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弱い紐帯~クチコミ関係の資料

弱い紐帯にもネットワーク資源が埋まっている。転職に関する有用な情報は,強い紐帯よりも弱い紐帯から手に入れやすい。強い紐帯との間では日常の情報源を共有している可能性が高く新規な有用性に欠ける。一方,弱い紐帯は自分と異なる「世界」に暮らしているため異質な情報源を有している可能性が高い。つまり,弱い紐帯のもつ「ネットワーク資源」とは,強い紐帯の中には存在しない関係性の異質さや新鮮さ,紐帯人数の多さからくる確率の高さを基盤としている。新しい流行や新商品の有用性の認識も弱い紐帯をつたってくる可能性が高く(「クチコミ」である),なかなか手に入らないチケットや施設の優待的利用,商品の特別割引など「コネ」に近い道具的な機会も弱い紐帯を介した流入ルートからやってくることが多い。

弱い紐帯のもたらすメリットは異質な相手との結合によって生じるものである以上,そこには固有のデメリットが伴う。

第1に,弱い紐帯からくる情報の信憑性には問題が生じうる。強い紐帯と異なり,アイデンティティーを共有したり緊密な関係にある相手ではないため,手に入る情報資源の信憑性の判断がしばしば問われる。「がせねた」や「ためにする情報」をつかまされることもある。一方で,情報を探している本人その人の信用や信頼が大きく問われることもある。転職情報を手に入れたが,自分がその職業にふさわしい人材であることを転職情報の発信者に証明しなければ,それ以上転職話が実際に進展しないということは十分考えられるだろう。

第2に,弱い紐帯との関係性の異質さそのものが,対人的葛藤とストレスの源泉になる。異質な他者とは,よって立つ規範や文化が異なる,マナーが異なるなど,しばしばコミュニケーションの「ずれ」を経験することになる。関西と関東,年長と年少,さらにはちょっとした校風の違いといったことですら,しばしば軋慄を生み出す。

第3に,定義上,弱い紐帯は強い紐帯より広いネットワークであり,直接的なつながりでも強い紐帯の人数よりはるかに多数存在する。このことはネットワークを維持するコストが高くつくことを意味する。長期にわたって,ある紐帯を維持し続けるために,特段の情報取得のメリットがないときでも関係性維持のコストがかかるのは強弱どの紐帯にもあてはまる。連絡を欠かさない,ときに会食する,こちらからの情報を提供する機会を差し出す,などはいずれの紐帯でも行われるが,単位あたり(1人あたり)のコストが安価でも,それが100人の弱い紐帯すべてであったらどうなるか,考えるとよい。

第4に,弱い紐帯がもたらす資源について,他者との競合コストが存在する。同じ資源を手に入れたい人は1人とは限らない。それは転職のケースだけではないだろう。プレミアム・チケットの入手なども含めて,一般的に希少性がある資源の獲得で生じやすい。このようなときに自分のほうが優先される紐帯であるようにするためになんらかのコストを払わなければならないかもしれない。一方,他者との競合のない弱い紐帯をもつことは強力である。先に述べた不公平感の例はそれである。つまり弱い紐帯は機会の利益をもたらすばかりでなく,情報の独占ルートとしてネットワーク統制力をもつ。会社で有利な取引先の情報を独占する営業社員を考えてみてもよい。社員の情報共有はよく謳われるが,自分のネットワーク統制力を維持するために,共有をいやがる社員は多い。それは彼の勢力の源泉なのである。
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