未唯への手紙
未唯への手紙
「くまモン」が「ひこにやん」の三七倍も売り上げる理由
『著作権法がソーシャルメディアを殺す』より
「初音ミク」に見る新しい音楽ビジネスモデル
さて、これ以上のネットビジネス植民地化現象を防ぐためには、フェアユース規定が必要であるのはいうまでもないが、これはあくまでも必要条件であって、十分条件ではない。
北海道・札幌市に本社を置くクリプトン・フューチャー・メディアが二〇〇七年、ヤマ(の音楽合成ソフト「ボーカロイド」をもとに「初音ミク」を発売した。ユーザーが歌詞とメロディを入力すると、ユーザーが入力したとおりに少女の声で歌う仮想の歌手キャラクターである。
同社は、非営利であれば、この仮想アイドルの二次創作を自由に認めたうえ、ファンが作品を公開するサイト「ピアプロ」を提供したことで人気に火がついた。ニコニコ動画もJASRACと包括契約を結び、JASRAC管理下の楽曲を自由に使えるようにした。
このため、二コニコ動画に初音ミクを題材にした作品が数多く投稿されるようになり、オリコンのヒットチャートで一位を獲得するCDまで生まれている。二〇一一年には、アメリカーロスアンゼルスでのライブコンサートを成功させるなど、世界に羽ばたいている。
ソーシャルメディアの時代には、このように、だれでもクリエーターになれるだけでなく、その成果をネットを通じて手軽に発信することができる。ところが、現在の著作権法は、ひと握りの天才が創作し、少数の限られたマスメディアが媒介して、大勢の一般大衆に送り届けた時代に骨格ができたものである。
初音ミクを販売するクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長は、次のように指摘している。
権利をがっちり握って複製権を行使して儲けるビジネスモデルはもう終わったと思うんです。 (日経エンタテインメント!」一〇一二年五月号、日経BP社)
「くまモン」が「ひこにやん」の三七倍も売り上げる理由
使用料フリーで成功した最近の例としては、熊本県のご当地キャラクター「くまモン」がある。二〇一〇年三月の九州新幹線の開通にあわせて登場し、二〇一一年の「ゆるキャラグランプリ」で優勝した。二〇コー年の関連商品の売り上げは二九三億円だから、二〇〇六年に登場したゆるギャラ元祖「ひこにゃん」(滋賀県彦根市)の八億円のほぼ三七倍にのぽる。
ひこにゃんが関連商品販売額の三パーセントの商標使用料を徴収するのに対して、くまモンは使用料を徴収しない。[熊本県のPRにつながるか、県産品のPR促進につながること]を条件に無料使用を認めたのだ。その理由について、熊本県庁くまもとブランド推進課課長の成尾雅貴氏は、次のように説明する。
くまモンが〝ブランド〟として認められれば、商品化された企業はうるおい、熊本県は熊本の良さを全国にPRしていただける。双方に利益が出る〝ウィンウィンの関係〟です。(「女性セブン」二〇一三年五月二日号、小学館)
先に、丸山氏の「いっそ権利より知名度を選ぶ戦略もある」という指摘を紹介した(第3章参照)。くまモンの関連商品の売り上げがひこにゃんの三七倍もあるというのは、権利より知名度を選ぶ戦略が有効であることを裏づける数字である。
初音ミクの成功例とともに、第1章で紹介した「行き詰まったビジネスモデル」を法改正で食い止めようとしたが、実現しなかった日本の音楽産業が参考にすべき事例といえよう。
また、音楽産業にかぎらず、成尾氏が指摘するように、「ウィンウィンの関係」にもっていくことがコンテンツ産業成功の鍵を握っている。
限られたパイの分捕り合戦を展開するのではなく、パイを大きくして、関係者全員がその分け前に与れるようにすることである。
初音ミクやくまモンは、権利者が自由利用を認めたからこそ、パイを大きくできたわけだが、引用など個別の権利制限規定に該当する場合は別として、権利者が許諾しないかぎりコンテンツを利用できないとなると、パイを大きくする機会も限られてしまう。
どうすれば、パイを大きくする機会をもっとふやせるだろうか。以下、その方法について考えたい。
「初音ミク」に見る新しい音楽ビジネスモデル
さて、これ以上のネットビジネス植民地化現象を防ぐためには、フェアユース規定が必要であるのはいうまでもないが、これはあくまでも必要条件であって、十分条件ではない。
北海道・札幌市に本社を置くクリプトン・フューチャー・メディアが二〇〇七年、ヤマ(の音楽合成ソフト「ボーカロイド」をもとに「初音ミク」を発売した。ユーザーが歌詞とメロディを入力すると、ユーザーが入力したとおりに少女の声で歌う仮想の歌手キャラクターである。
同社は、非営利であれば、この仮想アイドルの二次創作を自由に認めたうえ、ファンが作品を公開するサイト「ピアプロ」を提供したことで人気に火がついた。ニコニコ動画もJASRACと包括契約を結び、JASRAC管理下の楽曲を自由に使えるようにした。
このため、二コニコ動画に初音ミクを題材にした作品が数多く投稿されるようになり、オリコンのヒットチャートで一位を獲得するCDまで生まれている。二〇一一年には、アメリカーロスアンゼルスでのライブコンサートを成功させるなど、世界に羽ばたいている。
ソーシャルメディアの時代には、このように、だれでもクリエーターになれるだけでなく、その成果をネットを通じて手軽に発信することができる。ところが、現在の著作権法は、ひと握りの天才が創作し、少数の限られたマスメディアが媒介して、大勢の一般大衆に送り届けた時代に骨格ができたものである。
初音ミクを販売するクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長は、次のように指摘している。
権利をがっちり握って複製権を行使して儲けるビジネスモデルはもう終わったと思うんです。 (日経エンタテインメント!」一〇一二年五月号、日経BP社)
「くまモン」が「ひこにやん」の三七倍も売り上げる理由
使用料フリーで成功した最近の例としては、熊本県のご当地キャラクター「くまモン」がある。二〇一〇年三月の九州新幹線の開通にあわせて登場し、二〇一一年の「ゆるキャラグランプリ」で優勝した。二〇コー年の関連商品の売り上げは二九三億円だから、二〇〇六年に登場したゆるギャラ元祖「ひこにゃん」(滋賀県彦根市)の八億円のほぼ三七倍にのぽる。
ひこにゃんが関連商品販売額の三パーセントの商標使用料を徴収するのに対して、くまモンは使用料を徴収しない。[熊本県のPRにつながるか、県産品のPR促進につながること]を条件に無料使用を認めたのだ。その理由について、熊本県庁くまもとブランド推進課課長の成尾雅貴氏は、次のように説明する。
くまモンが〝ブランド〟として認められれば、商品化された企業はうるおい、熊本県は熊本の良さを全国にPRしていただける。双方に利益が出る〝ウィンウィンの関係〟です。(「女性セブン」二〇一三年五月二日号、小学館)
先に、丸山氏の「いっそ権利より知名度を選ぶ戦略もある」という指摘を紹介した(第3章参照)。くまモンの関連商品の売り上げがひこにゃんの三七倍もあるというのは、権利より知名度を選ぶ戦略が有効であることを裏づける数字である。
初音ミクの成功例とともに、第1章で紹介した「行き詰まったビジネスモデル」を法改正で食い止めようとしたが、実現しなかった日本の音楽産業が参考にすべき事例といえよう。
また、音楽産業にかぎらず、成尾氏が指摘するように、「ウィンウィンの関係」にもっていくことがコンテンツ産業成功の鍵を握っている。
限られたパイの分捕り合戦を展開するのではなく、パイを大きくして、関係者全員がその分け前に与れるようにすることである。
初音ミクやくまモンは、権利者が自由利用を認めたからこそ、パイを大きくできたわけだが、引用など個別の権利制限規定に該当する場合は別として、権利者が許諾しないかぎりコンテンツを利用できないとなると、パイを大きくする機会も限られてしまう。
どうすれば、パイを大きくする機会をもっとふやせるだろうか。以下、その方法について考えたい。
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