雑草社の「まんが情報誌 ぱふ」では、「コミックスレビュー」のページでかつては読者からの投稿も受け付けており、私も何回か載ったことがある。それらのコピーが手元でだいぶ汚れてしみだらけになっているので処分したい。この際ここにも移してしまおう。
『緋色い剣』6巻
「北欧を舞台に描く神々の抗争と血の宿命!!」の物語も第二部が佳境。半ば歴史冒険活劇、半ば神話ファンタジー、その他、父子対立ホームドラマ、倒錯愛憎劇、純愛ロマンス、よこしまもあり、実に多彩、かつムダなく、緊迫感充分。本誌ではいよいよ最終部に突入。あずみ椋版「神々の黄昏」はワーグナーをもしのぐと確信する。
『緋色い剣』8巻
毎号、毎巻、手にしページをくるたび、隅々にまでみなぎる作者の気迫に圧倒される。巻末の描きおろし番外編『断片』は、ロキの独白と回想。オーディンの裁きにより鎖につながれ苛まれるロキ。オーディンの幻にその様を見つめられる屈辱に、
反逆の言葉を吐きながら、彼はまさしく身も心もオーディンに支配されている。狂気のような憎悪の底では、ふみにじられた愛が血を流す。ロキの行く末には既に破局が約束されているが、彼の心がなんらかの救いを得てほしいと切に願わずにいられない。
『緋色い剣』10巻
己の運命に挑むため、異界アスガルドへ赴いたリュー。その世界に、アース神と巨人族の決戦の時、「神々の黄昏(ラグナロク)」がついに訪れた。
犯した罪ゆえに不吉な予言を怖れていたリューの父は、予言の成就のまえに息子との和解を果たす。一方、巨人族出のアース、ロキは、自らもたらした滅びの光景の前で、彼の愛し憎んだ神々の王と共に、不思議に静謐な最後の宴に酔う。約束されていた破局の中で、彼らの心は確かに浄化された。
そしてリューは、愛する女の待つ人間界への帰還を賭けて戦場へと臨む。「感謝する。おれの剣に、おれの力に、そしておれが生まれてきたことに」ーー晴れやかな言葉が、彼の強運を確信させる。
北の果ての国に伝わる神々と戦士たちの物語。その世界から紡ぎ出された長い冒険譚が終わった。入魂の大作の誕生とみごとな終焉に、リューと共に感謝を捧げよう。
『ミステリオン』1巻
あとがきに曰く、「キリスト教一辺倒のヨーロッパ世界にしぶとく生き残った異教、異端。それが魔術だったり錬金術だったちするわけですが」「権威に対する反骨精神にオカルト的面白さがあいまってちょっとわくわくします。」
幕開けは19世紀末。一介の船乗りのはずだったレオンは、謎の男爵ヴォルフの接近、人ならぬ力を秘めた少女ラピスの出現により、自分の正体を疑い始めた。己の過去を探り求める彼の前に、ついに引き出された400年まえの記憶とはーー?
あずみ椋の代表作『緋色い剣』は、ヴァイキング時代の北欧と、キリスト教に追われた神々の世界とを絡めている。ここでもテーマは自我と反逆であった。背景は変わっても作家の根底にある一貫性は、読者にとって嬉しいものだが、無論この新シリーズは初めての読み手にも充分開かれている。
やがて始まる第2部は15世紀ドイツに戻る。多彩な展開に期待しよう。
『ミステリオン』2巻
情熱は諸刃の剣である。愛も知恵も、意志も向上心も、時として人を破壊へと導く。
15世紀ドイツ、錬金術師レオンは、不老の身を得て、人造生命(ホムンクルス)づくりの研究にいそしむ。だが、彼の過激さは秘密結社「薔薇十字団」でも浮いたものとなりつつあり、そこへ異端審問官の追っ手が迫る。神の領域にまで踏みこむレオンに畏れを感じた妻ソフィアは、彼の魂の救済のため、ある行動に出た。
あずみ椋は、反逆する貪欲な人物像をよく描く。怖れ知らずのレオンと、その心の激流が押し流したソフィアは、かのファウストとグレートヒェンを思わせる。しかもレオンは、誘惑者(メフィスト)もなしに突っ走り始め、本来穏健な同志のヴォルフにまであとを追わせてしまった。しかし彼のハタ迷惑ぶりはまだ終わらない。レオンの遺産を否応なしに継がされてしまう息子もいる。彼がどのように闇へとひきいれられるか、次巻の見どころである。
以上、「ぱふ」より。『緋色い剣』のSG企画版は充分に買えます。Amazonでは扱っておりません。
「SG企画 」
以下は、BL耐性のある人だけお読みください。「JUNE」の「コミックぐぁいど」に載ったぶん。3回ぶん。
掲載誌のマイナーさのせいか、有名とはいえず、しかし一読に値するのが、あずみ椋の『緋色い剣(あかいつるぎ)』!北欧神話やヴァイキングを扱った壮大な物語で、全体としてはノーマルなだけに、屈折、倒錯の側面がいっそう味わい深いのです。
ここでとりあげるのは副主人公のロキ。アース神族の宿敵である巨人族は、美女は時々いても男は醜いと決まっているのに、なぜかこのロキだけ美しい。彼はアースの老王オーディンを愛し、義兄弟の契を結びアースに加わる。「気まぐれと毒舌と狡智」で神々に白い目を向けられ、巨人たちに裏切り者よばわりされながらも、己の「血の卑しさ」に苦しみながらも、オーディンの「信頼」だけを望みに仕えようとする。しかし次第にふくらんでゆく疑惑と不安。ついに己をさらけ出して真意を問うロキ、あなたにとっておれは何だ!?と。しかし答は残酷だった。(ここは伏せておきます。神話ファンの私も意表をつかれました)ーー愛は憎しみに変わる。アースと決別、オーディンに復讐を宣するロキ、その微笑と涙にこめられた想いは凄まじくも哀れだ。この先、破局が待つ中を物語はいかに展開することか、期待しつつも胸がつまる。
* * *
気鋭の創作集団「作画グループ」名物の合作の中でも最大のシリーズ『ヘレヌスのロビン』。『炎の戦士』はその第2部。
前編『炎の伝説』は、:小国ベレヌスの領主の次男ロビン(志水圭)は、大国マーグメルドのフレドリカ姫
さとうひとみ)と恋におきつが、姫は魔女にさらわれてしまい、ロビンは、幼なじみの無二の友ヘルギ(あずみ椋)と共に救出に赴く。
第2部は、ロビンの兄ハロルド(神坂智子)が野心を抱き、復活した魔女の力を借りて、マーグメルドに手をのばす。姫のため正義のため、立ち上がるロビン。しかしその行手には、死んだはずのヘルギが! 死霊として蘇った彼は、魔女と契約し、その刺客となっていたのだった。魔女を殺せばヘルギも死ぬ・・・・・・苦しむロビン。一方ヘルギは、生への執着から自分で始末がつけられず、ロビンに殺してもらおうと、悪行を重ねるーー。
わりに少年まんが的なノリのファンタジー活劇ですが、「了と明みらい」「シュラトとガイだ」と言われるロビンとヘルギの仲は、いくらでもよこしま読み可。作者たちも、パロ部分ではその気であそんでいらっしゃるし。ほかのキャラは、聖悠紀、速水翼、志島銀、なかがわとむ等が描いてます。一読の価値ありです。
* * *
(『緋色い剣』完結後に再度投稿したぶん)
予言されていた運命の時、神々と巨人族の決戦の火蓋は切られた。そのきっかけを作ったのはロキ。かつてオーディンへの想いから巨人族を裏切ってこの神々の王の義兄弟となり、そしてオーティンへの憎しみから神々を裏切り、巨人族を指揮して陣頭に立つ。
激戦の中、ロキは血を流しながら、オーディンと決着をつけるべくヴァルハラ城へ向かう。そこで目にしたのは、滅びの光景を前に、瀕死の重傷を負いながらも従容たる神々の王の姿。炎に巻かれたヴァルハラで、二人は最後の盃を合わせるのだった。
激情の果ての静けさ、喧騒をよそに流れるふしぎな透明感ーーこの二人のクライマックスには、かのダナ・バーンを思わせるものがあります。このカタルシスに至るまでにどのような葛藤を経てきたのか、ぜひ各自でご覧ください、決して損はありません。
注:この話の主人公はノーマルです。しかし、副主人公ロキのアブなさはBELNEさんのおスミつきです。
『緋色い剣』6巻
「北欧を舞台に描く神々の抗争と血の宿命!!」の物語も第二部が佳境。半ば歴史冒険活劇、半ば神話ファンタジー、その他、父子対立ホームドラマ、倒錯愛憎劇、純愛ロマンス、よこしまもあり、実に多彩、かつムダなく、緊迫感充分。本誌ではいよいよ最終部に突入。あずみ椋版「神々の黄昏」はワーグナーをもしのぐと確信する。
『緋色い剣』8巻
毎号、毎巻、手にしページをくるたび、隅々にまでみなぎる作者の気迫に圧倒される。巻末の描きおろし番外編『断片』は、ロキの独白と回想。オーディンの裁きにより鎖につながれ苛まれるロキ。オーディンの幻にその様を見つめられる屈辱に、
反逆の言葉を吐きながら、彼はまさしく身も心もオーディンに支配されている。狂気のような憎悪の底では、ふみにじられた愛が血を流す。ロキの行く末には既に破局が約束されているが、彼の心がなんらかの救いを得てほしいと切に願わずにいられない。
『緋色い剣』10巻
己の運命に挑むため、異界アスガルドへ赴いたリュー。その世界に、アース神と巨人族の決戦の時、「神々の黄昏(ラグナロク)」がついに訪れた。
犯した罪ゆえに不吉な予言を怖れていたリューの父は、予言の成就のまえに息子との和解を果たす。一方、巨人族出のアース、ロキは、自らもたらした滅びの光景の前で、彼の愛し憎んだ神々の王と共に、不思議に静謐な最後の宴に酔う。約束されていた破局の中で、彼らの心は確かに浄化された。
そしてリューは、愛する女の待つ人間界への帰還を賭けて戦場へと臨む。「感謝する。おれの剣に、おれの力に、そしておれが生まれてきたことに」ーー晴れやかな言葉が、彼の強運を確信させる。
北の果ての国に伝わる神々と戦士たちの物語。その世界から紡ぎ出された長い冒険譚が終わった。入魂の大作の誕生とみごとな終焉に、リューと共に感謝を捧げよう。
『ミステリオン』1巻
あとがきに曰く、「キリスト教一辺倒のヨーロッパ世界にしぶとく生き残った異教、異端。それが魔術だったり錬金術だったちするわけですが」「権威に対する反骨精神にオカルト的面白さがあいまってちょっとわくわくします。」
幕開けは19世紀末。一介の船乗りのはずだったレオンは、謎の男爵ヴォルフの接近、人ならぬ力を秘めた少女ラピスの出現により、自分の正体を疑い始めた。己の過去を探り求める彼の前に、ついに引き出された400年まえの記憶とはーー?
あずみ椋の代表作『緋色い剣』は、ヴァイキング時代の北欧と、キリスト教に追われた神々の世界とを絡めている。ここでもテーマは自我と反逆であった。背景は変わっても作家の根底にある一貫性は、読者にとって嬉しいものだが、無論この新シリーズは初めての読み手にも充分開かれている。
やがて始まる第2部は15世紀ドイツに戻る。多彩な展開に期待しよう。
『ミステリオン』2巻
情熱は諸刃の剣である。愛も知恵も、意志も向上心も、時として人を破壊へと導く。
15世紀ドイツ、錬金術師レオンは、不老の身を得て、人造生命(ホムンクルス)づくりの研究にいそしむ。だが、彼の過激さは秘密結社「薔薇十字団」でも浮いたものとなりつつあり、そこへ異端審問官の追っ手が迫る。神の領域にまで踏みこむレオンに畏れを感じた妻ソフィアは、彼の魂の救済のため、ある行動に出た。
あずみ椋は、反逆する貪欲な人物像をよく描く。怖れ知らずのレオンと、その心の激流が押し流したソフィアは、かのファウストとグレートヒェンを思わせる。しかもレオンは、誘惑者(メフィスト)もなしに突っ走り始め、本来穏健な同志のヴォルフにまであとを追わせてしまった。しかし彼のハタ迷惑ぶりはまだ終わらない。レオンの遺産を否応なしに継がされてしまう息子もいる。彼がどのように闇へとひきいれられるか、次巻の見どころである。
以上、「ぱふ」より。『緋色い剣』のSG企画版は充分に買えます。Amazonでは扱っておりません。
「SG企画 」
以下は、BL耐性のある人だけお読みください。「JUNE」の「コミックぐぁいど」に載ったぶん。3回ぶん。
掲載誌のマイナーさのせいか、有名とはいえず、しかし一読に値するのが、あずみ椋の『緋色い剣(あかいつるぎ)』!北欧神話やヴァイキングを扱った壮大な物語で、全体としてはノーマルなだけに、屈折、倒錯の側面がいっそう味わい深いのです。
ここでとりあげるのは副主人公のロキ。アース神族の宿敵である巨人族は、美女は時々いても男は醜いと決まっているのに、なぜかこのロキだけ美しい。彼はアースの老王オーディンを愛し、義兄弟の契を結びアースに加わる。「気まぐれと毒舌と狡智」で神々に白い目を向けられ、巨人たちに裏切り者よばわりされながらも、己の「血の卑しさ」に苦しみながらも、オーディンの「信頼」だけを望みに仕えようとする。しかし次第にふくらんでゆく疑惑と不安。ついに己をさらけ出して真意を問うロキ、あなたにとっておれは何だ!?と。しかし答は残酷だった。(ここは伏せておきます。神話ファンの私も意表をつかれました)ーー愛は憎しみに変わる。アースと決別、オーディンに復讐を宣するロキ、その微笑と涙にこめられた想いは凄まじくも哀れだ。この先、破局が待つ中を物語はいかに展開することか、期待しつつも胸がつまる。
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気鋭の創作集団「作画グループ」名物の合作の中でも最大のシリーズ『ヘレヌスのロビン』。『炎の戦士』はその第2部。
前編『炎の伝説』は、:小国ベレヌスの領主の次男ロビン(志水圭)は、大国マーグメルドのフレドリカ姫
さとうひとみ)と恋におきつが、姫は魔女にさらわれてしまい、ロビンは、幼なじみの無二の友ヘルギ(あずみ椋)と共に救出に赴く。
第2部は、ロビンの兄ハロルド(神坂智子)が野心を抱き、復活した魔女の力を借りて、マーグメルドに手をのばす。姫のため正義のため、立ち上がるロビン。しかしその行手には、死んだはずのヘルギが! 死霊として蘇った彼は、魔女と契約し、その刺客となっていたのだった。魔女を殺せばヘルギも死ぬ・・・・・・苦しむロビン。一方ヘルギは、生への執着から自分で始末がつけられず、ロビンに殺してもらおうと、悪行を重ねるーー。
わりに少年まんが的なノリのファンタジー活劇ですが、「了と明みらい」「シュラトとガイだ」と言われるロビンとヘルギの仲は、いくらでもよこしま読み可。作者たちも、パロ部分ではその気であそんでいらっしゃるし。ほかのキャラは、聖悠紀、速水翼、志島銀、なかがわとむ等が描いてます。一読の価値ありです。
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(『緋色い剣』完結後に再度投稿したぶん)
予言されていた運命の時、神々と巨人族の決戦の火蓋は切られた。そのきっかけを作ったのはロキ。かつてオーディンへの想いから巨人族を裏切ってこの神々の王の義兄弟となり、そしてオーティンへの憎しみから神々を裏切り、巨人族を指揮して陣頭に立つ。
激戦の中、ロキは血を流しながら、オーディンと決着をつけるべくヴァルハラ城へ向かう。そこで目にしたのは、滅びの光景を前に、瀕死の重傷を負いながらも従容たる神々の王の姿。炎に巻かれたヴァルハラで、二人は最後の盃を合わせるのだった。
激情の果ての静けさ、喧騒をよそに流れるふしぎな透明感ーーこの二人のクライマックスには、かのダナ・バーンを思わせるものがあります。このカタルシスに至るまでにどのような葛藤を経てきたのか、ぜひ各自でご覧ください、決して損はありません。
注:この話の主人公はノーマルです。しかし、副主人公ロキのアブなさはBELNEさんのおスミつきです。