“「Kisses On The Bottom」収録スタンダード・ナンバー特集” の第3弾は有名な「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」。この曲は1932年にハロルド・アーレンが曲を書き、E.Y.ハーバーグとビリー・ロウズが詞を付けたもので、最初は「イフ・ユー・ビリーヴド・イン・ミー」というタイトルでブロードウェイの芝居に使われたが、翌1933年に改題されて映画「テイク・ア・チャンス」に、1945年と1973年にもそれぞれ別の映画で使われてリヴァイヴァル・ヒットした。
この曲は何と言っても歌詞が面白くて、 “紙でできた月も、布で作った空も、君が僕を信じてくれたら偽物じゃなくなるんだ...” というユニークなもの。古き良き時代の雰囲気が伝わってくるこの曲のポイントは “軽妙なスイング感” だと思うが、そういう視点から私が常日頃愛聴しているヴァージョンを5つセレクトしてみた。
①Django Reinhardt
ジプシー・ジャズの創始者であるジャンゴ・ラインハルトが1949年にヴァイオリン・ジャズの巨匠ステファン・グラッペリと共演した “ローマ・セッション” を収録した彼の代表作「ジャンゴロジー」に入っていたのがコレ。ジャンゴのギターはまさに圧巻と言ってよく、 “ジプシー・ジャズの最高峰” の看板に偽りなしのスリリングなプレイの連続にはもう平伏すしかない。ジプシー・ギターというと速弾きばかりに注目が集まりがちだが、ジャンゴの凄さはそのハイテクニックはもちろんのこと、とめども尽きぬアドリブ・フレーズを織り交ぜながらメロディアスにスイングするところにあると思う。
それと、私はどちらかと言うとヴァイオリンが苦手でジプシー・ジャズの CD でもついついヴァイオリンの入っていない “ザクザク・ギター乱舞盤” ばかり買ってしまうのだが、このグラッペリの躍動感あふれるプレイには思わず聴き入ってしまう。苦手な楽器でも好きにさせてしまうこのような演奏を真の名演と言うのだろう。とにかく一日中でも聴いていたい、そう思わせる素晴らしい演奏だ。
Django Reinhardt - It's Only A Paper Moon - Rome, 01or02. 1949
②江利チエミ
日本人シンガーで「ペイパー・ムーン」といえばまず頭に浮かぶのは美空ひばりだが、それは以前このブログで取り上げたので今回はひばりと同じ三人娘の一人、江利チエミにしよう。まるで大排気量の高級サルーンカーのようにジャズでもリズム歌謡でも演歌でも正面からガッチリと受け止めてその圧倒的な歌唱力で歌いこなしてしまうひばりに対し、チエミはワインディングを軽快に飛ばしていくハンドリング抜群のスポーツカーといった感じで、まさに “駆け抜ける喜び” という表現がピッタリのスキャットやフェイクを織り交ぜながら軽やかにスイングしており、ひばりとは又違った味わいがある。
この「ペイパー・ムーン」は1953年にリリースされたSP音源で、何とチエミ16歳の時の録音というから驚きだ。そのナチュラルでラヴリーな歌声はまるで開き始める直前のつぼみのような生硬さで、原信夫とシャープス&フラッツをバックに軽やかにスイング。曲の途中で歌詞が英語から日本語にスイッチするところなんかも雰囲気抜群だ。尚、この曲は何種類かの CD に入っているが、私は針音の向こうから聞こえる温もりのある歌声がノスタルジーをかきたてるようなリマスタリング処理をされた「SP原盤再録による江利チエミ ヒット・アルバムVol. 1」収録のものを愛聴している。
Chiemi Eri - IT'S ONLY A PAPER MOON
③Ella Fitzgerald
江利チエミがお手本にしたのがエラ・フィッツジェラルドのこのヴァージョン。来日したエラがチエミの歌をラジオで聴いて “あら、私じゃないの...” と言ったというエピソードは有名だ。私は江利チエミの熱狂的なファンでエラのヴァージョンは後から聴いたので、スキャットのパートなんか “何やコレ... チエミにそっくりやん!” とエラくビックリしたものだ(笑)
あわてて他の曲もチェックしてみたら、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を筆頭にチエミで聴き慣れた節回しが一杯あってビックリ。これはエラいこっちゃである。大好きなアーティストのルーツを探求しながら新しい世界を知るのも楽しいものだ。白人美人女性ヴォーカルが大好きな私はエラおばさんの熱心な聴き手ではなかったが、改めて聴いてみるとそのジャズ・フィーリングはやっぱり凄い。不義理をしてエラいすんませんでしたm(__)m
ということでエラ・フィッツジェラルドは “ジャズ・ヴォーカル界のファースト・レディ” と呼ばれるエラい人なんである。「エラ・アンド・ハー・フェラ」に収録されていたこの曲でもデルタ・リズム・ボーイズをバックにさりげなくスキャットを交えながら典雅にスイングするエラが楽しめて言うことナシだ。
ELLA FITZGERALD & THE DELTA RHYTHM BOYS- IT'S ONLY A PAPER MOON
④Dion & The Belmonts
ビートルズ登場以前のオールディーズ・ポップスは何と言ってもシングル・ヒット曲が命だが、そのシンガーなりグループなりを好きになってアルバムにまで手を出すと、意外なスタンダード・ナンバーが入っていたりして驚かされることがある。ユニークな「トンデヘレヘレ♪」コーラスに耳が吸い付く「浮気なスー」の全米№1ヒットで有名なディオンは数多くのスタンダード・ナンバーをドゥー・ワップ化して楽しませてくれる貴重な存在で、この曲でもバックのベルモンツと息の合ったコーラスを聴かせてくれる。コレが収録されているアルバム「ウィッシュ・アポン・ア・スター」では他にも「星に願いを」「オール・ザ・シングス・ユー・アー」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「セプテンバー・ソング」といったスタンダード・ナンバーを取り上げており “古き良きアメリカ” といった雰囲気が横溢、ポップス・ファンがスタンダードに親しむのにピッタリの1枚だ。
Dion And The Belmonts - It's Only A Paper Moon
⑤Nat King Cole
スタンダード・ナンバーには個人的な嗜好というレベルを超越した次元でその曲の決定的名演というものが存在する。「ユード・ビー・ソー・ナイス...」ならヘレン・メリルとクリフォード・ブラウン、「マンハッタン」ならリー・ワイリー、「センチメンタル・ジャーニー」ならドリス・デイ、といった按配だ。そういう意味で、究極の「ペイパー・ムーン」と言えば間違いなく名盤「アフター・ミッドナイト」に収録されているこのヴァージョンで決まり!だろう。
ナット・キング・コールはバラッド・シンガーとしても天下一品だが、私的にはスモール・コンボで小気味よくスイングするこのスタイルが一番好き。ジャズを知らない人に “スイングって何?” って聞かれたら、この曲を聴かせて “この思わず身体が揺れる感じ” と答えるだろう。ウキウキするようなリズムに乗って縦横無尽にスイングするキング・コールの軽妙洒脱なヴォーカルが最高だ(^o^)丿
Nat King Cole - It's Only A Paper Moon
この曲は何と言っても歌詞が面白くて、 “紙でできた月も、布で作った空も、君が僕を信じてくれたら偽物じゃなくなるんだ...” というユニークなもの。古き良き時代の雰囲気が伝わってくるこの曲のポイントは “軽妙なスイング感” だと思うが、そういう視点から私が常日頃愛聴しているヴァージョンを5つセレクトしてみた。
①Django Reinhardt
ジプシー・ジャズの創始者であるジャンゴ・ラインハルトが1949年にヴァイオリン・ジャズの巨匠ステファン・グラッペリと共演した “ローマ・セッション” を収録した彼の代表作「ジャンゴロジー」に入っていたのがコレ。ジャンゴのギターはまさに圧巻と言ってよく、 “ジプシー・ジャズの最高峰” の看板に偽りなしのスリリングなプレイの連続にはもう平伏すしかない。ジプシー・ギターというと速弾きばかりに注目が集まりがちだが、ジャンゴの凄さはそのハイテクニックはもちろんのこと、とめども尽きぬアドリブ・フレーズを織り交ぜながらメロディアスにスイングするところにあると思う。
それと、私はどちらかと言うとヴァイオリンが苦手でジプシー・ジャズの CD でもついついヴァイオリンの入っていない “ザクザク・ギター乱舞盤” ばかり買ってしまうのだが、このグラッペリの躍動感あふれるプレイには思わず聴き入ってしまう。苦手な楽器でも好きにさせてしまうこのような演奏を真の名演と言うのだろう。とにかく一日中でも聴いていたい、そう思わせる素晴らしい演奏だ。
Django Reinhardt - It's Only A Paper Moon - Rome, 01or02. 1949
②江利チエミ
日本人シンガーで「ペイパー・ムーン」といえばまず頭に浮かぶのは美空ひばりだが、それは以前このブログで取り上げたので今回はひばりと同じ三人娘の一人、江利チエミにしよう。まるで大排気量の高級サルーンカーのようにジャズでもリズム歌謡でも演歌でも正面からガッチリと受け止めてその圧倒的な歌唱力で歌いこなしてしまうひばりに対し、チエミはワインディングを軽快に飛ばしていくハンドリング抜群のスポーツカーといった感じで、まさに “駆け抜ける喜び” という表現がピッタリのスキャットやフェイクを織り交ぜながら軽やかにスイングしており、ひばりとは又違った味わいがある。
この「ペイパー・ムーン」は1953年にリリースされたSP音源で、何とチエミ16歳の時の録音というから驚きだ。そのナチュラルでラヴリーな歌声はまるで開き始める直前のつぼみのような生硬さで、原信夫とシャープス&フラッツをバックに軽やかにスイング。曲の途中で歌詞が英語から日本語にスイッチするところなんかも雰囲気抜群だ。尚、この曲は何種類かの CD に入っているが、私は針音の向こうから聞こえる温もりのある歌声がノスタルジーをかきたてるようなリマスタリング処理をされた「SP原盤再録による江利チエミ ヒット・アルバムVol. 1」収録のものを愛聴している。
Chiemi Eri - IT'S ONLY A PAPER MOON
③Ella Fitzgerald
江利チエミがお手本にしたのがエラ・フィッツジェラルドのこのヴァージョン。来日したエラがチエミの歌をラジオで聴いて “あら、私じゃないの...” と言ったというエピソードは有名だ。私は江利チエミの熱狂的なファンでエラのヴァージョンは後から聴いたので、スキャットのパートなんか “何やコレ... チエミにそっくりやん!” とエラくビックリしたものだ(笑)
あわてて他の曲もチェックしてみたら、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を筆頭にチエミで聴き慣れた節回しが一杯あってビックリ。これはエラいこっちゃである。大好きなアーティストのルーツを探求しながら新しい世界を知るのも楽しいものだ。白人美人女性ヴォーカルが大好きな私はエラおばさんの熱心な聴き手ではなかったが、改めて聴いてみるとそのジャズ・フィーリングはやっぱり凄い。不義理をしてエラいすんませんでしたm(__)m
ということでエラ・フィッツジェラルドは “ジャズ・ヴォーカル界のファースト・レディ” と呼ばれるエラい人なんである。「エラ・アンド・ハー・フェラ」に収録されていたこの曲でもデルタ・リズム・ボーイズをバックにさりげなくスキャットを交えながら典雅にスイングするエラが楽しめて言うことナシだ。
ELLA FITZGERALD & THE DELTA RHYTHM BOYS- IT'S ONLY A PAPER MOON
④Dion & The Belmonts
ビートルズ登場以前のオールディーズ・ポップスは何と言ってもシングル・ヒット曲が命だが、そのシンガーなりグループなりを好きになってアルバムにまで手を出すと、意外なスタンダード・ナンバーが入っていたりして驚かされることがある。ユニークな「トンデヘレヘレ♪」コーラスに耳が吸い付く「浮気なスー」の全米№1ヒットで有名なディオンは数多くのスタンダード・ナンバーをドゥー・ワップ化して楽しませてくれる貴重な存在で、この曲でもバックのベルモンツと息の合ったコーラスを聴かせてくれる。コレが収録されているアルバム「ウィッシュ・アポン・ア・スター」では他にも「星に願いを」「オール・ザ・シングス・ユー・アー」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「セプテンバー・ソング」といったスタンダード・ナンバーを取り上げており “古き良きアメリカ” といった雰囲気が横溢、ポップス・ファンがスタンダードに親しむのにピッタリの1枚だ。
Dion And The Belmonts - It's Only A Paper Moon
⑤Nat King Cole
スタンダード・ナンバーには個人的な嗜好というレベルを超越した次元でその曲の決定的名演というものが存在する。「ユード・ビー・ソー・ナイス...」ならヘレン・メリルとクリフォード・ブラウン、「マンハッタン」ならリー・ワイリー、「センチメンタル・ジャーニー」ならドリス・デイ、といった按配だ。そういう意味で、究極の「ペイパー・ムーン」と言えば間違いなく名盤「アフター・ミッドナイト」に収録されているこのヴァージョンで決まり!だろう。
ナット・キング・コールはバラッド・シンガーとしても天下一品だが、私的にはスモール・コンボで小気味よくスイングするこのスタイルが一番好き。ジャズを知らない人に “スイングって何?” って聞かれたら、この曲を聴かせて “この思わず身体が揺れる感じ” と答えるだろう。ウキウキするようなリズムに乗って縦横無尽にスイングするキング・コールの軽妙洒脱なヴォーカルが最高だ(^o^)丿
Nat King Cole - It's Only A Paper Moon
ペーパームーンは大好きな歌ですが、考えてみると今回の特集のような古い歌を知っていた訳ではく1970年代の映画(ライアンオニールの)
を見たことがあるので知っていたようです。
この歌もいろいろな人が歌っていてそれそれ味があって楽しいですね。
江利チエミとエラ・フィッツジェラルドの比較も面白かったです。
ポールはプレスリーやバディホリー以前に、こういう歌が好きだったということが半分驚きでもあり半分妙に納得出来ることがまた面白いですね。
イフ・ユー・ビリーヴド・イン・ミーの意味も分かりました(笑)
いわゆるひとつの“仮定法”ってヤツですね(笑)
学生の頃は英文法なんて大嫌いでしたが
こーやって英語の歌にまで出てくるとなると
やっぱり大事なんですね。
えり・ふぃっつじぇらるど、面白いでしょ?
こういう発見が一杯あるから特集は楽しいです。
今回の特集でちょっと違った視点から「Kisses On The Bottom」を眺めてみて
改めてポールのスタンダード・ソングに対する造詣の深さを思い知らされました。
そういえば、いつもコメントをくださるshoppgirl姐さんのブログで
ポールの歌う「スロー・ボート・トゥ・チャイナ」を教えていただいたんですが↓
http://www.youtube.com/watch?v=raKntv51pL4&feature=related
ポールは子供の頃からこの手の音楽に親しんでいたようですね。
By the way, lately I listen to the CD you made me of old Japanese music every day at work. It keeps me calm. But it also makes me miss you. Thankfully I have your blog to read.
Dion & The Belmonts sings a lot of old American standard songs and they are all great. Thank God we've got Golden Oldies.