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<インターネット>の次に来るもの フローイング(流れていく)

『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』より ⇒ 乃木坂の活動から得た、新しいメディアの特徴は流れていく!

「無料より良い」八つの生成的なもの

即時性

 あなたがほしいと思うどんなものもいずれは無料コピーを手に入れられるが、それが製作者によって発表された時点や、さらには製作された時点で自分の手元に届いていたら、それは生成的な価値になる。多くの人は映画作品の公開初日の夜にかなりの金額を払って映画館に観に行くが、その作品はいずれ無料になったり、レンタルやダウンロードでほぼタダになったりするものだ。つまり本質的には、彼らは映画にお金を払っているのではなく(無料でも観られる)、即時性に対して払っているのだ。ハードカバーの本は即時性を提供するからより値段が高いのであり、硬いカバーの装禎はただの見せかけだ。同じ商品でもそれを最初に手に入れるという場合には、得てして追加料金が課される。即時性には売れる資質としていろいろなレベルがあり、その一つにベータ版を手に入れることも含まれる。アプリやソフトウェアのベータ版は以前なら不完全なものとして価値が低かったが、そこに即時性があることが理解されるにつれて、価値を持つようになってきた。即時性は相対的(分単位から月単位まで)なものだが、どんなプロダクトやサービスにも当てはまる。

パーソナライズ

 コンサートを録音した一般的な盤は無料になるだろうが、あなたの部屋の音響環境にぴったりに調整されて、まるで家のリビングルームで演奏されているような音が出るなら、かなりお金を払ってもいいと思えるだろう。そこでの出費はコンサートのコピーに対してではなく、生成的な個人化に対してだ。本の無料コピーがあったとしても、出版社があなたのこれまでの読書歴に合わせて編集してくれればパーソナライズできる。無料の映画も家族全員で見られるように(セックス描写や子ども向けでない部分をカットするなどして)調整されればお金を払う。その両方の例において、あなたはコピーを無料で入手し、パーソナライズにお金を払うことになる。今日ではアスピリンは基本的に無料のようなものだが、アスピリンをベースにあなたのDNAに適合するように調整された薬は、価値がある高価なものになるだろう。こうしたパーソナライズのためにはクリエーターと消費者、アーティストとファン、プロデューサーとューザーの間でやり取りを続けなくてはならない。相互に時間をかけて行なわなくてはならないために、それは非常に生成的なものとなる。マーケターはこれを「粘着性」と呼んでいるが、それは相互にこの生成的な価値にはまり、さらに投資することで、その関係性を止めてやり直そうとはしなくなるからだ。この手の深い関係は、カット&ペーストすることはできない。

解釈

 「ソフトは無料ですが、マニュアルは1万ドルです」という古いジョークがある。しかしもはや冗談ではない。レッドハット[Red Hat]やアパッチ[Apache]といった高収益を叩き出す企業は、フリーソフトの使い方を指導したりサポートしたりしてビジネスをしている。ただのビットに過ぎないコードのコピーは無料だ。その無料のコードにサポートやガイドが付くことで、価値のあるモノになる。多くの医学的こ忽伝的な情報が、これから10年の間に同じ道をたどることになるだろう。いまはまだ、あなたの全DNA情報を入手するのは非常に高価(1万ドル)だが、すぐにそうではなくなる。価格の下落は急速で、すぐにそれが100ドルになり、その翌年には保険会社が無料でやってくれるようになるだろう。一旦配列が明らかになれば、それがどんな意味を持ち、何ができて、どう使えばいいのかという解釈--いわば遺伝子のマニュアル--が高価なものになる。こうした生成的なものは、旅行や医療管理などの他の複雑なサービスにも応用できる。

信頼性

 流行のアプジを裏ネットで無料で手に入れることはできるかもしれないが、仮にマニュアルは要らなくても、そのアプリにバグがないことや、マルウェアやスパムでないことは保証してほしくなるかもしれない。その場合、信頼のおけるコピーには喜んでお金を払うだろう。同じ無料ソフトでも、目に見えない安心がほしくなる。あなたはコピー自体ではなく、その信頼性にお金を払うのだ。グレイトフルデッドの演奏の録音は雑多なものがいくらでもあるが、バンド自体から信頼できるものを買えば、自分がほしいものが確実に手に入るし、それは正真正銘このバンドが演奏したものだ。アーティストはこの種の問題に長いこと悩まされてきた。写真やリトグラフなどの複製画像には、アーティストが保証する印としてスタンプが押されたりサインが付いたりして、それでコピーの値段が上がる。デジタル方式のウォーターマークや他のサインを入れるテクノロジーは、コピー防止の方法としては機能しないが(コピーは超伝導の流れだから)、品質が気になる人にとっては、信頼性を生成するものとして役に立つ。

アクセス可能性

 所有することは得てして面倒なことだ。いつも整理し、最新のものにし、デジタル素材だったらバックアップを取っておかなくてはならない。いまやモバイルが普及し、いつもそれを持ち歩かないといけない。私も含め多くの人々が、自分の持ち物の面倒を誰かに見てもらって、あとは会員登録してクラウドから気ままに使いたい。これからも本を持ち歩いたり、以前に買った大好きな音楽はそのまま所有するだろうが、いつでも好きなときにほしいものを出せるなら、アクメーデジタル倉庫といったサービスに私はお金を払う。大抵のこうしたものはどこかで無料で手に入るかもしれないが、あまり便利ではない。有料のサービスに加入していれば、無料の素材にすぐアクセスできて、自分の使っているさまざまな端末で使え、しかもユーザーインターフェースがすばらしい。これは一部、アイチューンズ[iTunes]がクラウド上で実現している。どこかで無料でダウンロードできる楽曲でも、使い勝手よくそれにアクセスするためならあなたはお金を払う。そのときの対価はその素材自体ではなく、いちいち保管する手間をかけず簡単にアクセスできることなのだ。

実体化

 デジタルコピーの核心は、実体がないことだ。私はデジタル版のPDFの本を読むのは好きだが、ときには革装本の明るくざらついた紙に印刷された言葉も味わい深く、とても気分が良いものだ。ゲーマーたちはオンラインで友人との戦闘ゲームを楽しんでいるが、しばしば一緒に同じ部屋で遊びたくなる。人々はネットでライブストリーミングもされるイベントに、何千ドルも払って実際に参加する。触れられない世界よりも実体化された世界のほうが良い例はいくらでもある。家庭には置けないような最新式のものすごいディスプレーを求めて、人々は自ら移動して劇場やホールに向かう。劇場にはいち早くレーザー投射やホログラフのディスプレー、つまり『スター・トレック』のホロデックそのものが出現しそうだ。それに本当に身体を使う音楽のライブパフォーマンスほど実体を伴うものはない。この例では、音楽は無料で、身体的パフォーマンスが高価なのだ。実際に現在は、多くのバンドが楽曲販売ではなく、コンサートで稼いでいる。この公式は、ミュージシャンだけでなく作家の世界でも急速に普及し始めた。本は無料だが、身体性を伴う講演は高くなるのだ。ライブコンサートのツアー、生のTEDトーク、ラジオのライブショー、ボッブアップのフードツアーなどはすべて、ダウンロードすれば無料な何かに一時的な身体性を付加することで力や価値が加わることの証なのだ。

支援者

 熱心な視聴者やファンは心の中ではクリエーターにお金を払いたいと思っている。ファンはアーティストやミュージシヤン、作家、役者などに、感謝の印をもって報いたいと思っている。そうすることで、自分が高く評価する人々とつながることができるからだ。しかし彼らがお金を出すには、かなり厳しい四つの条件がある。1.支払いが非常に簡単であること、2.額が妥当なこと、3.払ったメリットが明快なこと、4.自分の払ったお金が確実に直接クリエーターのためになっていることだ。バンドやアーティストがファンに無料のコピーの対価として好きな金額を払ってもらう投げ銭制の実験が、そこかしこで始まっている。その方式は基本的に機能している。これこそ、支援者の力を典型的に表すものだ。感謝を示すファンとアーティストの間に流れる捉えどころのない結び付きは、確実に価値がある。投げ銭制を最初に始めたバンドの一つが、ヒアィオヘッドだ。この例では、2007年のアルバム『イン・レインボウズ』をダウンロードするごとに平均2・26ドルが払われ、それ以前に出したアルバムの総売上を上回る収入があり、CDの売上は数百万枚に上った。その他にも、単に手に触れられるモノではなく喜びを得たいためにオーディエンスがお金を払う事例はいくつもある。

発見可能性

 これまでの生成的なものはどれも、創作物に関するものだった。一方で発見可能性とは、多くの創作物が集まることで生じる価値だ。どんなに高価な作品でも、見てもらえなければ無価値だ。見つからない傑作には価値がない。大量の本、大量の楽曲、大量の映画、大量のアプリ、大量のあらゆるものが--それらの多くは無料だ--われわれの注意を奪い合う時代に、発見してもらうことは価値を持つ。それに、毎日のように爆発的な数のものが作られる中で、見つけてもらうことはどんどん難しくなっていく。ファンは数えきれないほどのプロダクトの中から、価値あるものを発見するために多くの方法を駆使する。批評家や評論、ブランド(出版社、レーベル、スタジオなど)を使う他、いまやファンや友人のお勧めから探すことがますます増えている。そうしたガイドにどんどんお金を払うようになっているのだ。お勧めの番組を教えてもらおうとTVガイド誌を買う読者が100万人もいたのはそれほど昔のことではない。ここで強調しておきたいのは、そうした番組が無料なことだ。TVガイド誌は、ガイドしている3大ネットワークのテレビ局を合わせた以上の収入を得ていたと言われる。アマゾンの最大の資産はプライム配送サービスではなく、この20年にわたって集めた何百万もの読者レビューだ。アマゾンの読者は、たとえ無料で読めるサービスが他にあったとしても、「キンドル読み放題」のような何でも読めるサービスにお金を払う。なぜならアマゾンにあるレビューのおかげで、自分の読みたい本が見つかるからだ。それはネットフジックスにも当てはまる。映画ファンはネットフジックスにお金を払っていれば、そのレコメンド機能のおかげで、他では発見できなかったすばらしい作品が見つかるわけだ。それらはどこかに無料であるのかもしれないが、基本的には見失われ埋もれたままだ。こうした事例では、あなたは作品のコピーではなく、発見可能性にお金を払っている。
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