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現代哲学はいかにして生まれたか

『我関わる、ゆえに我あり』より

社会との関わりの中で生身としての「人間とは何か」を問う人物も現れます。カール・ハインリヒ・マルクス(一八一八~一八八三)です。

ダーウィンの進化論に刺激を受けたマルクスは、人間の発展を社会の歴史的な発展に重ね合わせて考えようとします。変化していくという現象の変化の原動力は何なのか、と彼は考えます。そこで生まれてくるのが、唯物史観であり、資本論です。

彼が社会との関わりの中で人間を問うようになったのは、社会や世界といったものが問える対象になったからです。とりわけ、近代国家の誕生が大きな意味を持ちました。

このことは、世界や社会といったものが、自分と関わりを持つ存在になったということに他なりません。逆にいえば、自分という存在を問う場合、すなわち「人間とは何か」を問う場合、世界、社会、国家といったものとの関わりの中で問わなければならなくなったということです。

こうした考え方は、世紀を越えて二十世紀になると、さらに深まっていきます。

十九世紀末に数学が発達しますが、そこで生まれた集合論を適用して、その世界という全体と人間の関係について考えようとしたのが、バートランド・ラッセルです。集合論とは「数の集まり」を数のように論じる数学で、全体は要素から成り立っていると考えますが、ラッセルは、この考え方を適用して哲学を再構築しようと試みます。

同時期に、数学によって生み出された記号論理学も、哲学に大きな影響を及ぼします。何よりもこれによってアリストテレス以来の論理学が決定的に変わります。論理学が、証明に裏打ちされる数学の世界で表現できるようになったからです。

それを哲学に適用して、画期的な哲学を構築したのが、二十世紀オーストリアの哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(一八八九~一九五こです。

彼は、哲学の分野で初めて世界という総体を考えました。彼の考え方は、「世界は言語ゲームから成り立っている」というものです。以下、その考え方を箇条書き的に紹介してみましょう。

 ・ゲームのルールは「ひとつの事実に、ひとつの言語を対応させる」というシンプルなものである。

 ・その中で様々な意味や価値が生まれてくる。

 ・つまり、世界とは言語に対応した事実の集まりであり、世界における人間の役割は、世界が決めているルールを認識することにある。

 ・逆にいえば、人間はそれだけの存在に過ぎない。

彼は、言語ゲームに参加して、自分たちで勝手にいろんな思考をしているのが、古代ギリシャ以降の哲学者であるとまで言い切ります。

ウィトゲンシュタインの出現によって哲学が破壊されたといわれるのは、そのためです。世界との関わりの中で「人間とは何か」を問い始めた現代の哲学が、ついには従来の哲学を否定する哲学をも生み出すに至ったのです。

世界と人間の関係について我々はどのように考えるべきなのでしょう。

それについて話を進めて行く前に、もうひとつだけ説明しておかなければならないことがあります。それは「認識」についてです。我々は、認識という過程を通して、世界が世界であることを知るからです。
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