(19 私はここにいる―私と世界とのいかがわしい関係 begin)
19 私はここにいる―私と世界とのいかがわしい関係
筆者は、若いころ、アーリーアメリカンの小説が好きでした。今思うと、超長編の『白鯨』(一八五一年 ハーマン・メルヴィル『白鯨』)など、よく飽きずに読んだものです。若いころの体力に感心します。特に海洋ものが好きでした。『シー・ウルフ』(一九〇四年 ジャック・ロンドン『シー・ウルフ(海の狼)』)など、今でも人生観の土台にはめ込まれているような気がします。北太平洋でアザラシを狩る孤独な猟船の話です。サンフランシスコあたりから出港して、最果ての日本近海にまで航海する。
ウルフ・ラーセンという名の独裁者的な船長が出てくる。主人公ではありません。乗組員の主人公をいじめる悪役ですが、実に面白いキャラクターです。乗組員に君臨するこの暴君は、やたら頑強な身体を持っていて、サディストでニヒリストです。部下をいたぶりながら、魂などあるものか、死んだらナッシングだ、などとつぶやいている。百年前の作家が描いた人物像ですが、現代人に広がるニヒリズムの原型を見るようで面白い。
さて、この人物は実は病気持ちで、ラストでは、全身が麻痺し視力も聴力も失う。三重苦のような状態になって死ぬ。主人公の青年紳士ハンフリーを苦しめて殺そうとしたり、自分の死期を悟ると船に放火して主人公たちも道連れにしようとしたりする極悪人なのですが、最後は人道的なハンフリーに手厚く介護されて死ぬ。憎たらしいニヒリストも、最後には、申し訳ない、と思ったのでしょうか、介護するハンフリーに「それでも俺はまだここにいる」と、最後の筆談で訴える。
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