ここしばらく、通勤の友に持ち歩いている新平家物語です。今更解説など無用な名作、と言うよりも既に古典平家と同じく日本人の貴重な文学資産と言ってもいい作品ですが、遅ればせながら読んでみるとやっぱり面白い。源氏が平家を駆逐したという単純な二元論からは大きく踏み出した解釈で、大きな時代の流れの中で様々な浮き沈みを見せる人間の姿が生き生きと描かれ、爛漫の花を惜しむように、陰りゆく月を惜しむように平家と王朝の衰亡を惜しみ哀れむ筆者の心が伝わってきます。筋書きがわかり切っている平家滅亡の物語を、これだけの大著にして飽きさせない内容の充実には感服するしかありません。もちろん、原典である平家物語が優れているからできることですが。
この六興出版版は最新の講談社「吉川英治歴史時代文庫」に比べると活字が小さく、巻末の解説がありません。年表や系図のないのはこの手の大河小説を読む上でかなり不便を感じます。ただ、「吉川英治歴史時代文庫」にも地図が添付されていないのは困ったもので、次の企画があればぜひ考慮して欲しいところです。