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拡がる学習機会の地域格差

『持続可能な地域のつくり方』より 未来を切り拓く力を育む 「次世代教育」
大学がたくさんある都道府県ほど、高校生の大学進学率が高い。トップの東京には138の大学があるのに対して、最下位の島根・佐賀には2大学しかない。近所に大学があれば、大学生と知り合ったり、関連イベントに参加したりと、新しい学びに触れられる機会が増える。確かに、東京大学や東京蕎術大学のお膝元である東京都文京区、台東区などの小学校では、美大生によるアート講座、一流科学者の実験教室、五輪経験者によるかけっこ教室など、誰もがワクワクする学びの機会が大学や大学生・卒業生グループにより提供されている。地域で暮らす子どもたちと比べて、最先端の学習機会に恵まれているのは明らかだ。
一方、地域での暮らしは、昔ながらの濃密な人間関係、子どもたちの好奇心・冒険心・身体力を育む自然体験ができる機会に恵まれている。「飯が食える魅力的な大人を育てる」をコンセプトにュニークな教育を行う花まる学習会の代表、高漬正伸氏は、幼少期には何よりも外遊び、自然体験が重要だと提唱している。私も過去の体験や子どもたちの姿から、自然体験が人生基盤を作るという考え方には大賛成である。
私自身、大都市圏の子どもたち、地方圏の子どもたち両方と学校の授業を通じて接する機会がある。小学生を見ている限りは、子どもたちに学習意欲の違いは感じられない。しかし、中学生・高校生と年齢を重ねていくにあたって、学習意欲を失っていく若者が多いこと、それが特に地域に多い印象は抱いていたが、確信は持てていなかった。
そんな折に、大きな衝撃を受ける調査に出会った。2017年実施の「学習意欲とつながりに関する調査(以降、学習意欲調査)」である。この調査では、都市の人口規模(政令都市、県庁所在都市、その他市部、町村部)と中学生・高校生の学習意欲、困難なことへの挑戦意欲、将来の展望などに差があり、人口規模が小さくなればなるほど、多くの項目で低下することが報告されている。
学習意欲の格差
 同調査によると、「学ぶこと、勉強することが好きだ」と回答した全国の中高生は3分の1程度の36・2%にとどまる。その回答率は、人口規模が小さくなるに連れて、下がる傾向があり、政令指定都市と町村部では8・7ポイントの差がある。
 「うまく行くかわからないことにも積極的に取り組む」というチャレンジ姿勢に関する項目でも、同様の傾向で政令指定都市と町村部で10ポイント以上の差がみられる。
将来展望(将来の夢・希望・可能性)の格差
 「私は将来なりたい職業、夢がある」と回答した中学生・高校生は全国平均で46・9%と半数に満たない。半数未満というと低いように見えるが、大学生や高校生相手の授業をしていると、私が学生時代(90年代)に比べて学生たちが真剣に将来のことを考えていることによく驚かされる。有名大学に進学する、大企業に勤めあげる、そんな分かりやすい成功への道がなくなっていることを学生たち自身が一番実感しており、自分なりの道を模索している証かもしれない。
 地域の人口規模で最も大きな差が見られる項目が「私は今後お金持ちになれる可能性がある」と回答した割合である。政令指定都市では44・O%なのに対して、町村部では27・5%と15ポイント以上差がある。経済的成功者の話題や成功ストーリーに、インターネットやテレビなどを通じていくらでも接触できる時代である。しかし、今自分が暮らしている狭い生活環境、人間関係の中では、「自分がお金持ちになれる」という未来をリアルに描きにくいのが、町村部で暮らす子どもたちの実態のようだ。
自己肯定感の格差
 日本人は「自己肯定感」が低いという調査結果をよく眼にする。内閣府実施の国際比較調査によると、「自分白身に満足している」という若者の割合が、45・8%と半分を切り、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国からも大きく離されて、最下位である。学習意欲調査でも「自分自身のことが好きである」は26・5%と非常に低い。なかでも、町村部の子どもは21・7%と政令指定都市の子どもと比べて7・3ポイントも低い。
学習意欲、将来展望、自己肯定感の関係性
 将来展望、自己肯定感、学習意欲の3つの間には一定の相関関係が見られる。学習意欲を高めるためには、自己を肯定し自分に自信を持つこと(自己肯定)、そして将来の夢を描き自分の未来に可能性を見出すこと(将来展望)が鍵を握っているのだ。
 そして、大都市圏と町村部の間で、自分の明るい将来を描き大きな夢を持つ機会、自分自身に自信を持ち自分を肯定できる機会が不足しており、それが原因で子どもたちの学習意欲、さらには学力の格差が生まれている可能性がある。

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