関係のない写真ですみません。今年からホンダF1のカラーリングが地球をテーマにしたグリーン調に変わったという新聞記事は読んでいたのですが、実はとても大きなプロジェクトだったことがわかって驚いています。
F1は自動車レースの最高峰として君臨してきましたが、他にも特徴がありました。レースカーの表面を埋め尽くしたスポンサーの広告、とりわけタバコの広告です。一流チームになると、車体に小さなシンボルを表示するだけで年間数千万円とか言われる破格の相場にもかかわらず、タバコ会社はF1を媒体に積極的な宣伝活動を続けており、タバコ会社の名前を冠したチームは潤沢な予算を提供されました。
世界的にタバコのテレビCFに対する規制が強化され、映画やドラマの中でも喫煙をカッコ良く描くシーン(間接的なタバコ広告)が批判に晒されるようになり、またタバコの箱にも喫煙の害を表示する義務が課されるようになって、タバコが大々的にイメージを上げられる場がどんどん縮小して来ました。その最後の聖域がF1レースだったのです。
しかし、喫煙が悪性腫瘍や循環器、呼吸器の慢性疾患の大きな要因であることは統計学的に動かしようのない事実であり、分子生物学的な証拠固めも着々と進んでいます。しかもタバコには受動喫煙という犯罪的な副産物があり、F1が今までのような「タバコ丸抱え」のままで支持され続けるのか、私は疑問を感じていました。
実際、オーストラリア政府はF1を利用したタバコのイメージアップが国民の健康に有害であると判断して、同国内で開催されるレースではタバコ広告を禁止しているのです。メルボルンの市街地サーキットでは、どのF1マシンもタバコの広告を消して出走しなければなりません。タバコへの制限が強まりつつあるヨーロッパでも、オーストラリアに追随する国が次々に出てくるでしょう。そうなるとF1興行そのものが危機に陥ります。
喫煙という悪習は21世紀も公然と生き続けるべきでしょうか?F1は21世紀にも支持されるでしょうか?そして、ホンダは21世紀にも支持される企業でしょうか?ホンダの決断は明快でした。
ホンダF1のサイトを見ればわかるように、今年からホンダF1は車体に広告を表示しません。カラーリングは斬新なもので、今までの広告をべたべた貼り付けた繁華街の電柱みたいな車体を見慣れた目には極めて印象的です。
これで広告を取れなくなる替わりに、広告を表示しなくてもいいというパートナー企業や個人レベルの寄付を募ります。タバコ会社の存亡を賭けた広告費に比べれば収入は減少するでしょうが、それでホンダのイメージが上がるなら元が取れると判断したのでしょう。これには賛成します。ホンダの経営は好調であり、過度の負担にはならないと思います。
特に面白いのが個人寄付で、モノコックとかフロントウィングとか、寄付をする場所まで指定できるようになっています。"OUR CAR IS YOUR CAR"などと言われたら、ファンの人は堪らないでしょう。「自分のF1カーが走っている!」と思えば、眠気も忘れて深夜のレース中継に力が入るというものです。
ホンダは技術主導のメーカーでありながら、45年前の"You meet the nicest people on a HONDA"(素晴らしき人、ホンダに乗る)キャンペーン以来、イメージ作りには時として天才的な閃きを見せる会社です。今度のF1政策も、見ようによっては、環境規制対策車を得意とするホンダの販売増にも繋げられるということで、実利を期待する側面もあるでしょう。しかし、F1の未来像を示すことでファンが喜び、興行が成功し、会社も潤うなら、まさに本田宗一郎の説く「3つの喜び」に合致するものです。これこそ本当の商売上手と言えるのではないでしょうか。いろいろな意味でホンダらしい決断です。
ホンダの英断に対して、トヨタはどう反応してくるでしょうか。今年からのF1は、本当に新しい時代に入りそうで楽しみです。