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インターネット競争の未来

『競争戦略論』より 戦略とインターネット

今後、インターネット技術によって各業界がどのように変わっていくかは、業界によって異なる。しかし、業界構造に影響を及ぼす競争要因について検証していくと、インターネット技術の導入によって多くの業界で収益性が圧迫されるということが見えてくる。

たとえば、どれくらい競争が激化するかを考えてみよう。多くのドットコム企業が廃業に追い込まれているが、その結果、合併が起こり、競争は沈静化していくように思える。しかし、新しいプレーヤー同士が合併する一方で、いまでは既存企業もインターネット技術に詳しくなっており、ビジネスをオンライン上で展開している。新規企業と既存企業の戦い、そしてこれに低い参入障壁が加わったことで、多くの業界では、企業の数が増え、それゆえインターネットが登場する以前より競争が激しくなるという傾向が見られる。

顧客の交渉力も高まっていくだろう。買い手は当初ほどウェブに興味を示さなくなり、オンラインで製品やサービスを販売する企業は、真のメリットを提供できることを証明しなければならなくなる。

プライスライン・ドットコムの逆オークション(買い手が希望条件を提示し、複数の売り手がこれに入札し、買い手は最安値を提示した売り手と取引する)などは、多くの場合、かかる手間に比べて節約できる金額が小さいため、顧客はすでに興味をなくしてしまっているようである。

顧客がインターネットに慣れてくれば、最初に出会ったサプライヤーヘのロイヤルティも次第に薄れていくことだろう。つまり、顧客はスイッチングコストが低いことに気づくのである。

同様の影響が、広告収入を当てにした戦略にも及ぶだろう。広告主は出稿媒体をこれまで以上に吟味して選択しているため、ウェブ広告の成長率は鈍化している。広告主は今後も広告料金を引き下げるために、インターネット広告を専門に扱う新手の代理店の力を借りながら、その交渉力を行使していくだろう。

ただし、悪いニュースばかりではない。技術進歩によって、収益性を強化できるチャンスもある。たとえば、ストリーミング動画の質が改善されたり、低コストの帯域をもっと利用したりすれば、顧客サービスの担当者やそれ以外の従業員が、PCを通じて顧客と直接やり取りできる。

オンライン小売業は、他社と差別化できると同時に、顧客の関心を価格から逸らすこともできる。また、銀行の自動決済サービスもスイッチングコストをある程度引き上げるだろう。しかし一般的には、インターネット技術によって買い手へのパワーシフトが起こり、業界の収益性は低下していくだろう。

インターネットが業界構造に与える影響を考える際には、長期的な影響を検討することが重要である。そのことを理解するためにeマーケットプレースについて考えてみたい。eマーケットプレースは、多数の買い手とサプライヤーを電子的に結び付けることで、購買活動を自動化する。買い手にすれば、低い取引コスト、価格や製品に関する情報の入手しやすさ、利便性の高い購買とその関連サービス、またいつもではないが共同購入の利用といった長所がある。一方サプライヤーにとっての利点としては、販売コストと取引コストの低さ、より広い市場へのアクセス、交渉力の大きい流通チャネルの回避などが挙げられる。

業界構造の観点から見れば、eマーケットプレースの魅力度は、取引される製品によって異なる。eマーケットプレースの利益を左右するのは、ある製品分野における買い手と売り手の間にある力関係といえる。もし、どちらかの数が少ないか、あるいは差別化された製品を所有しているという場合、交渉力も大きくなり、市場で創造された価値のほとんどを獲得できる。しかし、買い手も売り手も多種多様であれば、どちらの交渉力も弱く、そのためeマーケットプレースの運営者が利益を手にする可能性が高い。

業界構造を決定する要素としてもう一つ重要なのが、代替品の脅威である。もし、売り手と買い手が比較的簡単に相対取引できるなら、あるいは自分たち専用のeマーケットプレースを簡単につくれるのであれば、独立系マーケットプレースが利益を高水準で維持することは難しくなる。

最終的には、参入障壁を築けるかどうかが決定的に重要である。何十というeマーケットプレースがしのぎを削っている業界があり、そこでは、買い手も売り手もあえて複数のeマーケットプレースで取引したり、独自の取引所を運営したりすることで、特定のeマーケットプレースに力が偏るのを防止している。このように参入障壁が低いと、業界の収益性が低下するのは必至である。

eマーケットプレース間の競争は過渡期にあり、また業界構造も変化している。そこで創造される経済的価値の大半は、彼らが確立した規格、すなわち技術プラットフォーム、そして情報を結合・交換するためのプロトコルから生まれている。ただし、規格がコ度できてしまうと、eマーケットプレースが生み出しうる付加価値は制約を被るかもしれない。

買い手やサプライヤーがeマーケットプレースに提供するもの、たとえば受注の詳細や在庫状況などの情報は、すぐにでも自社サイトで提供できる。また仲介業者なしでも、サプライヤーと顧客は、オンラインで相対取引を始められる。新技術が登場すれば、間違いなく財や情報の検索と交換はいっそう簡単になる。

eマーケットプレースが優位性や高い収益性を維持できる分野もあるだろう。たとえば不動産や家具など個別性の高い業界では、eマーケットプレースはうまくいく可能性がある。そこでは、独立系マーケットプレースだけが提供できる、新たな付加価値を生み出すサービスが登場するかもしれない。

しかし多くの分野では、eマーケットプレースは、相対取引に取って代わられるか、購買、情報処理、資金調達、ロジスティックスサービスなどに分解されるだろう。他の分野では、市場参加者や業界団体などがeマーケットプレースを買収し、コスト・センターとして運営するかもしれない。このような場合、eマーケットプレースは、自分たちの利益のためではなく、参加者たちに価値ある「公共財」を提供することになる。

長期的には、オープンなeマーケットプレースから、多くの買い手が離れていくことだろう。そしてインターネット技術を活用してさまざまな面で効率を改善しながら、あらためて少数のサプライヤーと密接かつ固有の関係を構築していくのではないだろうか。
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