いわゆるひとつの “昭和歌謡” の定義付けは人によって様々だろうが、私の中では西田佐知子「アカシアの雨がやむとき」(1960)あたりを起点にしてその後ザ・ピーナッツがしっかりと基礎を築き、60年代後半に筒美京平を始めとする新進ライターがアメリカン・ポップスの黄金時代を支えたブリル・ビルディング方式のようにヒット曲を量産、1970年代に入って百花繚乱の時代を迎えた、という認識だ。因みに笠置シヅ子を始めとする1940年代後半、いわゆる敗戦直後のヒット曲はこれまた独特の雰囲気を湛えており、私は “戦後の流行歌” として一つのジャンルだと思っている。で、その間の空白の1950年代を埋める存在が江利チエミというワケだ。何と言ってもミュージック・ライフ誌の人気投票で1954年から61年までの8年間連続して1位だったというからその人気の凄まじさは想像がつくだろう。因みに1962年、その連続記録にストップをかけ、60年代を支配したのは他でもない最終兵器・ミコたんでした(笑)
私のような60年代生まれで70年代育ちの人間にとって、江利チエミという存在は接点すらなく、“名前は何となく聞いたことあるけど、歌も知らんし顔も知らん” 状態だった。そんな私が初めて彼女に関心を持ったのは2年ほど前のこと、KING RE-JAZZ SWING という一連の和モノ復刻シリーズのラインナップに彼女も入っており、曲目を見ると「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」や「チーク・トゥ・チーク」といった愛聴スタンダード・ナンバーが一杯入っていたので、 “歌手がハズレでも曲で聴ける” と思って試しに買ってみたのがキッカケだった。で、届いたCDの1曲目「クレイジー・リズム」を聴いてビックリ、めっちゃエエやん!日本の “自称” ジャズ・シンガー達が束になってかかっても敵わないような天性のリズム感に驚倒すること必至の名唱である。他のトラックも捨て曲ナシの大名盤で、私はその日から江利チエミの大ファンになってしまった。
彼女のCDはさすがはキングレコードというべきか(笑)、 “「テネシー・ワルツ」入れときゃそれでエエやろ” みたいな感じのやっつけ仕事的ベスト盤が多く、ファンが本当に聴きたいアルバムは既に廃盤になっているものが多くて集めるのに苦労したが、BOXセットを2種類とも買うなどして何とか主要音源はすべて入手できた。私の感想としてはやはり彼女は “歌謡曲の歌手” というよりはむしろ “ジャズやラテンといった軽音楽のスタンダード・ナンバーをカッコ良く歌うシンガー” という表現の方がしっくりくる。特にその比類なきリズム感とスキャットの巧さは天下一品だ。彼女は何かと言うとすぐにひばり・チエミ・いずみという “三人娘” として語られることが多いが、シンガーとしての江利チエミの偉業は過小評価されているように思う。
彼女の全盛期は先の人気投票の結果が示すように1950年代中盤から1960年代初めまでだろうが、この時期の彼女の録音はどれを聴いても傑作なのだから恐れ入る。私は1950年代のアメリカの女性ヴォーカル盤はかなり聴き込んできたが、一部のビッグ・ネームを除いてマイナーな歌手の稀少盤を探す暇があったら絶対に江利チエミを聴くべきだと思う。
彼女が素晴らしいのは、ただ単にオリジナルの模倣をするのではなく、日本人としての薫りというかアイデンティティーというものをしっかりと感じさせるヴォーカル・スタイルを貫いていることである。「テネシー・ワルツ」も、「カモナ・マイ・ハウス」も、「ガイ・イズ・ア・ガイ」も、カヴァーでありながらすべて彼女のオリジナル曲のように響くのは凄いとしか言いようがない。どの盤をアップするか迷ったが、今回は先の KING RE-JAZZ SWING と共に日頃から愛聴している「SP原盤再録による江利チエミヒット・アルバムVol.2」にしよう。
私がこのCDを買ったのは一にも二にも③「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を聴くためだった。実はこの曲には2テイクあって、他のCD に入っているのは全てカール・ジョーンズ編曲のリメイク・ヴァージョンなのだが、私は SP で発売されたオリジナルの村山芳男編曲ヴァージョンの方が圧倒的に好きで、それが聴けるのはこのCDをおいて他にないからだ。オリジナルの方は多分マスター・テープの状態が悪いのだろう。彼女の場合、同じ曲を何度も再録音している(←「テネシー・ワルツ」なんて4ヴァージョンもある...)ので CD を買う時は注意が必要なのだ。
この CD には他にも英語から日本語へのスイッチが絶妙な⑤「裏町のおてんば娘」や⑦「恋人よ我に帰れ」、⑬「セプテンバー・ソング」といった珠玉のスタンダード・ナンバーが収められており、それが SP 独特の温もりのある音(←針音はないのでご安心を!)で聴けるのだからたまらない(≧▽≦) とにかく百聞は一聴にしかず、どこかにエエ女性ヴォーカル盤はないかなぁ...とお探しのご貴兄にオススメのスタンダード・ヴォーカル・アルバムだ。
Chiemi Eri - THE NAUGHTY LADY OF SHADY LANE
Chiemi Eri - ON THE SUNNY SIDE OF THE STREET
私のような60年代生まれで70年代育ちの人間にとって、江利チエミという存在は接点すらなく、“名前は何となく聞いたことあるけど、歌も知らんし顔も知らん” 状態だった。そんな私が初めて彼女に関心を持ったのは2年ほど前のこと、KING RE-JAZZ SWING という一連の和モノ復刻シリーズのラインナップに彼女も入っており、曲目を見ると「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」や「チーク・トゥ・チーク」といった愛聴スタンダード・ナンバーが一杯入っていたので、 “歌手がハズレでも曲で聴ける” と思って試しに買ってみたのがキッカケだった。で、届いたCDの1曲目「クレイジー・リズム」を聴いてビックリ、めっちゃエエやん!日本の “自称” ジャズ・シンガー達が束になってかかっても敵わないような天性のリズム感に驚倒すること必至の名唱である。他のトラックも捨て曲ナシの大名盤で、私はその日から江利チエミの大ファンになってしまった。
彼女のCDはさすがはキングレコードというべきか(笑)、 “「テネシー・ワルツ」入れときゃそれでエエやろ” みたいな感じのやっつけ仕事的ベスト盤が多く、ファンが本当に聴きたいアルバムは既に廃盤になっているものが多くて集めるのに苦労したが、BOXセットを2種類とも買うなどして何とか主要音源はすべて入手できた。私の感想としてはやはり彼女は “歌謡曲の歌手” というよりはむしろ “ジャズやラテンといった軽音楽のスタンダード・ナンバーをカッコ良く歌うシンガー” という表現の方がしっくりくる。特にその比類なきリズム感とスキャットの巧さは天下一品だ。彼女は何かと言うとすぐにひばり・チエミ・いずみという “三人娘” として語られることが多いが、シンガーとしての江利チエミの偉業は過小評価されているように思う。
彼女の全盛期は先の人気投票の結果が示すように1950年代中盤から1960年代初めまでだろうが、この時期の彼女の録音はどれを聴いても傑作なのだから恐れ入る。私は1950年代のアメリカの女性ヴォーカル盤はかなり聴き込んできたが、一部のビッグ・ネームを除いてマイナーな歌手の稀少盤を探す暇があったら絶対に江利チエミを聴くべきだと思う。
彼女が素晴らしいのは、ただ単にオリジナルの模倣をするのではなく、日本人としての薫りというかアイデンティティーというものをしっかりと感じさせるヴォーカル・スタイルを貫いていることである。「テネシー・ワルツ」も、「カモナ・マイ・ハウス」も、「ガイ・イズ・ア・ガイ」も、カヴァーでありながらすべて彼女のオリジナル曲のように響くのは凄いとしか言いようがない。どの盤をアップするか迷ったが、今回は先の KING RE-JAZZ SWING と共に日頃から愛聴している「SP原盤再録による江利チエミヒット・アルバムVol.2」にしよう。
私がこのCDを買ったのは一にも二にも③「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を聴くためだった。実はこの曲には2テイクあって、他のCD に入っているのは全てカール・ジョーンズ編曲のリメイク・ヴァージョンなのだが、私は SP で発売されたオリジナルの村山芳男編曲ヴァージョンの方が圧倒的に好きで、それが聴けるのはこのCDをおいて他にないからだ。オリジナルの方は多分マスター・テープの状態が悪いのだろう。彼女の場合、同じ曲を何度も再録音している(←「テネシー・ワルツ」なんて4ヴァージョンもある...)ので CD を買う時は注意が必要なのだ。
この CD には他にも英語から日本語へのスイッチが絶妙な⑤「裏町のおてんば娘」や⑦「恋人よ我に帰れ」、⑬「セプテンバー・ソング」といった珠玉のスタンダード・ナンバーが収められており、それが SP 独特の温もりのある音(←針音はないのでご安心を!)で聴けるのだからたまらない(≧▽≦) とにかく百聞は一聴にしかず、どこかにエエ女性ヴォーカル盤はないかなぁ...とお探しのご貴兄にオススメのスタンダード・ヴォーカル・アルバムだ。
Chiemi Eri - THE NAUGHTY LADY OF SHADY LANE
Chiemi Eri - ON THE SUNNY SIDE OF THE STREET