レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

アンネ・ホルトの警部ハンネのシリーズ

2015-12-09 14:58:41 | 
 私はミステリーマニアというほどではないが、けっこう読んでいる。歴史絡みのもの、ドイツものには手を出してみる。
 このところ、英米仏以外のヨーロッパ作品を視野に入れている。
 北欧ものは、そもそもスウェーデンはミステリー大国として知られているので比較的あとまわしにして、デンマークやノルウェー等のものを読んでみている。

 ノルウェーの作家アンネ・ホルトの、オスロを舞台とした警部補(話の始めには)ハンネのシリーズ。目下、5作が訳されている。
 最初の作品『沈黙の女神』 集英社文庫
 本筋とは関係なく、風俗習慣の点で目についた3点。
・ 弁護士のカレンが、容疑者から重大なことを知らされて十字を切る場面がある。北欧諸国ではルター派が大多数。プロテスタントでは十字を切る習慣はないはずなのだが。えらいこと!というポースでそういう行為もあるのだろうか?
・刑事が知人の記者から電話を受けて、角のセブンイレブンで焼き立てのクロワッサンを買ってくるように指示するくだりがある。セブンイレブンがあるのか?と思って検索したところ、ノルウェーとスウェーデンとデンマークには進出していることを知った。
・包み紙だかレシートだかで折り鶴をつくるシーンがある。日本の鶴と同じなのだろうか?

 このあと『土曜日の殺人者』『悪魔の死』と続いている。
 優秀で美貌のハンネは同性愛者であり、美女の医師と同棲している。
 3作目の解説で、次の作品ではハンネはアメリカに行くことになっており、「ゲイに寛容な」アメリカでどういう影響を受けるか興味をひく云々と書いてあったのであるが。

 (ここでもちろん私は、「同性愛に寛容な欧米」などと言う言い草に対して大いに抵抗を感じる。キリスト教文化圏でのほうが激しい迫害があり、だからこそ彼らが自衛のために戦ってきたという経緯がある。日本では少なくとも宗教的な罪悪視はなかったはずで、命の危険があるというほどではなかった、よくも悪くも鈍感であった。現代の法整備の点で遅れているとは言わざるをえないとしても、ことさらに、日本はなってない!狭量だ、陰湿だ、という方向へ話がいくことに対して怒りを覚える。)

 このあと15年もブランクがあり、『凍える街』は創元推理文庫から出ている。訳者も交代している、ハンネの同僚のビリー・Tという男の言葉遣いがなんだか荒っぽくなってないか? 3作もとばしていきなり第7作目なのだ。ハンネはトルコ出身の恋人と、元娼婦でヤク中だった家政婦と住んでいる。  え、前の医者とは別れたの?と驚いたが、なんと彼女は死んでいた。

 事情あって順番通りに出さないことはありうるにしてもだな、間の巻で人間関係等に大きな事件があったのならば説明くらい解説でも補ってくれていいだろ。

 血縁者である親・兄姉とうまくいってなかったぶん、変則的な家族を重んじたいというハンネの心理はたいへん面白く思う。


ゾラ『水車小屋攻撃』 岩波文庫
 新刊。偶然、光文社古典新訳文庫でもゾラの短編集が出たばかりである。2編が重なっている。
 表題作は、平凡な村で、立派な水車小屋を持つ村長、その娘、ベルギー人の婿、彼らの幸せが戦争で破壊される顛末。ここでは普仏戦争であるが、どこの国どの時代でも起こりうる、世界規模で見れば小さな不幸、それが悲しい。
 なんだかドーデの『風車小屋便り』をパロったように見えるタイトルだと思った。
コメント
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