
何を隠そう私は中島みゆきの大ファンである。ビートルズやクイーンのように四六時中聴いている... というワケではないが、時々無性に聴きたくなるアーティストの1人だ。つい最近も “みゆき熱” が再発したので、ここでも取り上げることにした。まずは彼女の原点とでも言うべき70年代後半のシングル群の中から特に気に入っている盤をピックアップ。すべてはここから始まった...
①アザミ嬢のララバイ(1975)
中島みゆきのデビュー・シングル。洋楽邦楽を問わず、デビュー曲でこれだけのクオリティーを持った曲を他に挙げろと言われてもすぐには思い浮かばない... それほどの名曲名唱だ。この曲との出会いは松田優作の「探偵物語」で、「失踪者の影」というエピソードの冒頭でかかっているのを聞いて気に入り(←ラストでかかった「うぬぼれワルツ」もよかったなぁ...)それ以来ずっと愛聴している。彼女の声、歌い方、そして彼女の良さを最大限まで引き出した船山基紀の名アレンジと、どこをとっても文句のつけようのない完成度。“春は菜の花、秋には桔梗~♪” のラインがたまらなく好きだ。
アザミ嬢のララバイ
②時代(1975)
中島みゆきの2nd シングルであり、彼女の代表曲の一つとして有名なこの曲にはこのオリジナル・シングル・ヴァージョンの他に、アルバム「私の声が聞こえますか」収録のシンプルなアコースティック・ヴァージョン、93年にアレンジを変えて録り直したセルフリメイク・ヴァージョン、2010~11年のツアーから収録したライヴ・ヴァージョンと、私の手持ちだけでも4種類の音源が存在し、そのどれもが個性溢れる名演なのだから参ってしまう。“そんな時代もあったねと いつか話せる日が来るわ~♪” と優しく包み込むように歌う彼女の歌声に元気をもらった人間は私だけではないはずだ。
時代 -ライヴ2010~11- (東京国際フォーラムAより)
③夜風の中から(1976)
この4thシングルは超有名な「時代」と「わかれうた」の間に埋没した地味な存在だが、私はこの曲が大好き。初めて聴いたのはアルバム「みんな去ってしまった」にひっそりと収められていた素朴そのもののヴァージョン(←スプリングスティーンの「ネブラスカ」みたいな感じ)だったのだが、その後聴いたシングル・ヴァージョンでは歌い方やアレンジを変えて “やさぐれ度” が大幅にアップ。“みゆき節” 全開で迫る彼女の表現力の幅の広さに感心させられたものだった。女性歌手が男性目線で歌う場合の一人称は “ぼく” になることが多いが、この曲の “おいら” という言葉の選択が与えるインパクトは強烈で、ストーリーテラーとしての彼女の凄さを再認識させられた。
夜風の中から
④わかれうた(1977)
彼女の5枚目のシングルで、「中島みゆき」という名前が一般大衆にまで認知されるきっかけとなった大ヒット曲であり、個人的には邦楽史上で五指に入る名曲中の名曲。“途に倒れてだれかの名を 呼び続けたことがありますか~♪” という導入部に “そんな奴おらんやろ...” とツッコミを入れながら聴き進むうちにいつの間にか “みゆきワールド” に引き込まれ、“恋の終わりはいつもいつも 立ち去る者だけが美しい~♪” ってめっちゃクールな表現やん!などと感心しながら脳内リフレインが止まらなくなり、気が付けば歌詞を一緒に口ずさんでいた... というのが47年前の私だった。後ろをついてくる “別れ” を北欧の民謡を想わせる翳りのあるメロディーと2拍子のリズムで上手く表現しているところもさすがという他ない。それより何より、20代前半でこの歌を書いたという彼女の天賦の才が何よりも衝撃的だ。
わかれうた
⑤おもいで河(1978)
彼女の6枚目のシングルで、ロシア民謡を想わせるイントロのマンドリンのトレモロから哀愁舞い散るマイナー・メロディー全開で迫ってくる “泣かせ” の名曲。私はよく “心の琴線に触れる” という表現を使うが、この曲を聴くたびにその “琴線” が彼女の歌声に共鳴してビンビン震えまくる。この「おもいで河」は「わかれうた」と「ひとり上手」という大ヒット曲に挟まれてその陰に隠れてしまった感があるが、哀調曲好きにはたまらない名曲名演だ。私は一切お酒を嗜まないが、“飲めば飲むほどに想い出は深くなる... 忘れきれないこの想い深くなる~♪” のラインを聴いて、お酒を飲む人の気持ちが何となくわかる気がした。
おもいで河
⑥りばいばる(1979)
この曲が出た1979年といえば私は高校2年生でビートルズを中心にゼップとパープル、そしてもちろんクイーン、キッス、エアロスミスとバリバリのハードロック少年だったのだが、そんな私が秘かに楽しみにしていたのが年に1枚のペースで秋口にリリースされるみゆき姐さんのシングルだった。この「りばいばる」は過去3作よりもスロー・テンポだったこともあって最初聴いた時はちょっと地味かな... と思ったが、何回も繰り返し聴くうちに初期ジャニス・ジョプリンを想わせる彼女の “ブルース魂” に圧倒され、中島みゆきってやっぱり凄いなぁ... と完全KOされたのを覚えている。特に “やっと忘れた歌が もう一度はやる~♪” のリフレイン・パートが心に沁みるが、それにしてもこんな粋なフレーズ、一体どうやったら思いつくのか凡人の私にはまったく想像もつかない。
りばいばる