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電話室便り
ビヨンド ザ ミズーリスカイ / beyond the Missouri Sky
2010-12-14 / 音楽
自分のものなのに、意思だけでは踏み入ることのできない心の中の鍾乳洞みたいな
場所って、確かに存在するんだなあ、と、このアルバムを聴いているとわかります。
その鍾乳洞は、無音に近いくらいの静けさで、遠い昔に出会ったいろいろな場面や、
いろいろなもの、人、音、匂い、色、景色、なんかが、壁や柱に全部埋め込まれ、
そのまま保存されているのです。
すっかり忘れてしまっていたかっての出来事とその時の感情、その時の自分。
なんとも懐かしく、いとおしく ・・・・・
そして、人生とはいかにかけがえの無い瞬間の連続であるか、と、さざなみ立つ感情に
揺れながら思うのです。
人が心の奥の奥に無自覚に持っているとても親しくも遥かな場所に導いてくれるのは、
二つの弦楽器とその操り手たち、
ギター : パット・メセニー 、ベース : チャーリー・ヘイデン 。
このアルバムでのパット・メセニーは、決して前に押し出ることなく、常に控えめです。
ギター小僧の神様の一人である彼の通常のエレクトリックな超絶技巧の音楽世界から比べる
と、物足りないでしょうか? らしくない?
そして、チャーリー・ヘイデンのベース、速く弾くとか、見せつけ目立とうとするような
派手なベーシストとしては知られていません。 地味すぎるでしょうか?
このアルバムは、アメリカ・ミズーリ州の片田舎、リーズサミット ( パット ) と
フォーフィス ( チャーリー ) でともに育った二人が、長い間温め望んで、やっと実現さ
せたデュエットアルバムなのです。
パットはアコースティックのみを望んだそうですが、話し合い、音楽の幅を広げるために
いろいろなインスツルメントを織り交ぜて。
控えめでいながら、一音一音がそれ以外にはないという感じで迫ってくる、
” 意味 ” のあるギターとガットストリングのベースの音、音、音、そして
重なり佇む残響の優しさ。
選ばれている楽曲は、二人でここでやりたかったことをより一層私達に伝えます。
( チャーリー・ヘイデンのオリジナル曲の中でもその美しさと物悲しさで際立つ 『 First-
Song 』は、スタン・ゲッツがその死の直前のライヴアルバム 『 People Time 』で演奏
していて、テナーサックスとピアノ( ケニー・バロン )という同じデュオ演奏の聴き比べ
も機会があれば是非! どちらも最高に沁みます! )
このアルバムは、きっとどなたも繰り返し、繰り返し、幾度となく聴き続けるタイプの
一枚だと思います。
演奏する二人とは、国籍も年代も環境も、何もかもが違う、なのに、心掻き立てられ、
ちょっと不安になり、寂しさ、かつて愛した愛された確かな暖かさ、遠くかすかな思い出
に泣きたくなる ・・・・・ 人間的な、脆くもいとおしい様々な感情を伝えたい、という
メッセージが、彼らの紡ぐ音楽によってきちんと届く、聴く人一人一人に。
弦楽器が得意とする技で、名手が奏であげた、珠玉の短編集、といったところでしょうか。
聴き終えると、その日はずーっと 四曲目の 『 Two for the Road 』 のフレーズが
頭の中に流れ続ける私です。
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