未唯への手紙
未唯への手紙
現象がどういう言葉で表現されているか探す
『教え学ぶ技術』より キーワードを探すために
キーワードを探すために
いかにキーワードを増やすか
前回の最後に言われたように、文献を調べようとしたんですが、どうも似たような研究を探すのがむずかしかったです。似ている言葉や関連するキーワードをいれる必要があるんだけど、どうもうまくヒットできませんでした。
先生 わかりました。そのキーワードを探していく上でも、まず、復習をしましょう。三つのテーマについて石渾さんが三つのクエスチョンを考えてきたわけだけど。
学生 この間考えた結果として、語り部についてのクエスチョンに絞ろうと思っているんですが。
先生 語り部については前回、これをどういう現象として扱うかということを議論したよね。そこでいくつかキーワードが出てきたと思うんだけど。
学生 語り継ぐとか。
先生 あるいは語り部という現象を他の言葉で言い換えたら?
学生 ナレーター、ナレーション。
先生 それから?
学生 口伝とか。最初にこのクエスチョンを考えた時、口伝という言葉は思い浮かんでなかったけど、たしかに情報伝達のひとつの技法としては、口伝というかたちになっている。
先生 あと、民俗学の話をしたじゃない。民俗学の中で語り部という現象はどういう言葉で扱われているのか。語り部という現象を語り部としか言わないのか、あるいはその上位概念があるんでしょうか。
学生 それは論文を調べても出てこなかったです。
先生 じゃあ、考えてみましょう。語ひ部の上位概念は何か。それから上位とは限らないけど、ナレーションのような他の言葉での言い換えも。英語だとこれは何て言うと思う?
学生 コミュニケーション論の論文では、イタリックにしてKataribe(narration)と書かれていました。日本語の論文の最初に英文の要約があるんですけど、そこではそう表記されてました。
先生 narrativeというのは発話・語りという意味だよね。あとはstorytelling、story、storytellerとかも考えられますね。それはコンテンツによって語り部になったり、そうじゃなかったりする。そういう周辺のキーワードや上位概念を考え、そのキーワードを増やしていくことができます。
現象がどういう言葉で表現されているか探す
先生 石渾さんが語り部のどんな問題に関心を持ち、どんな問題(question、puzzle)を明らかにしたいか。語り部という現象自体はわかったから、今度は語り部についての何かを明らかにしたい。そこでクエスチョンにしたい現象はどういう言葉で構成されていますか? それを考えるのもキーワードを探す一つの方法です。
学生 明らかにしたいことは、コミュニケーション方法の変化ですね。ブログやSNSが中心になり、頻繁に使われている世の中で語り部がどう生き延びていくのか。
先生 今言ったことは二つあって、ぴとつは語り部以外のコミュニケーションの変化、もうひとつはその中での語り部の変化です。まあ、変化してないかもしれないけど。その関係を見たいんですか?
学生 変化していく世の中にあって、語り部はどう存続し続けようとしているのか。
先生 「どう」というのはhow?
学生 howです。
先生 それをもうちょっと言葉にしてみて。
学生 語り部はどう存続し続けようとしているのか。もし存続し続けようとしているならば(if any)、どんな存続方法を選ぼうとしているのか。もしかすると今後は誰かに取材してもらうという方法を選んでいくのかもしれないし。
先生 今、「存続」という言葉が出てきました。古くからの伝統のあるものがどうやって生き残るか。この場合、コミュニケーションのある形態が生き残れるか、生き残れないか。これも問題がちょっと広がってるね。しかも一段階抽象度が上がって一般的になってる。伝統的な何かを語り継ぐということがどうやって生き残るか。これは人類学でもいくらでもありそうですけど、語り部はその中のひとつですよね。
石澤さんの問い・関心は、現在のようにSNSなどface-to-faceではないコミュニケーションが発達する中でいかに生き残るかということだから、単に前近代的な語りが生き残るかどうかということではない。つまりコミュニケーション・ツールとしての関心だよね。
学生 伝え方に関心がありますね。
先生 たとえば、今のようなネット社会の前に同じような変化って起きてると思う?
学生 うーん……、電話やテレビがそうですね。
先生 電話やテレビが普及する前と後では違うよね。televisionとか、teleというのは遠隔という意味だもんね。遠くの人とコミュニケーションができるようになった時、face-to-faceの語りがどう変わったか。それ以前とそれ以降の変化に着目した研究を見れば、何か書いてあるかもしれない。それから移動手段にも変化がありますよね。
学生 移動手段が発達することによって、聞きに来る人が増えた。
先生 交通の発達により、人と会って話すということがどう変わったか。これはまた広い問題だよね。こういうのは一番大きく捉えれば、近代化・科学技術の発達(innovation)です。伝統的な社会にたいしてコミュニケーションの近代化が起こった時、それ以前のコミュニケーションはどう変わったか。ここまで一般化すると、そこから今度は逆に絞り込むほうが難しくなる。でも今の例のように、電話以前・電話以降で人のコミュニケーションがどう変わったかという研究はありそうだよね。それから人の移動が激しくなると、昔のおばあちゃん達が伝承していた事柄が人の移動によって出ていくこともあり得るし、逆に人が来ることもあり得る。それによってどう変わったか。これもすごく一般的な現象だから、ありそうだよね。
« 「社会を変え... | フランス革命... » |
『創発釣り鐘体』に[エンテレケイア]する『語り部』を
[伝承]に求める。
東京の「鐘ヶ淵」のお話
奈良の「鐘ヶ淵」のお話
和歌山の「安珍清姫」のお話
「釣り鐘」の音のエネルギーが、[声字実相」として
⦅自然数⦆の[コトバ」を感じる・・・