ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

三度の飯よりミーティング

2011年04月27日 | 精神障害

 北海道浦河町にべてるの家という統合失調症患者のグループホームがあるそうです。
 ここでは昆布の加工生産などにより自立を図るとともに社会進出を果たすことを目的としています。
 ここのルールが面白いのです。
 三度の飯よりミーティングを合言葉に、何かというと当事者同士が話し合いをするそうです。
 さらに、幻覚を
幻覚ちゃんと呼んで擬人化し、自分の幻覚をミーティングで話したりして、客観視しようとします。
 また、当事者が自分特有の診断名を付けるというのです。
 統合失調症全力疾走型とか、子供返り幻聴症とか、実に様々です。
 これもまた、自分の症状を客観視し、症状へのとらわれから逃れようとする術のようです。
 
 面白いことに、べてるの家がNHKなどで取り上げられて有名になると、浦河町はこれを町おこしに利用しようと考えたらしく、幻覚&妄想大会なるイベントを開き、当事者に自分が感じている幻覚や妄想を語らせて盛り上がるという、一歩間違えれば悪趣味とも言うべきやり方でますます有名になっているとか。

 精神障害者に対しては、長く差別と隔離ということが政策として行われてきました。
 これは洋の東西を問わないものと思います。
 その後、障害者は保護されながら一般社会で生きるようにしよう、ということが主流になり、最近ではできるだけ自立しよう、ということになっています。
 
 私は精神障害者の自助グループに参加し、うつ病、躁うつ病、統合失調症、パニック障害、神経症、リストカットなど、多くの障害を持つ人と出会いました。
 閉鎖病棟に入院した経験を持つ人もいました。
 しかし、ドラマや映画で描かれるような、いわゆる「狂人」という感じの人は一人もいませんでしたね。
 そういう人はそもそも自助グループに出席できないのかもしれませんが。
 仕事を探している人、「職業は病人」と言って障害者年金で生きることを決めた人、変わったところでは、精神障害者によるNPO法人を立ち上げようと尽力している人もいました。

 べてるの家は、精神障害をよく知らない人から見たら信じられないほど高い能力を持った当事者たちに、病気と付き合いながら社会貢献するとともに、経済的に自立する道を模索しているもので、自立よりさらに進んで病んだ社会を病んだ当事者が回復させよう、というあまりに大きな目標を掲げています。

 意義のある事業だと思います。

 しかし私は、べてるの家でも適応できなかった当事者のことを思わずにはいられません。
 一年前私がお世話になった障害者職業センターのリワーク・プログラムでも、適応できずにすぐに止めてしまう人がいました。
 不良少年の更生でもそうですが、更生施設でもどうにもならない人が必ずいるものです。
 
 私はむしろ、そういった小さな集まりでしかない、しかし組織でもある集団からもはみだしてしまうような人々に、どのような支援が可能か、ということに関心があります。
 もっともどんな施設でも、精神科医でも、当事者が出向くか、家族が無理やり引っ張っていくかしない限り、救いの手を差し伸べられないというのは厳然たる事実です。

 権利の上にあぐらをかく者は保護しない、という法理が、社会的弱者である各種障害者にも適用されるのは、悲しいことです。

べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章 (シリーズ・ケアをひらく)
浦河べてるの家
医学書院
治りませんように――べてるの家のいま
斉藤 道雄
みすず書房
「べてるの家」から吹く風
向谷地 生良
いのちのことば社

 

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昼ドラの顔、逝く

2011年04月27日 | その他

 田中実が自殺した、との一報に触れました。
 彼は主婦向けの午後の早い時間のドラマにによく出演していて、病気休暇で休んでいるとき、ぼんやりと眺めていました。
 悩みなど何もない、といった顔で明るく前向きな、爽やかな好青年をよく演じていました。
 うつ状態の私はそんな彼を見て、非常に白けた気分になったことを思い出します。

 そのご本人が、人知れず悩みを深め、自ら縊れ死ぬとは、痛ましいことこの上ありません。
 44歳で、三つ年上の奥様がいて、高校生と中学生の子供がいたと聞きました。
 ドラマの仕事は半年先までスケジュールは一杯。
 外面的なことだけを見れば、人も羨む境遇だとしか思えませんが、その彼がなぜ?

 いつだったか、精神科医が、武士の切腹や自爆テロを行うテロリストなどを除いて、自殺する人はその前後激しいうつ状態にあり、服薬と休養によって良くなる可能性が高い、と言っていました。
 でもまさか自分が精神病に罹患しているなんて思いもせず、絶望的な気持ちをどうにもできず、自殺にいたってしまうのですね。
 人ごととは思えません。
 うつ状態が激しいと、死ぬ元気さえないのですが、少し動けるようになると、死ぬということがとても魅惑的に思えてくるのですよねぇ。
 まさに悪魔か死神が耳元でささやいているのですよ。
 「死んだら楽だよ。あれもこれも、みいんな、解放されるよ」
 と。

 田中実という役者が44歳という年齢で死を選んだ本当の理由は、結局のところ誰にもわからないでしょう。
 もしかしたら本人にもよくわかっていなかったのかも。
 人間、不可解な行動をとることがありますからねぇ。

 私は30歳の時に職場の後輩で27歳の男性を、38歳の時に精神障害者の自助グループの友人で39歳の男性をそれぞれ自殺で喪いました。
 自殺のニュースを聞くたびに、この二人のことを思い出します。
 私ですらそうなのですから、家族や親族に自殺者がいる場合、心の傷は深いでしょうねぇ。
 
 今生きている私と、自殺が成功してしまった後輩や友人との違いは何なのでしょう。
 また、何度も自殺未遂を繰り返しながら、結局死にきれずに天寿を全うする人との違いは?

 私は7年に及ぶ双極性障害との付き合いで、自分だけを大事にしようと考えるようになりました。
 身を粉にして働いたって、徹夜したって、土日にサービス出勤したって、何も良いことはありません。
 与えられた職務だけを誠実にこなして残業は一切せず、貰えるものを貰えばそれで十分。
 職場に貢献しようとか、出世しようとか、そんなことは私にとって発病前の懐かしい思い出でしかありません。
 そんな風にご隠居気分で働くには、定年まであと19年、あまりに長いですねぇ。
 

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オーディション

2011年04月27日 | ホラー・サスペンス・SF等の映画

 米国のエンターテインメント・ウィークリー誌が最近20年間に製作されたホラー映画のランキングを発表しましたが、日本映画、「オーディション」が見事1位に輝きました。
 ちなみに日本のホラーでは他に「リング」が10位に入っています。
 昨夜「オーディション」をDVDで鑑賞しました。
 原作は村上龍の同名の小説です。

 映像制作会社を経営する青山は7年前に妻を亡くし、高校生の息子と二人暮らし。
 そんな彼を心配した親友の映画プロデユーサーが映画製作のオーディションと称して青山の好みの女を探そうとします。
 応募書類を見て、青山は麻美というミステリアスで薄幸な女性に目を奪われます。
 実際にオーディションで会ってからは、もはや麻美のことしか考えられなくなります。
 そして何度もデートを重ね、青山はプロポーズすることを決意するに至ります。

 ここまでは中年男と妖気を放つ若い女との純愛物語。

 しかし、麻美の素性を探るうち、奇妙なことばかりが起こっていることに気付きます。 
 アルバイトをしているはずの銀座のクラブは1年以上前にママが殺害されて閉じていたり、麻美が少女時代通っていたクラシックバレエ教室の先生は両足がなかったり。
 このあたりから、純愛物語は暗転し、怖ろしいサイコ・サスペンスの様相を呈し始め、ほどなく血しぶき舞うスプラッターにまで高められます。

 この映画の特徴は、麻美を演じたトップモデルの椎名英姫の不気味なまでの美しさと存在自体から漂う妖気をうまく引き出したことでしょう。
 何も言わずに立っているだけで妖しいオーラを放つのです。

 それと、抑えた演出。
 セリフ回しはささやくように、BGMも控えめ、麻美が中年男に針を刺しならがら「きり、きり、きり、きり、痛いでしょう」という名ゼリフですら、ささやくような小さな声で、それはまるで恋人同士の愛の言葉のようです。

 ロッテルダム映画祭では途中退場する客が続出し、ショックのため病院に運ばれる客まで出、客の一人から三池監督が「悪魔」と罵られるほど過激な残酷シーンがありながら、見事批評家賞を受賞しました。

 私は「リング」のほうがホラー映画としての完成度は上だと思いますが、麻美を演じた椎名英姫の演技ではなく素なんじゃないかと思わせるほどのハマりぶりが、この映画が米国のホラーファンから熱狂的支持を受けている理由だと思います。
 妖しげな美人ほど怖ろしく見える存在はないのはなぜでしょうね。
 
 このような異色作が米国で高く評価され、わが国ではあまり知られていないのは日本のホラーファンとして残念です。

オーディション [DVD]
石橋凌,椎名英姫,松田美由紀,大杉漣,石橋蓮司
角川エンタテインメント
オーディション (幻冬舎文庫)
村上 龍
幻冬舎
リング (角川ホラー文庫)
鈴木 光司
角川書店
リング [DVD]
鈴木光司,高橋洋
角川映画

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