久国家戦略担当相を議長とする「成長ファイナンス推進会議」において、銀行などの金融機関で10年以上出し入れのない口座の預金、いわゆる「休眠預金」を政府が活用できないか検討に入ったと報じられています。

 かつての郵便貯金においては、郵便貯金法第29条の定めるところにより、10年間出し入れのない口座は貯金事務センターより連絡の上、権利消滅となり預金が国庫に収納されていたことがありますので、休眠預金の国庫没収そのものが新奇な考えというわけではありません。銀行はなべて反発しているようですが、対象となる休眠預金は年間最大800億円程度ということです。総務省統計局のデータでは国内銀行の預金残高は500兆円ちょい、このうち休眠預金が主に発生すると見られる個人の口座は300兆円と少し。金額そのものは、銀行が真面目に反発するほどでもないな、という感想を持ちます。

 この休眠預金の活用は、元々新党日本や日本財団あたりから出てきたプランのようで、その経緯はBLOGOSのコラムに解説されています。東日本震災により多くの休眠預金が発生すると予想されている現状では、震災復興に休眠預金を活用するという趣旨はなるほど説得力があるように思います。

 休眠預金の国庫没収そのものは郵便貯金で前例があり、法律が整備されるなら十分に可能である。また震災復興を目的とするなら個人預金者にも理解が得られる可能性が高い。それに金額も銀行経営が揺らぐほどのものではない。それではなぜ銀行が強固に反発するか、と考えて連想したのが、池田信夫blog「約束の破り方」です。

 池田さんは経済学者ですから、ここで言う約束とは契約、協定などの法律上の履行義務を伴ったもの。とは言え、どうしても履行できなくなるケースは存在する。その場合にどう対応すればいいのか。これも経済学の一分野である契約理論で研究されてきたことだと池田さんは説きます。池田さんの言い方を借りるなら、日本の銀行は契約履行において実に律儀だということです。契約の不履行に対しては村八分などの恒久的な制裁、つまりゲーム理論で言うところの長期的関係で対応してきた日本社会で、それも信用第一の銀行が「お客様の預金」を反故にしろだなんて、これはもう金額の問題じゃないわけです。

 約束を守ることは確かに古代から讃えられてきた美徳です。とりわけ日本では雨月物語 菊花の約(きっかのちぎり)の如く、命を捨ててでも約束を守る態度こそ立派だとされてきました。しかし守れなかったらどうするか?「腹を掻っ捌いてお詫びを」も歴史的には一案でしょう。しかし社会に出て働いてみればわかるように、どうにもならないこと、あるいは約束を解消した方が双方に利益があることも少なくないのです。

 いわゆる医療過誤がテレビで取り上げられ、大きな問題になったことがありますね。確かに技量のない医師やいい加減な医療機関は断罪されるべきです。しかし医療過誤のかなりの部分は、「誰がどう見ても正確な診断はできない。学会に出しても意見が分かれるだろう。」という判断において、たまたま現場の判断が、後から見た最善の手段と食い違っていたことから生じるものであり、これを「医療ミス」と言われては診療行為が成り立ちません。最善の結果を提供できなかったのですから、失敗は失敗として次の診療に役立てる義務は負いますが、それをもって長期的関係による清算、つまり該当医師の刑事罰などの過剰なペナルティを要求する当時の風潮には強い反発を覚えました。そんなことをしても誰の利益にもならないからです。

 医師が刑事被告とされ逮捕された福島県立大野病院の産婦死亡事件では、マスコミの煽りもあり医師に対する周囲の処罰感情が極めて強く、「一生許さない」などの感情的な批判が渦巻いていました。その後、詳細な医学的検討によりこの医師が水準以上の技量と判断力を持っており、決して検察が指摘したような無謀な医療行為はしていない、と証明されたのは喜ばしいことで、全国の患者さんのためにもこの医師が早く復帰してその技量を発揮されることを期待したものです。その後どうなったかは存じませんが。

 このように悪意がなくても、命を守る約束ですら状況によっては履行できない場合があります。このような場合に医師や医療機関を長期的に罰しても、医療行為の萎縮や撤退に繋がるため、多くの患者にとっての状況はむしろ悪化します。失敗を追及することより、これからのことを考えるなら、無過失補償のような仕組みの方がずっと有効でしょう。

 政治においても当初と状況が変わって履行できなくなる約束は少なからず発生します。古くなった約束で利益を受けていた側からすれば、約束を反故にすることは許されないでしょう。ただしこれを配慮しすぎると利権化して、国益を損ないます。今回の休眠預金の事案は政府が「約束の破り方」、つまり適切な補償と引き換えに利権を取り上げる方法を模索しているものと解釈すれば、これから戦後70年近くにもわたって積もりに積もった利権構造に切り込む前哨戦として、なかなか興味深いものがあります。

 もっとも、政府が休眠預金を没収したからと言って、金額は震災復興にとても足りないものですし、役人がお金を効率よく使えるとも思えません。従って、休眠預金が本当の埋蔵金に化けるかどうかは、これを先途として農政や米軍基地問題、電波行政など利権の巣窟、言わば「古い約束のスパゲティボール」をばっさり断ち切れるかどうかにあると思います。現状でそんな勢いを感じさせるのは大阪の橋下さんだけですけど、目の付け所は悪くないように思いますので、野田さんや古川さんにも期待だけはしてみましょうか。
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軽自動車規格は廃止を

2012年01月19日 | たまには意見表明
 アメリカで環太平洋経済連携協定(TPP)担当となっている米通商代表部(United States Trade Representative, USTR)は交渉開始に先立って意見を公募していたそうで、その中に自動車業界からの要望として「日本は軽自動車枠を廃止すべきである」とあったそうです。

 さて、面白いことが書いてあるかなと思ってUSTRのサイトを開いてみると、TPPのことなんかほとんど書いてないことに驚きます。日本中が大騒ぎしているTPPは、アメリカにとってたいした課題ではないということです。さすがにTPPのサイトも設けてはありますが、日本のことなんかさっぱり書いてない。TPP FAQとしてA4サイズの文書がたった1枚半。「現在のメンバーはアメリカの他にシンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ、オーストラリア、ペルー、ベトナムでありそれ以外の参加も歓迎する。」つまり国内でまとまっていない日本なんか相手にしていないわけです。TPPはアメリカが日本を陥れるための陰謀、なんて風説を広めている農協関係者の言い分に根も葉もないことがわかります。

 報道された軽自動車のことは書いてありません。他を検索しても読売系以外にほとんど扱いなし。アメリカ人の関心がないローカルニュースなんですね。だからアメリカの自動車業界も、日本の軽自動車枠を廃止すればアメリカ車が売れる、なんて本気で考えているわけではないでしょう。

 もし軽自動車優遇が廃止されれば、軽自動車よりやや大きいパッソみたいなコンパクトカーが売れるようになるでしょうね。軽自動車は日本の独自規格でありメーカーにとって量産効果があまりないので、大きさの割りに製造コストが高く、優遇措置がなければそんなに売れないはずのニッチ商品だからです。このニッチ商品が新車乗用車販売台数の3分の1を占める現状は、アメリカに指摘されるまでもなく異常です。新車乗用車の3分の1が本来の税負担を逃れているということだからです。

 元々軽自動車規格は、自動車の性能が低く、価格も極めて高価だった時代に、軽便な移動および輸送手段を安価で提供するためのものであり、排気量360cc限定の軽自動車免許制度とセットの自動車普及制度でした。それが自動車の普及と性能向上により軽自動車免許が廃止された今では、軽自動車枠だけを格段に優遇する意味が薄れています。

 360cc時代の軽自動車って、今の乗用車と比べると本当にオモチャみたいなもので、小さくて狭くて薄っぺらく、白煙ばかり出してろくに走りませんでした。できたばかりの高速道路では、よく軽自動車が動けなくなって路肩に停まってましたよ。小型のエンジンで馬力を絞り出すために2サイクルエンジンが多く、燃費が下手な普通車より悪い上にガソリン代よりオイル代の方が高いなんて不出来な車種さえありました。

 それが現在の660cc規格になるとどうでしょう。高速道路の走行車線を100km/hで走っていると、上り坂でも右側をぐいぐい追い越して行く軽自動車は珍しくありません。白煙も故障も長らく見たことがありませんし、衝突したら終わり、と言われていた安全性も大きく改善されています。自動車としては非常に高度な進化を遂げました。ただし優遇枠のせいでガラパゴス化し、高機能な車種では普通車より割高です。また優遇のない海外市場へはほとんど進出できません。

 いびつな軽自動車枠はそろそろ撤廃してもいいのではないでしょうか。アメリカの意図は軽自動車の代わりにアメリカ車を売り込むことではなく、日本市場の問題点を洗い出すことです。軽自動車枠のような非関税障壁を俎上に上げることで、もし日本がその障壁を撤廃するならアメリカに利益がないとしても損にはならず、逆に日本が軽自動車にこだわるようなら、これを材料にもっと重要な農産物や保険の問題で譲歩を要求するでしょう。アメリカは政府がTPP参加を重要課題にしていることを見越しており、ここで軽自動車枠にこだわるならばアメリカの戦術に陥るだけだと思います。

 実はTPP以前に軽自動車枠廃止の提案は何度もなされていました。それは主に普通車を販売しているメーカーからのもので、今や軽自動車だけ優遇することは時代に合わず、軽自動車メーカーを結果的には税金で救済している不公正な制度であるという趣旨です。

 これに対する反論が、地方では収入レベルが低く、しかも自動車が複数台必要な家庭が多いから軽自動車優遇はぜひとも必要だということでした。これが地方票の強い国会では相当の支持を得て、紆余曲折を経ながらも軽自動車優遇が堅持されてきたものです。もちろん都市部と地方との1票の価値の格差がここに反映しているのでしょう。

 もし普通車と軽、という今の荒っぽい区分を全面的に見直し、例えば燃費で税金が決まるような制度に改め、また複雑で高コストと批判の強い自動車税制全体を簡便化すれば、地方の消費者への影響は最小限で済むでしょう。自動車本体については、例えば小型車の販売が好調なインドで小型車を生産して日本仕様を輸入するなら、部品の共通化とスケールメリットにより今の軽自動車より安価な小型車が提供できるはずです。

 時代遅れの優遇税制が、軽自動車枠なのに実燃費でリッター7-8kmしか走らない(パジェロミニ、ジムニー)奇形車を生み出したので、こんな燃費の悪い車を優遇する必要などないはずです。燃費効率でプリウスを超える軽自動車は1台もありません。TPP参加を機会に、ぜひ軽自動車枠を撤廃して合理的な税制を導入して欲しいと思います。
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Chipotleは日本にやって来るか

2011年11月17日 | たまには意見表明
 日本経済新聞では毎年ヒット商品番付を発表していて、これを見るだけでその年がどんな年だったか実感できます。では市場経済本場のWall Street Journal (WSJ)はどうしているかと言えば、やはり毎年のInnovation Awardなる顕彰を続けていて、これがかなり権威のあるもののようです。

 取り上げられる商品やビジネスは多種の項目に分かれており、その紹介記事もかなり詳しいものです。これなら日経の大雑把な番付のように、東京スカイツリーとハイブリッド車のどちらが良い商品なのか、なんて意味のない比較をしなくて済むので、WSJの方が合理的と言えるでしょう。そのWSJが取り上げた、飲食部門のイノベーション大賞が、有機食材をふんだんに使ったメキシコ風ファーストフードチェーン、Chipotle(スペイン語なのでどう読むかわからない)の創業者であるSteve Ellsさんです。

 日本企業は技術偏重でちっとも儲かっていない会社ばかり、と揶揄されます。日本で「イノベーション」と言うと技術面での革新を考える場合が多いのですが、「池田信夫ブログ」で紹介された「ベンチャービジネスの幻想」なる本によれば、実際に新規起業する業種で多いのは小売、飲食、建設などであって、ハイテク大企業からのスピンアウト、などというカッコいい起業は極めて少数なのだそうです。

 従って、新規起業からの成長企業が経済を活性化している良い印象が強いアメリカでも、新規起業の本道はChipotleのような身近な産業です。日本では「すき家」みたいな存在でしょうか。ただし、狭き門であるハイテク企業の新興勢力もアメリカではGoogle(創業1998年), CISCO (1984), Microsoft (1981), Amgen (1980), Apple (1977), Genentech (1976)と綺羅星のように活躍しており、日本のハイテク企業であるキヤノンが1933年、村田製作所が1950年、東京エレクトロンが1963年、急成長のイメージが強い日本電産ですら1973年というのに比べて若く、企業の新陳代謝が活発なことが示されます。ソニーなんて1946年ですから、アメリカならもうお爺さん企業ですよ。

 閑話休題。国境を接するアメリカにとってメキシコ料理など珍しくないでしょうが、Chipotleが新しいのは、ファーストフードとしては本格的にFood with Integrityつまり地産地消や有機農産物の使用、予防的抗生剤投与の制限やホルモン剤投与の廃止といった、いわゆる持続可能な農業を通じて高品質を確保していることでしょうか。これと野菜たっぷりのメニューが好感を持って迎えられたらしく、WSJが注目するほどの成長を遂げたものでしょう。

 ファーストフードで有機農産物を使っています、というアピールは日本でもモスバーガーあたりが積極的なので、その点については大きな違いを感じないのですが、牛肉偏重のアメリカ人にはこれでも新鮮なコンセプトと思われたのかもしれません。それは置いてもメニューの写真を見るとなかなかおいしそうなので、手ごろな値段でBurritoやTacosなどの料理が楽しめるのなら、ぜひ急成長の勢いを駆って日本にも進出して欲しいと思います。
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今度はフカヒレ包囲網

2011年10月28日 | たまには意見表明
 TwitterでNew York Times (NYT)をフォローしていると、日本ではまず報じられないニュースが、彼の地では大きな関心事になっていることがあって驚かされます。欧米での感情的なクジラ愛護運動により日本の沿岸捕鯨や調査捕鯨が大いに迷惑しているのは周知ですが、今度は中国人や中華系の人、あるいは中華料理好きまでがターゲットになっています。

 まずはフカヒレの保有や販売、流通禁止法案がカリフォルニア州議会を通過し、州知事の承認待ちとの記事。ハワイ、オレゴン、ワシントンの各州では既に禁止法が成立しており、これで西海岸はフカヒレの流通が封鎖される見込みです。元々サメ漁などほとんどしないカリフォルニアですが、全米屈指の経済圏であり、富裕層も多いことから消費面での打撃が大きいと見られます。

 世界のフカヒレの半分は香港経由で販売されているそうで、サメ保護団体は香港に圧力を掛けたいようですね。中国人にフカヒレ食べるな、と言っても大きなお世話だと思いますけど。

 同じ流れで、トロントでもフカヒレ禁止だそうです。ここも中華系の住民が多いらしいですが、反対運動の広がりが大きかったのでしょう。この調子ではアメリカ、カナダのレストランでフカヒレスープを食べるのは不可能になるかもしれません。ただこれが欧米のスタンダードになるかと言えば、スペインなどサメ漁が盛んな国もあり歩調が合っているわけではありません。

 しかしNYTへの一般読者のコメントは今のところサメ取引禁止を支持するものばかりで、肉食人種のアメリカ人が中国人のことを「者ども」なんて、どの面下げて言うのかと思います。このシリーズはNYTの中では一応科学記事の扱いなんですが、科学的な資源管理の視点からのコメントがまるで見られず、感情論ばかりなのは捕鯨反対の時と変わりません。「かわいそう」とか「心配だ」とかいう感情は論理的なものでないことが多いですから、対話が成立しにくいのです。感情で突き動かされる人たちを相手にするだけ徒労になりかねません。捕鯨や放射能汚染に加えてフカヒレもまた感情論の迷宮に入ってしまったのかなという感があります。
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中日ドラゴンズの落合監督退団へ

2011年09月22日 | たまには意見表明
 シーズン中の急な退団発表ということで、かなり話題になっています。落合監督の今までの実績は、

2004年 リーグ優勝

2005年 2位

2006年 リーグ優勝

2007年 リーグ2位ながらクライマックスシリーズを勝ち抜き、日本シリーズで日本ハムを破り日本一。中日ドラゴンズにとって何と53年ぶりの日本一であった。

2008年 3位

2009年 2位

2010年 リーグ優勝

2011年 ここまで2位

と、8年間で日本一が1回、リーグ優勝が3回。最悪でも3位。これにはほとんど文句の付けようがありません。補強資金の乏しいドラゴンズがこれだけの成績を上げ続けるのは前例がないことです。

 この監督が退団(実質的に解任)ということですから、ドラゴンズも理解しにくい判断をしたものです。ネットでは早くも多くの書き込みがありますが、ほとんどが落合監督を支持し、ドラゴンズ首脳を批判するもの。時期監督に内定した高木守道氏が70歳の高齢で、

1992年 最下位

1993年 2位

1994年 2位

1995年 シーズン途中で辞任

と実績が華々しくないことも批判の対象になっています。これは当然でしょう。

 まともな判断ならとても今回の退団はないはずです。これだけの批判を受けながら危ない橋を渡る動機は、中日新聞本社の意向をおいて考えられません。

 と言って、今回は監督が交代すれば新聞が売れるというわけではありませんね。どう見ても落合監督より高木さんの方が地味ですから。来年の成績も低迷する可能性が高いですから、中日スポーツの販売も苦戦するでしょう。ネット上の意見で最も説得力があると思われるのは、中日新聞本社の経費削減が目的だろうとするものです。

 以前、「新聞はリストラしないのかい?」で新聞社の経営環境についてコメントしたことがありますが、読売ジャイアンツに資金力で圧倒されながらも、落合博満という名監督を得て何とか対抗してきた中日ドラゴンズも、本社の意向によりついに大幅なコスト削減に動かざるを得ないのでしょう。落合監督を解任し、年棒の高額になったベテラン選手を解雇する。そのコストカッターとして高木さんが利用されるのだろうという説には、なるほどと思わされました。

 中日新聞を購読していると、並行して郵便受けに入る多種多様なフリーペーパーが年々充実しているのに対して、新聞が何の手も打てずにいることが推察されます。かなりの広告がフリーペーパーに取られているんだろう、特にチラシで食ってる販売店は厳しいだろうなと思わされます。そのつけがドラゴンズのリストラということなら、新聞業界の構造的な低迷が原因であり仕方がないのでしょう。中日スポーツの売り上げを減らしてでも、経費を削る選択をするところまで追い込まれているということです。
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野田秀樹に見限られたAERA

2011年03月30日 | たまには意見表明
 朝日新聞社の週刊誌"AERA"(アエラ)にコラムを連載していた野田秀樹さんが、同誌3月28日号の編集方針に抗議して執筆を取り止めたことが話題になっています。

 マスコミの本質はセンセーショナリズムとは言え、この非常事態に冷静な情報提供を放棄して、全身防護服の作業員の写真と共に、赤字で「放射能がくる」とパニックを煽るような表紙を作ったことは、週刊ポストの「日本を信じよう」と対比するとあまりに品性劣悪であり、今なお多くの人が大手新聞社としての信頼を寄せられてきた同社あるいはマスコミへの期待を、1回切りの雑誌売り上げと引き換えに無にするものです。

 「週刊ポスト」の方は常日頃、際どい煽り記事や意味の分からないプライバシー暴露記事も少なくないため、「週刊現代」などと並んで私がまず読まない種類の雑誌ですが、今回はジャーナリストらしい仕事をしたのでしょう。残念ながら新聞、テレビやネットの情報で十分なのでやっぱり買いませんでしたが。

 今回のAERAの報道姿勢は、関東大震災当時に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」とデマを流した連中とさして変わらないもので、匿名掲示板やtwitterの質の悪い発言と同レベルの不確かな情報を、こともあろうに代表的な新聞社が広げようとしたことで極めて悪質です。野田さんが抗議されたことは至極当然であり、その健全な判断に救われる思いがします。

 幸い、AERAの多くの記事は表紙ほどひどいものではなかったらしいですが、だからと言って編集方針が免罪できるものでもありません。朝日新聞社はAERAの廃刊を検討するべきです。
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