ARAHIS

　カヴァー・ソング・ハンティングは実に楽しい。思いっ切り笑わせてくれるような迷盤に巡り会えることが多々あるからだ。特にオリジナルがビートルズやストーンズといった超大物の場合、カヴァーでオリジナルを超えることは至難の業だ。だから良く出来たカヴァーというのはアイデア勝負、つまりいかに誰も思いつかないようなユニークな発想で何をどうカヴァーするかが重要になってくる。ルンバ・ビートルズやボッサン・ストーンズが良い例だ。そんなカヴァーの傑作のひとつがこの、アラヒスのデビュー盤なのだ。
　アラヒスとはロシア語でピーナッツという意味で、この盤は驚くなかれロシアの双子姉妹デュオによるザ・ピーナッツの、それも日本語カヴァー集なんである。60年代当時、ザ・ピーナッツはロシアでも大人気で、特に「恋のバカンス」は彼女達の親の世代なら誰でも知っている懐メロだったというから驚きだ。当然二人もザ・ピーナッツのヒット曲を聴いて育ったわけで、今回のカヴァー集の出来の良さもうなずける。
　いきなり90年代風打ち込みサウンドで始まる①「恋のバカンス」は、まずその流暢な日本語に感心していると１分35秒でいきなりロシア語にチェンジするカッコ良さ(≧▽≦)　メリハリの効いた２人の歌声もこの名曲に不思議な魅力を与えているようだ。同じくシンセのデジタル・ビートが支配する②「恋のフーガ」や間奏部の歌心溢れるギター・ソロに涙ちょちょぎれる③「恋のオフェリア」は、不慣れなはずの日本語で見事に昭和歌謡独特の哀愁を醸し出しているところが凄い。彼女達の音楽的センスには脱帽だ。ただ③の後半部におけるヒップホップなスクラッチの多用はいくらなんでもやり過ぎだと思うが...(>_<)
　ピアノのジャジーなプレイも斬新な④「ウナ・セラ・ディ東京」、宮川メロディーの魅力を濃縮還元したようなアレンジが素晴らしい⑤「銀色の道」と、スローな曲でも立派に歌いこなすあたり、さすがという他ない。明るいポップス⑥「ふりむかないで」は彼女達の伸び伸びした歌い方が実に清々しく爽やかに響く。とにかくどの曲も見事にザ・ピーナッツの名曲の21世紀版リメイクに成功しているといえる。まぁどうせここまでやるなら「モスラの歌」も入れてほしかった気もするが（笑）、十分楽しませてもらったので贅沢は言えない。
　この盤は iTunes の試聴サイトでザ・ピーナッツのカヴァーを検索していて偶然見つけた掘り出し物だが、若干20歳のロシア人姉妹が往年の昭和歌謡の王道ともいえるメロディーを見事な日本語で歌い上げ、古き良き時代への憧憬と郷愁を感じさせてくれる、実に面白い１枚だ。

アラヒス