蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

血盟団事件

2017年11月21日 | 本の感想
血盟団事件(中島岳志 文芸春秋)

1932年、時の蔵相井上準之助と財界人の団琢磨が暗殺された血盟団事件を、首謀者井上日召とその関係者の視点から描くノンフィクション。

井上は群馬県の出身で、旧制中学を卒業後、日露戦争の病院船の船員となるが、上司とけんかして造船所で働く。これも長続きせず群馬に戻って教員になるがすぐやめる。兵役のために東京に行き、その後大学に入る。しかしここもやめて満州に行って満鉄に雇われてスパイまがいの活動をするがうまくいかないので、郷里に帰り実家の近くの小屋に引きこもって禅の修行のようなことをする。その後国粋的団体に誘われて上京するが思うようにならず、そのころ結婚して子供もできるが家庭を全く顧みない。紹介する人があって大洗の寺院(護国堂。今でも存在しているそうである)で宗教活動をし、地元の青年たちを魅了する。やがて東大や京大で政治活動をする学生や海軍の軍人たちとも関係ができ・・・

といった調子で井上は流転を繰り返すのだが、印象としては随分あきっぽい人だなあ、と思えた。

また、若者を政治的に過激化させるのは、いつの世も、定職がないことなんだなあ、とも思えた。
今は人手不足の日本だが、やがて高い失業率に苦しむことになるであろうことは先進国の宿命のように思われる。その時も安定した社会が維持できるのかは、かなり怪しいと思う。

血盟団事件は五・一五事件のさきがけとなった出来事だったのだが、五・一五事件の首謀者たちはむしろ英雄視された面もあったそうで、血盟団の関係者への処分が私が想像したより随分軽かった(井上は恩赦によって1940年には出所したそうである)のはその影響だろうか。

戦後の大物フィクサーと言われた人たち(安岡、四元、児玉、赤尾など)がチラホラ登場するのも興味深かった。
我ながら無知なことに四元さんが元テロリストだったなんて知らなかった(;''∀'')。
本書の中に中曽根元総理のインタビュウが収録されていて、その中で四元さんのことを尊敬に値する的に評しているのだけど、大勲位が元テロリストを称賛していいものなんだろうか??
まあ、レーニンやゲバラなど今や偉人風な方も元テロリストなんだけどね。

本書は、ある書評誌のあるランキングで2位に推されていたので読んでみたのだが、事実を書き連ねる学術書のような内容だったので読み進むのに苦労した。このランキングにはよく20世紀初頭を舞台としたノンフィクションが上位に登場するのだけど、どれもイマイチ面白く読めないんだよなあ。

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