未唯への手紙
未唯への手紙
定年後うつ病
『57歳からの意識革命』より
男性にとって定年制度はじつにむごい制度です。政府は65歳まで働けるようにしろと言っていますが、65歳でもまだまだ元気です。十分に働ける人を辞めさせる定年退職は、社会からの退場宣告にも近いのではないかと私は感じています。
私は定年の近い患者さんたちには皆「なんらかの形で仕事を続けたほうがいいですよ」とアドバイスしてきました。仕事が無理ならボランティアでもいいから社会に関わり続けることです。家に閉じこもったり、ごろごろしているのが一番いけない。これは私の治療経験からの確信です。また、私は病院以外のいろいろな活動でさまざまな高齢男性の方と接してきました。病人ばかりとおつきあいしてきたわけではないのです。
定年退職によって隠居生活に入ってはいけないというのは、そういう見聞のうえでの確固たる思いです。
患者さんたちの多くは仕事のストレスでうつ状態になったので、定年後は早く仕事のストレスから逃れたいと言います。そして私が「じつは定年後のほうがつらいんですよ。仕事を続けたほうが絶対にいいですよ」とアドバイスしても、とりあえずゆっくりしたいと言って退職なさいます。そうしてしばらくは旅行や趣味のゴルフ・釣りなどを満喫し、また読書などに打ち込むのですが、次第に体調が悪くなってくるのです。早い人で数か月、遅い人でも2、3年くらいで症状が出てきます。結局、現役時代と同じようなうつ状態になるのですが、この「定年後うつ病」は簡単には治せません。現役時代はストレスが多いためにうつ病になったのだから、ストレスを少なくしたり、ストレスの避け方を工夫すれば事足りました。しかし、何のプレッシャーもないと、人はやる気を失ってしまいます。定年後はストレスのないことがストレスになるのです。だから対応がむずかしい。
あるデータをご紹介しましょう。それは定年後の男性の自殺が意外に多いことを示しています。「年代別の自殺者数」に関する厚労省の平成15年の統計です。
これによれば、女性の自殺者数は、20代後半から50歳くらいまでほとんど変わりません。
それに比べて男性の自殺は、年齢が上がるごとに増えていきます。
これは、男性は仕事のストレスの影響を受けやすいからだと考えられます。では、仕事をリタイアしているはずの60代前半の男性の自殺者があまり減らない(10万人あたり58・4人)のはなぜでしょうか。
60代以上の男性は時間に追われることもありませんし、失敗が許されないというストレスもありません。経済的にはそれほどゆとりがなくても、多くの方が退職金をもらっているでしょうし、年金があります。そういう人たちがなぜ自殺に追い込まれるのでしょうか。
その理由は、この年代の男性が仕事を辞めて引退し、自分の社会的役割を見失ってしまい、強い孤独感と喪失感の中にいるからではないかと想像されます。
まだ働いている50代後半の男性の自殺者数は10万人あたり71・1人とすべての年代の中で最も多いわけですが、これも、定年退職後の不安が強く影響していると思われるのです。
気持ちがしっかりしていれば、人は多少の病気や経済的な問題で死のうとは考えません。自分は世の中に必要ないのではないかと落ち込んでいるときに、病気を患ったり経済的に行き詰まったりすることが、自殺への大きな引き金になるのだと思います。あるいは逆に、病気や経済的問題がうつ状態を引き起こすのです。どちらにしても、病気や経済的な問題が直接自殺の原因になるとは考えられません。
がんの患者さんで死にたいと言う人もいるでしょうが、むしろ最後まで治療法を求めて東奔西走したりしてがんばる方のほうがはるかに多いのではないでしょうか? うつ病でないかぎり、普通の方は生に執着すると思います。私の患者さんにも、病気を抱えていて、ときどき死にたいとおっしやる方がいますが、メンタル面を治療すれば、そういうことは言わなくなり、死にたいと言っていたことが嘘のように元気に暮らしていらっしやいます。
自殺の原因がうつ病であり、孤独がその引き金になっていると確信するからこそ、私は引退すべきではなく、できれば仕事をし、無理ならボランティアでも何でもいいから、社会的な絆を持ち続けるべきだと主張しているのです。
男性にとって定年制度はじつにむごい制度です。政府は65歳まで働けるようにしろと言っていますが、65歳でもまだまだ元気です。十分に働ける人を辞めさせる定年退職は、社会からの退場宣告にも近いのではないかと私は感じています。
私は定年の近い患者さんたちには皆「なんらかの形で仕事を続けたほうがいいですよ」とアドバイスしてきました。仕事が無理ならボランティアでもいいから社会に関わり続けることです。家に閉じこもったり、ごろごろしているのが一番いけない。これは私の治療経験からの確信です。また、私は病院以外のいろいろな活動でさまざまな高齢男性の方と接してきました。病人ばかりとおつきあいしてきたわけではないのです。
定年退職によって隠居生活に入ってはいけないというのは、そういう見聞のうえでの確固たる思いです。
患者さんたちの多くは仕事のストレスでうつ状態になったので、定年後は早く仕事のストレスから逃れたいと言います。そして私が「じつは定年後のほうがつらいんですよ。仕事を続けたほうが絶対にいいですよ」とアドバイスしても、とりあえずゆっくりしたいと言って退職なさいます。そうしてしばらくは旅行や趣味のゴルフ・釣りなどを満喫し、また読書などに打ち込むのですが、次第に体調が悪くなってくるのです。早い人で数か月、遅い人でも2、3年くらいで症状が出てきます。結局、現役時代と同じようなうつ状態になるのですが、この「定年後うつ病」は簡単には治せません。現役時代はストレスが多いためにうつ病になったのだから、ストレスを少なくしたり、ストレスの避け方を工夫すれば事足りました。しかし、何のプレッシャーもないと、人はやる気を失ってしまいます。定年後はストレスのないことがストレスになるのです。だから対応がむずかしい。
あるデータをご紹介しましょう。それは定年後の男性の自殺が意外に多いことを示しています。「年代別の自殺者数」に関する厚労省の平成15年の統計です。
これによれば、女性の自殺者数は、20代後半から50歳くらいまでほとんど変わりません。
それに比べて男性の自殺は、年齢が上がるごとに増えていきます。
これは、男性は仕事のストレスの影響を受けやすいからだと考えられます。では、仕事をリタイアしているはずの60代前半の男性の自殺者があまり減らない(10万人あたり58・4人)のはなぜでしょうか。
60代以上の男性は時間に追われることもありませんし、失敗が許されないというストレスもありません。経済的にはそれほどゆとりがなくても、多くの方が退職金をもらっているでしょうし、年金があります。そういう人たちがなぜ自殺に追い込まれるのでしょうか。
その理由は、この年代の男性が仕事を辞めて引退し、自分の社会的役割を見失ってしまい、強い孤独感と喪失感の中にいるからではないかと想像されます。
まだ働いている50代後半の男性の自殺者数は10万人あたり71・1人とすべての年代の中で最も多いわけですが、これも、定年退職後の不安が強く影響していると思われるのです。
気持ちがしっかりしていれば、人は多少の病気や経済的な問題で死のうとは考えません。自分は世の中に必要ないのではないかと落ち込んでいるときに、病気を患ったり経済的に行き詰まったりすることが、自殺への大きな引き金になるのだと思います。あるいは逆に、病気や経済的問題がうつ状態を引き起こすのです。どちらにしても、病気や経済的な問題が直接自殺の原因になるとは考えられません。
がんの患者さんで死にたいと言う人もいるでしょうが、むしろ最後まで治療法を求めて東奔西走したりしてがんばる方のほうがはるかに多いのではないでしょうか? うつ病でないかぎり、普通の方は生に執着すると思います。私の患者さんにも、病気を抱えていて、ときどき死にたいとおっしやる方がいますが、メンタル面を治療すれば、そういうことは言わなくなり、死にたいと言っていたことが嘘のように元気に暮らしていらっしやいます。
自殺の原因がうつ病であり、孤独がその引き金になっていると確信するからこそ、私は引退すべきではなく、できれば仕事をし、無理ならボランティアでも何でもいいから、社会的な絆を持ち続けるべきだと主張しているのです。
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