『徹底予測 次世代自動車』より
2013年1月に米国ラスペガスで開催された世界最大のエレクトロニクス関連の展示会「International CES 2013」。トヨタ自動車による無人での自動運転を実現する実験車の発表では、同社が苦悩する姿が浮き彫りになった。
発表の場で新しい技術の利点をじっくり説明するわけでもなく、持ち時間の45分のうちわずか10分強で説明を切り上げた。その上、無人で走れる実力がある実験車を披露したにも関わらず、「自動運転を目指した車両ではない」(トヨタ)とちぐはぐだ。
外観は無骨だが、技術的には高い水準に達する車両である。自信を持ってアピールするのにふさわしいものだ。トヨタの態度が煮え切らないのはなぜなのか。
背景には自動運転車が、自動車メーカーにとって諸刃の剣と言える危険性をはらんでいることがある。「究極の安全技術」(トヨタ)として最大の課題である交通事故を大幅に減らし得る一方で、実現するとこれまでの自動車ビジネスが根底から覆る可能性がある。
そんな危機感をあおるのが米Google社だ。自動車開発とは無縁に思えるソフトウェア開発企業の同社が、世界で始まった自動運転技術の開発競争で先頭を走っている。
トヨタが認める高い技術水準
Google社が自動運転車を最初に発表したのは2010年のことだ。以来、急速に開発を進めており、現在までに10台以上の実験車を開発した。既に公道で実験中で、これまでに全車両の合計で30万マイル(約48万km)以上を走らせた。しかも、自動での運転時に事故を一度も起こしていない。 Google社の開発リーダーと話したトヨタの幹部が「極めて優れた技術」と認める水準に達している。
なぜGoogle社は自動運転技術の開発に熱心なのか。一つには、自動運転技術の中核と同社の事業の親和匪が高いことがある。「Google Maps」などの地図サービスに必須の地図情報を格段に充実できる。
Google社を含む多くのメーカーが開発している自動運転技術では、車両に搭載したセンサで予め作った3次元地図情報と、走行中に収集する周囲の情報を照合することで自車の位置を推定し、最適な走行経路を計算する。地図情報を基に計算する技術が自動運転には極めて重要で、これはGoogle社の得意とするところだ。
同社の狙いは既存事業の強化にとどまらない。自動車メーカーがあせりを覚えるのは、その先にあるもう一つの狙いである。自動運転車のOS(operating system)の開発を手掛けようともくろんでいることだ。
Google社は最近、スマートフォンだけではなく通信機能を有するあらゆる端末のOSを開発することを狙っており、その矛先の一つにロボット分野がある。そのロボットOS(Robot OS : ROS)に、自動運転技術の開発で培ったソフトウェアを取り込もうとしている。
2011年5月、Google社はROSの開発を手掛ける新興企業の米Willow Garage社と提携した。Google社のスマートフォン向けOS「Android」で、ロボットを制御する技術を開発するのが狙いだ。その提携に際して見せたROSの適用先を示したイラストにGoogle社はクルマを大きく描く。
完全に自動化された自動車は、見方を変えれば“車輪のついたロボット”と言える。その上、テレマティクスサービスが普及しつつある自動車は“通信端末"でもある。自動車ビジネスの市場規模の大きさを考慮すると、「ROSを適用したい分野の筆頭」(ROSを研究する産業技術大学院大学教授の成田雅彦氏)と言えるだろう。
ROSの実現は、これまでの自動車ビジネスを覆し得るる。Google社のスマートフォン事業と同じ構図が見えるからだ。同社はスマートフォン事業で、優れたOSをいち早く無償で提供することで、同市場の主導権を握った。そして自社の地図や検索のサービスと組み合わせることで大きな利益を生み出す。一方でスマートフォンを造る電機メーカーは、Google社のOSに合わせて開発を進めざるを得ない従属的な立場に甘んじている。
自動運転車が実現すると、クルマの価値はソフトウェアに左右される比率が高まりハードウェアの価値は大きく下がる可能性がある。ェンジンやステアリングなどにこだわって実現してきた「“走る楽しみ"に商品力はなくなるj(アクアビット代表取締役の田中栄氏)からだ。冒頭で示したトヨタの発表は、そんな未来に対する不安の表れだ。それでも電機メーカーの轍を踏まないために、自動車メーカーは開発を進めるほかにない。
2013年1月に米国ラスペガスで開催された世界最大のエレクトロニクス関連の展示会「International CES 2013」。トヨタ自動車による無人での自動運転を実現する実験車の発表では、同社が苦悩する姿が浮き彫りになった。
発表の場で新しい技術の利点をじっくり説明するわけでもなく、持ち時間の45分のうちわずか10分強で説明を切り上げた。その上、無人で走れる実力がある実験車を披露したにも関わらず、「自動運転を目指した車両ではない」(トヨタ)とちぐはぐだ。
外観は無骨だが、技術的には高い水準に達する車両である。自信を持ってアピールするのにふさわしいものだ。トヨタの態度が煮え切らないのはなぜなのか。
背景には自動運転車が、自動車メーカーにとって諸刃の剣と言える危険性をはらんでいることがある。「究極の安全技術」(トヨタ)として最大の課題である交通事故を大幅に減らし得る一方で、実現するとこれまでの自動車ビジネスが根底から覆る可能性がある。
そんな危機感をあおるのが米Google社だ。自動車開発とは無縁に思えるソフトウェア開発企業の同社が、世界で始まった自動運転技術の開発競争で先頭を走っている。
トヨタが認める高い技術水準
Google社が自動運転車を最初に発表したのは2010年のことだ。以来、急速に開発を進めており、現在までに10台以上の実験車を開発した。既に公道で実験中で、これまでに全車両の合計で30万マイル(約48万km)以上を走らせた。しかも、自動での運転時に事故を一度も起こしていない。 Google社の開発リーダーと話したトヨタの幹部が「極めて優れた技術」と認める水準に達している。
なぜGoogle社は自動運転技術の開発に熱心なのか。一つには、自動運転技術の中核と同社の事業の親和匪が高いことがある。「Google Maps」などの地図サービスに必須の地図情報を格段に充実できる。
Google社を含む多くのメーカーが開発している自動運転技術では、車両に搭載したセンサで予め作った3次元地図情報と、走行中に収集する周囲の情報を照合することで自車の位置を推定し、最適な走行経路を計算する。地図情報を基に計算する技術が自動運転には極めて重要で、これはGoogle社の得意とするところだ。
同社の狙いは既存事業の強化にとどまらない。自動車メーカーがあせりを覚えるのは、その先にあるもう一つの狙いである。自動運転車のOS(operating system)の開発を手掛けようともくろんでいることだ。
Google社は最近、スマートフォンだけではなく通信機能を有するあらゆる端末のOSを開発することを狙っており、その矛先の一つにロボット分野がある。そのロボットOS(Robot OS : ROS)に、自動運転技術の開発で培ったソフトウェアを取り込もうとしている。
2011年5月、Google社はROSの開発を手掛ける新興企業の米Willow Garage社と提携した。Google社のスマートフォン向けOS「Android」で、ロボットを制御する技術を開発するのが狙いだ。その提携に際して見せたROSの適用先を示したイラストにGoogle社はクルマを大きく描く。
完全に自動化された自動車は、見方を変えれば“車輪のついたロボット”と言える。その上、テレマティクスサービスが普及しつつある自動車は“通信端末"でもある。自動車ビジネスの市場規模の大きさを考慮すると、「ROSを適用したい分野の筆頭」(ROSを研究する産業技術大学院大学教授の成田雅彦氏)と言えるだろう。
ROSの実現は、これまでの自動車ビジネスを覆し得るる。Google社のスマートフォン事業と同じ構図が見えるからだ。同社はスマートフォン事業で、優れたOSをいち早く無償で提供することで、同市場の主導権を握った。そして自社の地図や検索のサービスと組み合わせることで大きな利益を生み出す。一方でスマートフォンを造る電機メーカーは、Google社のOSに合わせて開発を進めざるを得ない従属的な立場に甘んじている。
自動運転車が実現すると、クルマの価値はソフトウェアに左右される比率が高まりハードウェアの価値は大きく下がる可能性がある。ェンジンやステアリングなどにこだわって実現してきた「“走る楽しみ"に商品力はなくなるj(アクアビット代表取締役の田中栄氏)からだ。冒頭で示したトヨタの発表は、そんな未来に対する不安の表れだ。それでも電機メーカーの轍を踏まないために、自動車メーカーは開発を進めるほかにない。
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