いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

ミシュランガイド東京版とCOTYで考えること

2007年11月22日 | たまには意見表明
 レストランガイドとして有名なミシュランガイドは、本家フランスだけでなくヨーロッパ諸国や北米にも進出しているそうで、この度初めてアジアに上陸し、東京版が出版されたことがちょっとした話題になっています。

 今まではフランス以外の国と言っても、古くから西洋料理として交流のあった範囲だけを対象にしていたミシュランガイドが、欧米人から見ればエスニックである日本料理をまともに評価しようと決断したわけで、ガイドの歴史における重要な転機であると言えます。

 早速、「外人に和食が評価できるのか?」などと疑問の声も出ていますが、ミシュランの調査員が外国人ばかりとは限りませんし、外国人に和食がわからないと決め込むのもどうかと思います。フランス料理がインターナショナルに評価されるのは、もちろん各国で顧客を見てローカライズした成果もあるでしょうが、少なくとも高級料理として地位を確立したのは、むしろフランス人が考える最高の物を追い求めた結果だと思います。

 世界で認められる日本の自動車会社の幹部が、「本当の国際化とは世界で通用する商品を作ることであって、言葉や慣習を合わせることではない。」と発言したことがあるそうです。ミシュランガイドが対象とするような高級フランス料理もこれに近くて、シェフがいい物を作った結果、顧客がそれを求めるようになったのでしょう。海外での和食のステータスは一般の日本人が考えている以上に高く、パリでもニューヨークでも高級日本料理店は評価されています。

 もちろん「和食のわかる外国人もいるし、高級日本料理店の需要もある」と認めた上で、やはり外国人と日本人の評価は同じではないでしょうし、同じである必要もないと思います。東京のレストランガイドブックはいくつも出ていますし、東京ならテレビに取り上げられることも多いので、好きな情報を選べます。フランス人の観点から作ったガイドがあることは選択肢を広めるでしょう。日本は、と言うより東京はもう十分豊かですから、ミシュランガイドを有難がる必要もありませんが、読んでみれば彼らなりの評価の基準がうかがわれて楽しめるのではないでしょうか。

 もう一方の日本カーオブザイヤー (COTY)についてはちょっと困ったことになっています。もう長らく、「COTYを受賞したクルマは売れない」などと誇張されて言われるように、大掛かりなイベントと実際の販売が結びつかなくなっているからです。今年はフィットだから売れるでしょうけどね。

 レコード大賞などと同じで、国民的な乗用車などというものがなくなってしまったのでしょう。技術の進歩により「いいクルマ」は増えましたが、「欲しいクルマ」は人によって違ってきました。高級乗用車をステータスシンボルとして、違いもわからないのに大枚をはたく人も少なくなりました。例えば、世界で認められている最高級量産乗用車のトップはベンツSクラスでしょうし、日本ではレクサスLSになるのでしょうが、私はどちらも欲しくありません。

 そろそろ、COTYのようなイベントは部門賞だけに限定するのがいいと思います。自動車産業も市場もすっかり成熟したのです。他の成熟産業を取っても、「今年最高の本」とか「今年最高の服」なんて国民の多数が認めるような商品はないですよね。その代りに本では部門別のベストセラーがありますし、多様多彩な文学賞もあります。クルマもあんな形では駄目なのでしょうか?

 クルマを文化として楽しむには、COTYのようなちょっと子供っぽいお祭りも必要なのかも知れません。しかし日本の、特に都会で趣味としてのクルマが定着しないのは、ひとつには一般の人に複数のクルマを所有することが難しいからです。高くなったガソリン代や駐車場代などは仕方がないとして、広く普及した乗用車の税金が高いままなのは合理的でしょうか?

 自動車取得税、重量税、揮発油税など各種の税金が課され、しかも道路建設のためという名目で暫定的に高い税率が適用されています。これが道路特定財源です。この道路特定財源を国の一般会計に繰り入れることが検討されていますが、道路整備の役割が終わったのなら、暫定税率を廃止して本来の税負担に戻すのが当然ではないですか。

 いつまでも暫定税率を続けるのは感覚として無理がありますし、一般会計の赤字を自動車の所有者だけが高率に負担するのも不自然です。自動車のせいで社会的コストが増大するという説もありますが、戦後の日本人の多くは自動車で食って来たのです。まして財政赤字を作った主因は自動車ではありません。自動車重量税から転用した税金を例えば採算の取れない整備新幹線に使うことになれば、受益者負担の原則を大きく踏み外し、しかもその偏った経済効果と予想される更なる国庫負担から判断すれば、一種のモラルハザード(顧客である国民に整備新幹線のコストを誤って低く評価させるから)とも言えます。

 どうせ地方ばら撒き、業界や圧力団体への配慮で動かざるを得ない国としては、新たな一般財源を得たところで有効に使われるかどうかは疑問です。それより暫定税率分を納税者に返すことで、新車をはじめとする有効な需要に向けさせた方がずっと健全な経済成長が見込めます。自動車諸税の減税により世帯当たりの保有台数が増加すれば、広い裾野を持つ産業が潤うのです。地方の土建屋にばら撒くよりもずっと有効な使い方でしょう。

 そうなれば2台以上の所有が簡単になり、趣味としてのクルマも見直されることでしょう。COTYを盛り上げようとするなら、もっと政治にコメントしないといけません。「クルマが増えると環境問題が深刻になる」って?大丈夫ですよ。1人が10台のクルマを所有したところで、一度に乗れるのは1台だけ。ガソリン代の高騰もあって、普通の人なら2台所有していたところで、できるだけ乗らないようにするでしょう。それでも「いざと言うときにもう1台ある」というのは有難いし、持つ楽しみだってあるのです。

 環境のためにクルマの所有台数を制限しようという論は、単に持てない者の僻みを煽って環境問題を捻じ曲げているだけです。クルマの平均耐用年数はどんどん延びており、また廃車のリサイクル率は電化製品などに比べても十分に高いので、材料の無駄遣いという指摘も当たりません。真面目な環境保護者から見れば、そんな似非環境保護は明確に排除して欲しいと思っているでしょう。むしろ規模が大きく、リサイクル率の低い建築資材に目を向けるべきです。

 ミシュランガイドは元々タイヤの販売促進を狙って、当時は贅沢品であった乗用車で食事に出掛けるお金持ちのために作られたものらしいです。3つ星の基準として「レストランを目当てに旅行する価値あり」と書いてありました。郊外のレストランに行く人が増えればタイヤもそれだけ減りますからね。往時のフランスでは、自動車で郊外の高級レストランに乗り付ける客と言えば、資産家とその愛人のカップルが想定されたそうです。

 自動車重量税が導入された高度成長期の日本も、まだ乗用車はステータスシンボルと認められていましたし、少しでも高級な乗用車を手に入れたい人は多かったです。あの頃の日本で、レストランを目的に旅行する人なんて相当な資産家だったでしょうね。

 時代は変わって自動車がまともな速度で走れないアジアの大都会、東京が「世界有数のグルメ都市」としてミシュランガイドに案内されるようになりました。「ミシュランガイド東京」の利用者は、外から東京のホテルに泊まって星付きレストランに向かうのでしょうか。あるいは家族の記念日に電車やタクシーで都心を目指すのでしょうか。自動車やレストランは大衆化しましたが、自動車の税金だけが昔と同じ発想というのは納得がいきません。

 「道路特定財源」と言いますが、最初から国の金だったわけではありません。その前に「自動車ユーザーの特別負担金」であることを思い出しませんか?いわゆる「道路特定財源」の一般会計繰り入れに反対します。
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