ちなみに、注目という動物の行動は、首と目玉を旋回してある視覚対象を視野の中央に持ってくる無意識の筋肉運動です。これは、視覚や聴覚その他の感覚の情報を処理して運動神経に指令を送る神経活動の仕組みで実行される。私たちが自分の身体の動きとしてこれを自覚するとき、注意という心的現象として感じる。
注意という心的現象については、現代心理学の初期から研究考察の対象になっている(一八九〇年 ウイリアム・ジェームス 『心理学の原理』)にもかかわらず、客観的な物質現象としてはなかなか捕捉できない。私たちが自分の行動を自覚するときには、明確に、自分が何に注意しているかが分るのに、脳神経系の働きとしてそれを客観的に記述できない。最近、脳科学的実験によって、ようやく大脳前頭葉前野皮質の脳細胞群がこの神経活動の中心になっているらしいことが見えてきた(二〇〇四年 レベーデフ、メッシンガー、クラリック、ワイス『前頭葉前野皮質における注意対記憶位置の表現』)。
これらの研究がさらに進んで、拙稿の提唱している擬人化がどういう脳神経現象なのか、科学的に解明されることを期待したいが、残念ながら現代の実験計測技術では、無理でしょう。脳計測の技術は急速に進歩しているとはいえ、感覚情報の複雑な処理を神経細胞間の連携活動として捉えるにはまだまだ精度が足りない。