脳のこの機構に障害が起こると、現実と妄想を混同する意識障害(アルツハイマー病などの症状)に落ちいります。芥川龍之介の小説「杜子春」などのように夢の中で実人生のように生きるという幻想フィクションは楽しいですが、正常な人間の脳ではそれは不可能です。断片的な夢や幻覚や病的妄想のほかには、人間は現実感を、覚醒時の目の前の物事の存在感にしか感じられません。
その現実感、つまり目の前の世界の存在感の知覚を基盤として、人類は精緻な「現実世界」を把握する神経機構を発展させました。自分の運動とそれに対応して変化する五感からの知覚入力情報を総合して過去の経験記憶と照合し、次の瞬間の自分の運動が世界の変化によってどのように干渉されるかを予測計算します。予測可能な知覚信号のその規則性を、現実世界として目の前に存在感をともなって感じるような脳になったわけです。その感知した現実世界の変化を、時間推移をともなった経験と感じて記憶していく。その記憶を常に予測に使い、過去から現在への世界の時間推移を感じることができます。その経験記憶と現在の受信感覚信号の全体と未来の予測が、時間空間の広がりを持った世界の一体的な存在感を作っています。覚醒時の人間は、いつも、自分を中心として広がるように感じられるこの時間空間の感覚を持っていて、その中で自分の身体を動かす次の運動を(おおかた無意識に)計画していくのです。
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