『死体絵画』アストリット・パプロッタ 講談社文庫 2006年
舞台はフランクフルト、ホームレス連続殺人事件が起きる。
イナ・ヘンケル警部とその上司シュトッカー警視のシリーズの3作目だそうだ。しかしいまだにこれしか出ていないようである。
常に丁寧な口をきくインテリ上司は右京さんを連想しながら読んだ。
センスが散文的なイナ、
「学校で劇場に行くようにと急かされるたびに、わたしは、ほとんど死にそうになりました。ともかく、ああいうのは駄目なんです。ああいう古典的なものは。タイツをはいたゲイの王子ばかり出てくるようなのは。そういう劇の一つで、王子が思想の自由についてわめき立てるのがありますが、あれを巡って、そのあと何時間も、どういう意味が含まれていたのかと反芻させられたんですけれど、どういう意味かなんて、明々白々じゃないですか?」
--少佐みたい。草葉の陰でシラーが泣くよ。ところで「思想の自由をお与え下さい」という有名なセリフは、王子ドン・カルロスではなくて腹心のポーザ侯爵。ドン・カルロスは父の妃(3度目)と密かに想いあっているけどエボリ公妃に懸想されているのでややこしくなる。ポーザ侯爵は王子にもフェリペにもだいじに思われていて、・・・このへん深読みすれば、「ゲイの王子」よばわりもさほど無茶な感想でもない気がしてくる。
その彼女が唯一感動した劇がビュヒナーの『ヴォイツェク』で、これが本筋にも絡んでくる。
クリスチャン・モルク『狼の王子』 ハヤカワミステリ
デンマーク産だけど舞台はアイルランド。
叔母に監禁されていたらしい若い女たちの死体が郵便局員に偶然発見された。そして彼女たちの遺した日記が、画家志望の若い配達人の手に渡る。興味をひかれた彼は過去を追い始める。
ファンタジーのようなタイトルは、日記に登場するさすらいの語り部の物語による。臆病者の王子が勇敢な兄を殺害して王となり残忍な所業を重ね、その罰として狼に化してしまう。そしてこの(広い意味での)劇中劇も本筋と無縁ではない。
クリスティーナ・オルソン『シンデレラたちの罪』
スウェーデン製。初邦訳作家。
ストックホルムへ向かう列車の中、ほんのわずか母親がホームにおりていた間に幼い娘が消えた。そしてさらに被害者が出る。
犯人の罪は充分に大きいが、そういうふうに歪ませた元凶、虐待していたババアが彼に報復で殺されていることがこの話の救いである!
ライナー・レフラー『人形遣い 分析官アーベル&クリスト』
創元推理文庫、去年の刊行。
舞台はケルン。猟奇連続殺人事件。有能で変人のマルティン・アーベルがはるばると呼ばれ、若いハンナ・クリストがその下につかされる。第一印象最悪でのちに~という点はラブコメの定番でもあるが、もちろんラブコメではなく陰惨な事件である。コンビの二人がそれぞれ家庭の不幸な過去をかかえていて、あとでまだまだ出てくるらしい。
これも、虐待されていた犯人(ということは初期からわかっているので書いてもよかろう)が、元凶をぶっ殺している、この点はぜんぜんかまわん。いやむしろ元凶だけにしておけよと言いたい。(宮部みゆき『模倣犯』の犯人その2にもそう思う。母親だけ殺しておけばよかったんだよあの犯人は!)
舞台はフランクフルト、ホームレス連続殺人事件が起きる。
イナ・ヘンケル警部とその上司シュトッカー警視のシリーズの3作目だそうだ。しかしいまだにこれしか出ていないようである。
常に丁寧な口をきくインテリ上司は右京さんを連想しながら読んだ。
センスが散文的なイナ、
「学校で劇場に行くようにと急かされるたびに、わたしは、ほとんど死にそうになりました。ともかく、ああいうのは駄目なんです。ああいう古典的なものは。タイツをはいたゲイの王子ばかり出てくるようなのは。そういう劇の一つで、王子が思想の自由についてわめき立てるのがありますが、あれを巡って、そのあと何時間も、どういう意味が含まれていたのかと反芻させられたんですけれど、どういう意味かなんて、明々白々じゃないですか?」
--少佐みたい。草葉の陰でシラーが泣くよ。ところで「思想の自由をお与え下さい」という有名なセリフは、王子ドン・カルロスではなくて腹心のポーザ侯爵。ドン・カルロスは父の妃(3度目)と密かに想いあっているけどエボリ公妃に懸想されているのでややこしくなる。ポーザ侯爵は王子にもフェリペにもだいじに思われていて、・・・このへん深読みすれば、「ゲイの王子」よばわりもさほど無茶な感想でもない気がしてくる。
その彼女が唯一感動した劇がビュヒナーの『ヴォイツェク』で、これが本筋にも絡んでくる。
クリスチャン・モルク『狼の王子』 ハヤカワミステリ
デンマーク産だけど舞台はアイルランド。
叔母に監禁されていたらしい若い女たちの死体が郵便局員に偶然発見された。そして彼女たちの遺した日記が、画家志望の若い配達人の手に渡る。興味をひかれた彼は過去を追い始める。
ファンタジーのようなタイトルは、日記に登場するさすらいの語り部の物語による。臆病者の王子が勇敢な兄を殺害して王となり残忍な所業を重ね、その罰として狼に化してしまう。そしてこの(広い意味での)劇中劇も本筋と無縁ではない。
クリスティーナ・オルソン『シンデレラたちの罪』
スウェーデン製。初邦訳作家。
ストックホルムへ向かう列車の中、ほんのわずか母親がホームにおりていた間に幼い娘が消えた。そしてさらに被害者が出る。
犯人の罪は充分に大きいが、そういうふうに歪ませた元凶、虐待していたババアが彼に報復で殺されていることがこの話の救いである!
ライナー・レフラー『人形遣い 分析官アーベル&クリスト』
創元推理文庫、去年の刊行。
舞台はケルン。猟奇連続殺人事件。有能で変人のマルティン・アーベルがはるばると呼ばれ、若いハンナ・クリストがその下につかされる。第一印象最悪でのちに~という点はラブコメの定番でもあるが、もちろんラブコメではなく陰惨な事件である。コンビの二人がそれぞれ家庭の不幸な過去をかかえていて、あとでまだまだ出てくるらしい。
これも、虐待されていた犯人(ということは初期からわかっているので書いてもよかろう)が、元凶をぶっ殺している、この点はぜんぜんかまわん。いやむしろ元凶だけにしておけよと言いたい。(宮部みゆき『模倣犯』の犯人その2にもそう思う。母親だけ殺しておけばよかったんだよあの犯人は!)