「ユリア・カエサル 当ブログでの記事」
少し前の、しかしカテゴリーは「ローマ」にしておいたライトノベル『ユリア・カエサルの決断』に関してもっと言いたいことが出てきた。どのカテゴリーにしたものかたいへん迷うところであるが、比較対象がマンガも出てくるのでマンガにしておく。
ネタバレはあるので嫌な人は避けて頂きたい。
まえの記事とダブるけど最低限の説明をするが、
古代ローマの好きな男子高校生のセイヤが女神ディアナに命じられて飛ばされた世界には巨乳美少女のユリア・カエサルがいて、彼女をサポートすることになる。
ガリアを降して、ユリアはセイヤに「アウグストゥス」の名を授けたーーというところまでが1巻の流れである。
つまりこの世界には、我々の知るアウグストゥスがいない。大ざっぱに言えば、アウグストゥスが女神と契約してセイヤに生まれ変わっていたということらしい。
セイヤも、「かわいい坊や」なんて言われているところからしてまあまあの容姿であるようだが、絵の上で特別感はない。男読者が自己投影するためには男主人公が美形過ぎてはいけないということなのであろう。
カエサルの要素であるハゲの女たらし、借金王、これらのうち、借金王はそのまま引き継いでいる。
ハゲという欠点を、当時のローマの女にはマイナスである「巨乳」に置き換えている。・・・都合良すぎないかい。女読者が巨乳設定を嫌がるとは限ったものではないのだが。
カエサルは長身痩躯が史実である。筋骨たくましい男を女に移すならば「せくしーだいなまいつぼでぃ」になるだろうが、細身型ならば女にしても細身のほうが妥当ではあるまいか。
しかし、この点はまだ罪がない。
「女好き」という要素を、ユリアもまた持っている、ただし、美女やかわいい女の子に声をかけまくりプレゼントをし甘い言葉をささやき、という程度、せいぜいハグ程度。
そして、男に対してはウブ。
女好きな男を性別逆に移すならば、男好きの女になるのが自然な発想ではないのか?しかしそうはしていないのである。それで、たわいのないレベルの「女好き」ーーガチ百合だと多くの男読者が(たぶん)腰が引けるからだろう。そして、男ズレはしていない。
ここで、性別転換のほかの作品を例に挙げてみる。ほかをけなしながらほめるのはそのほめられる側にとっても良くないとは言うが、それをしたいことはあるのだ、勘弁してもらおう。
例1『ヘタリア』
「国擬人化」マンガのヒット作は、多くが男キャラになっているが、性別逆だったらというバージョンもちょこちょこと描かれる。(読者の二次でも、作者自身でも。なお私は二次まで手を出していない)
「ドイツ娘:無口、真面目、胸がでかい。/苦労人。体はしっかりしてるが結構女らしい。」
男の「ドイツ」は筋骨たくましいのであるが、ここで女の場合「胸がでかい」という点に納得できる。
例2 よしながふみ『大奥』
・平賀源内は男色家だった。このマンガでは男装した女で、同性愛者である。露骨な描写はないけど、役者と愛人関係であったことは取り入れられている。
・老中阿部正弘は、史実では、美男+太っていた と伝わる。このバージョンでは、ぽっちゃり美女になっている。(裸の場面はないので胸がどうかは不明)
代々の将軍たちが史実でどの程度女好きであったか私も詳しくないが、少なくとも、史実は女好きだったのに女キャラに移したからそれはナシ、ということはしていない。5代目綱吉はかなり放埓に描かれているし、8代目の吉宗も、せっせと仕事するかたわら男にも手を出す。
「オットセイ将軍」家斉は男のままで登場するが、本来好色な性質ではなかったとしている。
13代目の正室は、珍しく常識的に(?)、男に移したキャラはけっこう過去には遊んでいたようである。
例3 高殿円『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』
このブログでも話題にしたことがある。ホームズ物語を、現代に、そして主要キャラたちを女に移した小説。
原作のホームズは長身で瘦せている。(美男設定ではないけど) シャーリー・ホームズはスレンダー美女、胸はない。
原作での兄マイクロフトは太っている。こちらのミシェール、愛称マイキーは、顔は妹と似ているが「豊かなバスト」が違う。
周知のようにホームズは女嫌い設定で、シャーリは異性同性両方に無縁。
マイクロフトは、やはり変人で非社交的な男で、カタブツっぽいがーーなんとマイキーは日替わりで愛人を持っている。奔放なバイセクシャルである。
(掲載誌は「ハヤカワミステリ」だったならば、男女両方の読者がいるだろう。でもこの部分は単行本書き下ろしだった?挿絵は少女マンガふう)
なんて小気味よい変更だろうか。
ここで『ユリア・カエサル』にもどる。
上記のような例と比べて、原型がやせ形なのに「巨乳」、「女好き」男を、無邪気なレベルの女好き少女(%)で男には免疫なし、にした設定は、じつに、男側の願望がもろに出まくっていると言えるだろう。
もちろん、男が読者なのだから男の願望で悪いわけではない。少女マンガやレディコミが女の願望を映すように。
しかし、モヤモヤ感を表明することはしてよかろう。
だいたい、本当は19世紀にできたピッツァ・マルゲリータが存在していたり、10代の女の子が元老院議員になっていたりするくらい都合のいい世界観なのだ、そういう変更が許されるならば、現代並に避妊法があったり、女が男遊びしていてもOKなローマでもかまわないだろうに。
史実よりもカエサルの年齢が20も引き下げられていて、カティリーナ事件の時に17歳(セイヤと合わせる都合か)。せめて27にしておこう。人オットとも、時にはその妻ともおおいに浮名を流しまくる、特別美女ではないが教養高く洗練されてセクシーなユリア・カエサル。姪に子供が生まれて(男女どちらでもいいけど)「かわいい~~!この子私にくれ!」
カエサル暗殺はないまま姪の子にあとは引き継がれるという展開ではいかんのかね。
クレオパトラは登場しても、カエサリオンが生じないし、エジプトは友邦国として戦争もなく進んでいった、そういうパラレルだったら。
流血を避ける、能天気な展開のパラレル歴史、そういうノリじたいは嫌いじゃない。
積極果敢だけど男にウブな女、そういうキャラじたいも決して私は嫌いじゃない、もし女向けジャンルで出てきたら素直に支持するだろうが。
2,3巻くらいで終わらせてくれたら確実につきあう気はある。『ユリア・カエサル』、さてどうなることやら。
%を付記。例4にしてもいい。
名香智子の一連の作品に登場するヴィスタリア。大貴族で大金持ちの美女、夫と息子(のちに娘一人)を持ち、気ままな生活。きれいな女の子が大好きとはいっても、囲まれていて楽しいというくらいで個人個人と深い関係にあるわけでもなさそうである。基本的には男は近づけない。ーーこちらの設定はぜんぜんムカつかない。作者も読者も女であるし、元ネタが女好き男だったなんてわけではまったくないし。
少し前の、しかしカテゴリーは「ローマ」にしておいたライトノベル『ユリア・カエサルの決断』に関してもっと言いたいことが出てきた。どのカテゴリーにしたものかたいへん迷うところであるが、比較対象がマンガも出てくるのでマンガにしておく。
ネタバレはあるので嫌な人は避けて頂きたい。
まえの記事とダブるけど最低限の説明をするが、
古代ローマの好きな男子高校生のセイヤが女神ディアナに命じられて飛ばされた世界には巨乳美少女のユリア・カエサルがいて、彼女をサポートすることになる。
ガリアを降して、ユリアはセイヤに「アウグストゥス」の名を授けたーーというところまでが1巻の流れである。
つまりこの世界には、我々の知るアウグストゥスがいない。大ざっぱに言えば、アウグストゥスが女神と契約してセイヤに生まれ変わっていたということらしい。
セイヤも、「かわいい坊や」なんて言われているところからしてまあまあの容姿であるようだが、絵の上で特別感はない。男読者が自己投影するためには男主人公が美形過ぎてはいけないということなのであろう。
カエサルの要素であるハゲの女たらし、借金王、これらのうち、借金王はそのまま引き継いでいる。
ハゲという欠点を、当時のローマの女にはマイナスである「巨乳」に置き換えている。・・・都合良すぎないかい。女読者が巨乳設定を嫌がるとは限ったものではないのだが。
カエサルは長身痩躯が史実である。筋骨たくましい男を女に移すならば「せくしーだいなまいつぼでぃ」になるだろうが、細身型ならば女にしても細身のほうが妥当ではあるまいか。
しかし、この点はまだ罪がない。
「女好き」という要素を、ユリアもまた持っている、ただし、美女やかわいい女の子に声をかけまくりプレゼントをし甘い言葉をささやき、という程度、せいぜいハグ程度。
そして、男に対してはウブ。
女好きな男を性別逆に移すならば、男好きの女になるのが自然な発想ではないのか?しかしそうはしていないのである。それで、たわいのないレベルの「女好き」ーーガチ百合だと多くの男読者が(たぶん)腰が引けるからだろう。そして、男ズレはしていない。
ここで、性別転換のほかの作品を例に挙げてみる。ほかをけなしながらほめるのはそのほめられる側にとっても良くないとは言うが、それをしたいことはあるのだ、勘弁してもらおう。
例1『ヘタリア』
「国擬人化」マンガのヒット作は、多くが男キャラになっているが、性別逆だったらというバージョンもちょこちょこと描かれる。(読者の二次でも、作者自身でも。なお私は二次まで手を出していない)
「ドイツ娘:無口、真面目、胸がでかい。/苦労人。体はしっかりしてるが結構女らしい。」
男の「ドイツ」は筋骨たくましいのであるが、ここで女の場合「胸がでかい」という点に納得できる。
例2 よしながふみ『大奥』
・平賀源内は男色家だった。このマンガでは男装した女で、同性愛者である。露骨な描写はないけど、役者と愛人関係であったことは取り入れられている。
・老中阿部正弘は、史実では、美男+太っていた と伝わる。このバージョンでは、ぽっちゃり美女になっている。(裸の場面はないので胸がどうかは不明)
代々の将軍たちが史実でどの程度女好きであったか私も詳しくないが、少なくとも、史実は女好きだったのに女キャラに移したからそれはナシ、ということはしていない。5代目綱吉はかなり放埓に描かれているし、8代目の吉宗も、せっせと仕事するかたわら男にも手を出す。
「オットセイ将軍」家斉は男のままで登場するが、本来好色な性質ではなかったとしている。
13代目の正室は、珍しく常識的に(?)、男に移したキャラはけっこう過去には遊んでいたようである。
例3 高殿円『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』
このブログでも話題にしたことがある。ホームズ物語を、現代に、そして主要キャラたちを女に移した小説。
原作のホームズは長身で瘦せている。(美男設定ではないけど) シャーリー・ホームズはスレンダー美女、胸はない。
原作での兄マイクロフトは太っている。こちらのミシェール、愛称マイキーは、顔は妹と似ているが「豊かなバスト」が違う。
周知のようにホームズは女嫌い設定で、シャーリは異性同性両方に無縁。
マイクロフトは、やはり変人で非社交的な男で、カタブツっぽいがーーなんとマイキーは日替わりで愛人を持っている。奔放なバイセクシャルである。
(掲載誌は「ハヤカワミステリ」だったならば、男女両方の読者がいるだろう。でもこの部分は単行本書き下ろしだった?挿絵は少女マンガふう)
なんて小気味よい変更だろうか。
ここで『ユリア・カエサル』にもどる。
上記のような例と比べて、原型がやせ形なのに「巨乳」、「女好き」男を、無邪気なレベルの女好き少女(%)で男には免疫なし、にした設定は、じつに、男側の願望がもろに出まくっていると言えるだろう。
もちろん、男が読者なのだから男の願望で悪いわけではない。少女マンガやレディコミが女の願望を映すように。
しかし、モヤモヤ感を表明することはしてよかろう。
だいたい、本当は19世紀にできたピッツァ・マルゲリータが存在していたり、10代の女の子が元老院議員になっていたりするくらい都合のいい世界観なのだ、そういう変更が許されるならば、現代並に避妊法があったり、女が男遊びしていてもOKなローマでもかまわないだろうに。
史実よりもカエサルの年齢が20も引き下げられていて、カティリーナ事件の時に17歳(セイヤと合わせる都合か)。せめて27にしておこう。人オットとも、時にはその妻ともおおいに浮名を流しまくる、特別美女ではないが教養高く洗練されてセクシーなユリア・カエサル。姪に子供が生まれて(男女どちらでもいいけど)「かわいい~~!この子私にくれ!」
カエサル暗殺はないまま姪の子にあとは引き継がれるという展開ではいかんのかね。
クレオパトラは登場しても、カエサリオンが生じないし、エジプトは友邦国として戦争もなく進んでいった、そういうパラレルだったら。
流血を避ける、能天気な展開のパラレル歴史、そういうノリじたいは嫌いじゃない。
積極果敢だけど男にウブな女、そういうキャラじたいも決して私は嫌いじゃない、もし女向けジャンルで出てきたら素直に支持するだろうが。
2,3巻くらいで終わらせてくれたら確実につきあう気はある。『ユリア・カエサル』、さてどうなることやら。
%を付記。例4にしてもいい。
名香智子の一連の作品に登場するヴィスタリア。大貴族で大金持ちの美女、夫と息子(のちに娘一人)を持ち、気ままな生活。きれいな女の子が大好きとはいっても、囲まれていて楽しいというくらいで個人個人と深い関係にあるわけでもなさそうである。基本的には男は近づけない。ーーこちらの設定はぜんぜんムカつかない。作者も読者も女であるし、元ネタが女好き男だったなんてわけではまったくないし。