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グローバル化--「新しい中世」論

『自分の頭で判断する技術』より グローバル化--「新しい中世」論

グローバル化を説明するモデル

 グローバル化は、何も今始まったことではなく、人類登場の頃から何十万年と滔々と続いている流れです。縄文時代にも、三内丸山遺跡のあった場所で、集落のリーダーが集まって、グローバル化への対応について議論していたに違いありません。

 その何十万年の流れの中でも現代のグローバル化か特異なのは、二〇世紀に、一通り地球上の地理的フロンティアは消え、ほとんどのホモサピエンスとコミュニケーションが取れるようになったことでしょう。いまや、生育地の違う人が共に働き、ものをつくり、資源や生産物の再分配を地球規模で行うグローバル化の質的深化に向かっています。

 そのグローバル化の波を体系的に理解するために、国際政治学の知見が参考になります。

 ここでは、田中明彦東京大学教授の提唱している『新しい中世』(日経ビジネス人文庫)という考え方を参考にします。このモデルによって、グローバル化の大きな波が進むことで、先進国が今後どういった世界になるのかの一つの予測を提供します。

 さらに新興国など、様々な発展段階にあるいくつかの波を、重層的に理解するモデルも提供します。こうして、国際政治だけでなく、ビジネスや文化の理解に役立てることができるのです。

「新しい中世」論

 田中教授が冷戦後の世界システムを説明するモデルとして提示した「新しい中世」(一九九六年)論は、大きく二つの柱となる理解があります。

 一つは、先進国の間でグローバル化が広がり相互依存が進むと、国際社会が近代的なるものから「新しい中世」的なるものに変わっていくという理解。

 もう一つは、現代の世界には、先進国が属するこの「新しい中世圏」の他に、新興国が属する「近代圏」と、近代化に失敗して社会が停滞している「混沌圏」があり、この三つの世界圏が混在し相互作用をしているという理解。

 つまり、「混沌圏」→「近代圏」→「新しい中世圏」と進む、それぞれの段階に様々な国が属し、相互作用をしているという世界観です。

 現代の先進国が踏み込み始めているその「新しい中世圏」というのは、次の三つの特徴を持っています。

 ①イデオロギーの普遍性:冷戦後は、中世同様イデオロギー対立が終焉した

 ②主体の多元性:中世と同じく非国家主体の重要性が増した(具体的には、EU、アルカイダ、多国籍企業、グリーンピースなど)

 ③経済相互依存:中世と異なり経済相互依存が高まった

 右記の特徴を持つ「新しい中世圏」の他に、「近代圏」と「混沌圏」があり、相互作用をしています。それでは、この三つの圏の姿を見てみましょう。

 (1)新しい中世圏

 近代化の終了した日米欧などの先進国の地域です。この圏内での主体は、国民国家だけでなく、国際的な企業体、NPO、地域コミュニティなど多様です。この圏内の主体同士では、戦争は起こらず、言葉や情報による説得と経済的調整で紛争は解決されます。紛争は、領土ではなく、経済や名誉などの象徴を争点にして起こります。

 (2)近代圏

 近代化の途上の、中国などの新興国の地域です。この圏内の主体は、国民国家が圧倒的な存在です。この圏内の主体同士では、領土、軍事、経済などを争点として紛争が起こり、しばしば政策手段として戦争が起こり、武力による解決が試みられます。

 (3)混沌圏

 近代化に失敗したか、近代化がまだ軌道に乗っていない地域です。この圏内の主体は、国民国家が機能的に成立していないので、地域集団です。この圏内の主体同士は、常に戦争状態にあり、主に生存を争点として武力紛争が絶えません。

 日本では、国際政治に関する「近代」的な理解がいまだに不十分な感がある。(中略)私の理解では、日本はすでに「新しい中世」的特徴を色濃く持った地域になった。しかし、日本周辺には、「近代」の特徴を依然としてギラギラさせた「第二圏域」の諸国が存在する。日本人は、自らは「新しい中世」にいながら、「近代」と対決していかなければならない。私たちは、「近代」的国際政治を単に古いといってすますわけにはいかないと思うのである。

 日本人が海外に住むと実感できるのですが、日本人は、約七〇年も戦争がなく治安のいい社会にいたせいか、どうも安全保障を軽視しがちです。海外では、命あってのものだねと、安全保障に関する意識を高く持っています。海外の武力衝突なども詳しく報道します。

 こうしたことは、是非を論ずるよりも先に、日本社会で流通する情報の一つのバイアスとして、補正して受け止めたほうが有益です。

 この「新しい中世」論が優れているもう一つの点は、従来の議論のように、近代以後の世界を「ポスト近代」「脱近代」といった近代の否定的定義にとどめず、積極的に「中世的」なものとして表現している点です。そして歴史上、既にあるものにたとえているだけに、イメージがはっきりと浮かびやすいのです。
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