shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Ray Bryant Trio

2009-07-23 | Jazz
 私は仲間内でも職場でも大の車好きで知られている。しかし車といっても今話題のエコ・カーやハイブリッド・カーには何の興味もない。高級セダンやワゴン車もNGだ。単なる移動手段としてではなく走りを楽しめなくては意味がない。車会社のキャッチ・コピーではないが、Fun To Drive なのだ。だから私にとってドライヴとは、時代に逆行しているが、スポーツカーでガンガン飛ばすこと、コレしかない。阪奈道路で一般車スラローム(笑)をし、信貴スカのワインディングをひょいひょいとクリアしていくのがストレス解消にピッタリなのだ。今の愛車はRX-7、燃費は驚異のリッター4km(笑)という前時代の遺物に乗ってブイブイいわしている。その前はスプリンター・トレノを改造しまくって(笑)乗っていた。あの頃は “毎日がモナコ・グランプリ” だったなぁ。まぁ友人に言わせると “実に分かりやすい単純な脳ミソの持ち主” らしいが、要するに人生何事も楽しけりゃそれでエエのだ。
 しかしいくらハイスピードでかっ飛ばしていても、そこに音楽が鳴っていないと楽しさも半減する。だから私のドライヴにはノリの良い音楽が欠かせない。当然、自宅のオーディオ・システムの時と同様にカーステにもそれなりの良い音を求めてしまう。カー・オーディオというのは様々な悪条件の下、かなり劣悪な環境で音楽を再生することだと頭で分かってはいても、実際に出てきた音が酷いとかえってイライラしてしまい、ドライヴィングに集中出来ない。高域はまだいくらかゴマカシが効くが、ブーミーな低音だけはどうしようもない。トレノ改に乗っていた時はオシャレなイルミネーションに釣られて(←アホ!)付けたパイオニアのカロッツェリア・シリーズをそれなりに気に入っていたのだが、90年代に入ってジャズも聴くようになるとシステムの最大の弱点であるヘタレな低音が露わになってしまった。ロックやポップスのエレキ・ベースがシンセを始めとする様々な音の中に埋没してしまいがちなのに対し、ジャズのアコースティック・ベースはピアノ・トリオなんかではかなり目立つ重要な役割を果たしており、システムの脆弱さを容赦なく暴き出してしまうのだ。そんなカロッツェリアに引導を渡したピアノ・トリオ盤がこの「レイ・ブライアント・トリオ」である。結局、トレノ改からRX-7への買い替えを機に、カー・オーディオ専門店に車を持ち込んで “このCDのベースがちゃんと鳴るシステムを組んで下さい!” と泣きつき、 “アルパインのプロ・シリーズ+ドアの内張りの徹底防振補強” によってやっと車の中でもマッシヴな低音が楽しめるようになった。
 ということで、このCDは私の重要なオーディオ・チェック盤の1枚なのだが、家で聴いても車で聴いても、まるで地の底から響いてくるかのようにグゥ~ンと下まで伸びた重い音を出すアイク・アイザックスのベースは凄まじいの一言に尽きる。 “ズン、ズン” という響きが何とも腹に心地良く、あしたのジョーではないがまるでスピーカーの前でコークスクリュー・パンチ(←懐かしいっ!)の連打を浴びているような錯覚に陥るのだ。CD1枚聴き終われば立派なアコベ・パンチドランカー(笑)の出来上がりだ。
 なんだか音の話ばかりになってしまったが、この盤は肝心の音楽の方も素晴らしい。特に①「ゴールデン・イヤリングス」は日本人の心の琴線をビンビン震わす哀調曲の極北に位置するといっても過言ではないくらいの大名曲で、1940年代にペギー・リーやダイナ・ショアが切々と歌い上げたジプシー民謡を “モダン・テディ・ウィルソン” の異名をとる名手レイ・ブライアントが歯切れの良いタッチと淡々と綴っていく... その絶妙なテンポ設定といい、哀愁がナンボのモンじゃいとばかりに唸りまくるベースのビッグ・トーンといい、これ以上の名演があったら教えてほしいぐらいだ。
 ①の物哀しさをそのまま引き継いだような②「エンジェル・アイズ」はブライアントのソロ・ピアノ。私はリズムのないソロ・ピアノは嫌いなのだが、この演奏にはいやおうなしに引き込まれてしまう。巧いなぁ... (>_<) ③「ブルース・チェンジズ」は①の哀愁成分を抜き取り、代わりに典雅なフレイヴァーで薄味に仕上げたような感じの品格溢れる曲想を持った曲。④「スプリッティン」はこのアルバム中最も急速調のナンバーで、スペックス・ライトのめくるめくようなブラッシュ・プレイが圧巻だ。それにしてもこのアルバムは実にヴァラエティに富んだ作りになっていて聴いてる者を飽きさせない。
 MJQの大名曲⑤「ジャンゴ」はイントロのボォ~ンというベース音一発が底知れず深い。これはもう①とタイマンを張れるぐらいの哀愁舞い散るキラー・チューンで、LPなら両面の頭にこの2大名曲がそれぞれ配置されていたというからいやはや凄いアルバムだ。続く⑥「ザ・スリル・イズ・ゴーン」はA面の①→②の流れを踏襲するように長~いピアノ・ソロによるイントロの後、おもむろにブラッシュとベースが滑り込んでくる瞬間がたまらない。この緊張と寛ぎの微妙なせめぎ合いがめっちゃスリリングだ。⑦「ダホード」ではテンポを上げてスイングするブライアントのプレイがエエ感じ。この明快なメロディ・ラインこそが彼の大きな魅力だろう。続く⑧「ソーナー」も⑦と同傾向の曲想とプレイで、ブギウギに通じるポロポロと短く切った音でメロディアスにスイングするのが聴いてて実に気持ちがいい。ということで全8曲35分がアッという間に終わってしまう。
 私にオーディオにおける低音の奥深さを教えてくれたこのアルバム、「ゴールデン・イヤリングス」の決定的名ヴァージョンを筆頭に気品溢れる珠玉の名演が並ぶピアノ・トリオ・ジャズの金字塔といえる1枚だ。

GOLDEN EARRINGS Ray Bryant

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