一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

渋谷界隈

2016-10-02 08:12:42 | 名所



         10月、神無月の出発もお天気が芳しくない。
         
         そんななか、用事で渋谷に行き、ちょっと時間
         が空いたので与謝野晶子が鉄幹と住んだあたり
         を歩いてみた。

         道玄坂を少しのぼって、左手にあるロッテリア
         を曲がり、迷いに迷ってようやく見つかった。
         「東京新詩社跡」と書かれた表示(モニュメント)
         である。

         鉄幹は前の妻との生活を精算してここに家を借り、
         大阪・堺から家出同然に出てきた晶子を迎え入れ
         た。現在の大都会の雑踏が想像しにくい、
         まだ渋谷村と呼ばれていた頃である。

         晶子もまだ田舎からぽっと出の娘のようであった
         ろう。おもしろいエピソードがある。
         与謝野家に長くいたお手伝いさんは前の奥さんに
         加担して、髪の長い晶子をお化けのようだと
         悪口を(前の奥さんに)告げたという。

         そんなことはどこ吹く風、晶子はのびのびと歌作
         に専念し、その才能をいかんなく発揮した。

         当時、鉄幹は旧態依然とした歌壇の世界を変え
         ようと「明星」を発表し、文壇の風雲児として
         一躍脚光をあびていた。
         一方の晶子も同棲二ヶ月にして歌集「みだれ髪」
         を出版、歌壇を仰天させた。

         「その子はたち櫛に流るる黒髪の
                  おごりの春の美しきかな」
         「やわ肌のあつき血潮のふれも見で
                  さびしからずや道を説く君」

         
         こののびやかな歌はどうだろう。
         現在(いま)みても実に奔放な歌である。
         斬新でセンセーショナル、挑戦的ですらある。
         それは文壇のみならず社会に大きな衝撃をあたえ、
         批評が錯綜した。

         歌人の佐々木信綱は
         「著者は何者ぞ。あえて此の娼妓、夜鷹輩の口に
          すべき乱倫の言を吐きて、淫を勧めんとはする」
         と晶子を売春婦扱い。

         一方で評論家の高山樗牛は
         「その歌詞新たにして高く、情清くして濃。たしか
          に一家の風格を備えたり」
         と絶賛した。

         旧い文壇の体質にあきあきしていた若者の心を
         とらえたことはいうまでもなく、新詩社には文学
         を志す青年がたくさん押し寄せた。
         その中には石川啄木や北原白秋などもいた。

         鉄幹と晶子が渋谷に住んだのは四年間である。                        
          

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