私の先輩に、50歳ちかくなって職場で不祥事を起こして辞職に追い込まれ、さらには奥様に逃げられるという挫折を経験した人がいます。
さすがにその直後は落ち込んでいたようですが、ほどなくして就職活動を始め、誰もが名を知る大手商社に再就職を果たし、あまつさえ、還暦間近で5歳ほど年下の女性と再婚しました。
明るくてめげない性格が幸いしたようです。
前の奥様との間には息子が二人おり、二人とももう結婚して独立しているため、二人きりの甘い新婚生活をおくっています。
また、再就職はあくまで伝票作成のアルバイト的な仕事だったせいか、町内会の副会長職を引き受け、今は町内会の仕事が生き甲斐になっているようです。
まったく大したものです。
人によってはアル中みたいになって廃人同様になったり、自殺さえしかねない状況だったというのに。
私は35歳で精神障害を発症し、ほぼ克服するまで5年近く、出勤したり休職したりを繰り返しました。
今は最後の病気休職から復帰して6年目に入り、服薬は続けているもののそれは再発防止のためであり、量も一番多い時の5分の1くらいになっています。
昇任適齢期に発症したため、同期の中では最も昇任が遅れており、今は年下の上司にお仕えしています。
ところが不思議なことに、それを何とも思わないのです。
以前の私は出世頭で、その頃だったら耐えがたい屈辱と感じるような今の状況に、何の苦痛も感じないどころか、気楽でいいや程度で、平気の平左です。
さらには、困難な仕事や面倒な人間関係にあたっても、全然精神にダメージを受けません。
職場にいる間は多少とも嫌な気持ちになりますが、仕事が終わって職場を出た瞬間から、きれいさっぱり忘れてしまいます。
これは長い間求めていた境地です。
すっかり図々しくなりました。
それと、いい年をして出世しないと、周りの人が気を使って、ずいぶんと尊重されることに気づきました。
仕事が出来ずに今の立場に留め置かれているわけではありませんから、運の悪い人だとでも思われているのでしょう。
客観的な状況はともかく、主観的には、今座っている席、居心地が良いと感じています。
もちろん仕事が面白いとは思いませんし、出来れば早く退職して若隠居を決め込みたいものだとは思いますが、それこそ妄想のようなもので、現実味はありません。
であれば、現実の今を、とくだんの屈託もなく受け入れることが出来ていることをこそ、幸福と呼ぶべきなんでしょうね。
人間変われば変わるものです。
精神障害を患って良かったとまでは思いませんが、その経験から諦めることを学び、諦めることは心地よいと知ることが出来ました。
堕落と言えば堕落かもしれませんが、堕落もまた、快感をもたらすものです。