7月25日(木曜日)
フェスティバルの宣伝のため、地元テレビ局の朝のローカル情報番組にカルロスとデミトリアが生出演。9時に局入りしてリハーサルを終えたあと、10時から本番開始。
カルロスの演奏で“Sweet Home Chicago”をデミトリアが軽く歌って出番は約1分半ほどで即終了。
ホテルの部屋に戻り、のんびりしようかと思っていたら、Pookyが「どっかマッサージに連れて行って」とやってきた。
そういや昨日、彼に「いいマッサージ屋知ってるよ」と話したばかりだった。そこでデミトリアとPookyのふたりを連れてホテル近くのマッサージ屋さんへ。
ここは2年前にココ・テイラーバンドのVinoとBrianを連れてきた場所。とにかくものすごい効き目だったので、Pookyのような屈強な人にはもってこいなのだ。
オーナーの大将は私のことを覚えてくれていて、キャンペーン価格をよりサービスしてくれた。約30分たっぷりコリをほぐしてふたりとも満足の様子
店で見つけた奥深いひとこと
午後1時、今日の会場である浪岡へ。ほっとするような田舎の風景が広がる。
そしてサウンドチェック。
今回ポーランドから参加した最年少のピーター(キーボード)は、カルロスがポーランドでギグをするときのハウスバンドのピアニスト。地元の人気ブルースバンド“Hoodoo Band”のピアニストであり、アレンジャー、作曲家としても活躍している。大学で音楽教育学位を取得したインテリ派ミュージシャンだ。
今回のシカゴのメンバーと合わせるのは今回が初めてだという。それでいきなりフェスティバル本番を迎えようというのだから、いかにカルロスが彼を信頼しているかがわかる。
そのピーターは、本場シカゴのミュージシャンたちと共演できるとあって昨日から夢心地。数か月前にカルロスからオファーがあった時、冗談だと思ってしばらく信じなかったらしい。
シカゴにも来たことがない東ヨーロッパのあるピアニストが、憧れのシカゴバンドとがっぷり組んで日本のフェスティバルに初出演するのだから、興奮するのも当たり前だ。
とても謙虚で穏やかな人で、なるべく周りに迷惑をかけないようにと気遣いをしているのが感じられた。
カルロスはそんな彼をおもんぱかって一生懸命フォローしていた。
ピアノのボリュームペダルがないと知ると、「そんなものがなくて演奏ができるか、ちくしょーめ!」と怒り出し、それをピーターがなだめる一幕もあった。
結局、ペダルとドライバーは本番前に機材スタッフが会場に届けてくれ、ピーターは何度も丁寧にお礼を言っていた。
最高の音を出すため、そして愛するメンバーのため、必死で戦う熱いカルロスの姿が今日もそこにあった。
毎年、ミュージシャンの無理な注文に一生懸命応えてくださるスタッフの方にも頭が下がる。大感謝。
西陽をもろに受けてのサウンドチェックに、みんな汗ダラダラ
Billは道の駅で食べた「りんごソフトクリーム」のおいしさに大感激。
午後7時。いよいよカルロスバンドの登場だ。
もう、言葉はいらない。
Pooky Styx
Bill "The Buddah" Dickens
5分以上にも及ぶベースソロに会場は息をのむ。もはやベースじゃない、7弦の魔術。
Piotr Świętoniowski
“シカゴの音”のなかにどっぷりと漬かって気持ちよさそうに楽しんでいたピーター。
他のメンバーも、彼のピアノセンスに何度もうなずき、微笑んでいた。
言葉や国が違っても、こうやって音を出すだけでひとつになれる。音楽はまさにコミュニケーションだ。
Carlos Johnson
ルリー・ベルもそうだが、体から直接弦一本一本に伝わるこの情熱の塊のような感じ。
私はこういうタイプにめっぽう弱い。もうメロメロ。
このふたりが組んで、最高のグルーブにならぬわけがない。
子供たちもカルロスのすごさを体いっぱいで感じている
1時間ほどカルロスがたっぷりとステージを聞かせたあと、ゲストシンガーのデミトリア・テイラー登場。
3年前にもJW.ウィリアムスのバンドで一度同じステージを踏んでいる彼女だが、
その時よりも格段に貫禄が増して、自分の世界が広がった感じがする。
「年を重ねて人生経験と共にどんどん良くなっている気がするの」と彼女自身も語っていた。
お客さんもノリノリで“Wang Dang Doodle”の一節を熱唱。青森のお客さんはノリがいい
今回、誰よりも早く日本入りしてすでに日光、原宿、北九州と3か所をツアーしてきた彼女、時差ボケも抜けきらず幾分疲れていたが、本番前にスタッフの用意してくれた涼しい和室でゆっくりと横になっていたらしく、完全復活。
「おかげでゆっくりできたわ、ありがとう。あなたたち(フェスティバルのスタッフ全員)は本当に最高ね。私、すっかり甘やかされちゃったわ。シカゴに帰ったらみんなに自慢しなきゃ」とデミトリア。
今までともすると女性シンガーはバンドとは“別扱い”的な、特別な気を遣わなければならなかったが、彼女はいつもバンドと一緒(Pookyべったり)だったのでとても楽だった。
彼女をはじめ、カルロスという強くて優しいボスのもとにがっちりとまとまったこのメンバーの結束はとても強い。
きちんとお礼を言う。時間に遅れない。勝手な個人行動をしない。決して頭ごなしにモノを言わない。そして、みな陽気でユーモアセンスがあふれていて楽しい。
カルロス自身が普段大切にしている行動規範が、メンバーひとりひとりに浸透しているのを感じた。
今回は会場に「Choose Chicago」(シカゴ観光局)のブースも設けられ、東京オフィスの責任者である薄井さんが仕事と休暇を兼ねてご家族で来てくださった。
彼女とは、昨年のミシシッピ川流域の旅でご一緒させていただいて以来、何かと親しくさせていただいている。
この「Japan Blues Festival」も近い将来、シカゴ観光局とタイアップできるかもしれない。
ライブ終了後、ある女性ファンが興奮してデミトリアに駆け寄ってきて「あなたは最高です!」と何度も何度も握手を求めていた。
普段は何もない静かな田舎町にシカゴの歌姫がやってきてその歌声に心を撃ち抜かれ、「ありがとう」と手を握るしかないおばちゃんの、その天にも昇る気持ち、わかるなー。
都会のフェスでは見られないこういうシーンに出合えるのが、このJBFの醍醐味なのだ。
予定の時間を上回り(これも毎年のことだけれど)、ライブは大盛り上がりで終了。
このあと浪岡市内の居酒屋さんでやっと夜ご飯。
しかし、ここで今回の語り草ともなるとんでもない「大事件」が起こるのだった。
・・・つづく